第9話 文明の輝きと友情の始まり
地下都市の広場に出ると、海斗は息をのんだ。
光ゴケが淡く照らす空間には、培養された植物が整然と並び、空気は清浄で微かに温かい。
風もなく、昼夜の概念もない、静かだが生きている世界。
「す、すごい……」
海斗は思わず呟く。
「こんな場所が本当に存在するなんて……」
アインは翻訳機を通して、淡々と説明する。
「光ゴケは照明と食料の両方を兼ねています。地熱エネルギーを利用して生活と都市機能を支えています。地下都市は、ジェレスの理念に基づき設計され、資源は完全に共有されています」
海斗は目を輝かせ、都市の奥へ歩を進めた。
「植物も光も、ぜんぶ人工……でも自然に見えるな」
「はい、自然の再現と効率の最適化です」
アインの声は冷静だが、海斗には少し柔らかく感じられた。
ふと海斗は立ち止まり、振り返った。
「……アイン、俺……」
海斗は翻訳機を通さず、思い切って口にした。
「敬語はやめませんか?俺はあなた方と友達になりたいんです」
アインは少し間を置いた。
科学者として、感情を表に出すことは少ない。だが、翻訳機を通しても、海斗の真剣な瞳と強い意志は伝わった。
「……わかりました」
アインは初めて少し笑みを浮かべるように頷いた。
「あなたを観測対象ではなく、例外的な存在として受け入れます」
海斗は嬉しそうに肩を揺らす。
「よし!これで気楽に話せるな」
二人は都市内を歩きながら、光ゴケの下で培養される植物や、静かに稼働する装置の数々を観察した。
海斗の驚きは尽きず、質問は止まらない。
「この光ゴケ、夜も食料になるのか?」
「地熱は都市全体を動かす力になるのか?」
「建物の壁、必要な時だけ出てるの?」
アインは一つ一つ答え、時折細かい調整を施す。
海斗の目には、科学と合理が作り出したこの地下都市の全貌が、鮮明に映っていた。
歩きながら海斗は小さく笑った。
——こうして俺は、地底文明の秘密に触れるだけじゃなく、
この世界で最初の友達を作ったんだ——と。
光ゴケの柔らかな光に包まれ、地下都市は静かに、しかし確かに生きていた。




