第8話 地底文明の秘密
海斗はゆっくりと地下都市を歩いた。
光ゴケの柔らかな光に照らされ、壁も床も天井も滑らかに反射する。
静寂の中、微かに機械音や遠くの人影の気配が漂う。
「……この文明、いつ頃からあるんですか?」
翻訳機越しに海斗が訊ねる。
アインは静かに答えた。
「およそ四千四百年前。人類が大洪水により地上を失った時代です」
海斗の目が大きく見開かれる。
「そんな……俺たちの歴史のずっと前の話……?」
「はい」
アインは都市を見渡しながら続ける。
「この文明の祖は、ジェレスという名の科学者です。原子を分解する技術を完成させ、原子潜水船ファントムを建造しました」
海斗は言葉を失った。
「原子潜水船……あの、山で見た……」
アインは微かに頷いた。
「あなたが目撃したものは、彼の発明の一つです。ジェレスは自由、博愛、平等を信じる人物でした。彼に賛同した者たちは地下に潜り、人類を滅びから守ろうとしました」
海斗は心の中で静かに息を呑む。
「……ジェレスさんが、この文明を作ったんですか……?」
「はい」
アインの声は淡々としていたが、その奥には敬意が含まれているように感じられた。
「彼は争いを嫌い、資源は共有すべきだと考えました。地上に戻ることは禁じられ、文明の成長と観測に専念することを使命としました」
海斗は目を見張る。
「争いを避けるために、地下で……ずっと?」
「はい」
アインは通路の壁に沿って歩きながら、光ゴケの光を指さす。
「この光も、農業や生活を支える光ゴケも、すべて彼の発想から始まりました。地下都市の設計、資源の管理、生活のあり方――彼の理念が今の文明を形作ったのです」
海斗は胸に手を当て、静かに考えた。
——4400年前、ジェレスが人類を救おうとした時、
その理念がここまで大きく、秩序と美を生み出していたのか……。
「そして今、私はあなたに案内しています」
アインの声が翻訳機越しに響く。
「あなたの目で、そして心で、この文明を知ることができます」
海斗は小さく頷いた。
「……わかりました。全部見せてください」
静かな地下都市を歩きながら、海斗の心には畏敬と好奇心が同時に芽生えていた。
遠い過去のジェレスの意思が、この都市に、そしてアインに受け継がれていることを、海斗は肌で感じたのだった。




