第7話 記憶制御装置と断片の記憶
地下都市の通路を進む海斗は、光ゴケに照らされた空間の美しさに圧倒されていた。
壁や床は柔らかく光を反射し、静かな空気が足音を吸い込む。
どこか神秘的で、現実とは隔絶された世界。
アインは無言で先を進み、やがて小さな部屋に海斗を案内した。
そこには無数の装置が整然と並び、中央にはひときわ目を引く機械が置かれている。
「これは……?」
海斗の目が釘付けになる。
アインは翻訳機を通して説明する。
「記憶制御装置です。あなたの記憶を消去するために使いました――つもりでした」
海斗は思わず後ずさる。
「消した……って、でも……俺、覚えてる……」
アインは静かに頷く。
「強い意志を持つ個体には、断片的な記憶が残ることがあります。あなたは例外でした」
海斗は装置を間近で見つめる。
パネルには複雑な回路と、微細に光るデータの流れ。
何もかもが理知的で、しかし威圧的ではない――
まるで意識を持ったかのように、淡々と働き続けている。
「つまり、俺が見たこと、感じたこと……全部消えるはずだったのに、残っちゃったってことか」
海斗の声は少し震えていたが、恐怖よりも好奇心が勝っていた。
アインは冷静に言葉を続ける。
「あなたの意志の力は計算外でした。だからこうして、記憶の一部がまだ残っています。危険な存在ではないと判断しました」
海斗はふと笑った。
「……そうか。俺、無意識にでも逃げ切ったのか」
アインはその笑みに反応せず、ただ静かに微調整用のパネルを操作する。
小さな光の点が回路内を行き来し、装置の力が微かに空気を震わせる。
「あなたのような個体が、時折、この都市の観測対象に現れるのです」
海斗は深呼吸し、装置を見つめたまま言った。
「……信じられない。こんな技術が、存在するなんて」
アインは翻訳機を通して答える。
「これは、地底文明のほんの一部です。あなたに見せるのは特例です。今後も記憶は保たれますが、地上に戻る時は安全のため、内容を制御される可能性があります」
海斗は装置を胸に刻むように見つめた。
消えかけた記憶と、残った断片――
それは地上の世界に戻った時、自分だけの秘密となる記憶の核になることを、直感で理解していた。
地下都市の光に包まれながら、海斗の胸には不思議な高揚感が広がっていた。
「この世界……すごすぎる……」
——こうして、海斗は地底文明の科学力の一端と、
自身の記憶を巡る危うさを体感することになった。
そして、静かにだが確実に、地底世界への理解と好奇心が芽生え始めたのだった。




