第6話 地底世界
光の帯に従って、海斗は慎重に足を進めた。
山の岩肌をくぐり抜けるように、どこか透明で柔らかい壁の間を進む。
まるで空気自体が道を作ってくれているかのようだった。
「……ここは……地下……?」
翻訳機を通しても、自分の声が少し震える。
アインは微笑を浮かべるわけでもなく、静かに頷くだけだ。
しかし、その冷静さが、海斗には安心感を与えた。
通路を抜けると、視界が一変した。
広大な地下空間に、淡い緑色の光が浮かんでいる。
光源は天井ではない。地面や壁、空中に浮かぶ小さな光――
アインが説明する。
「光ゴケです。光と食料の確保に使われています」
海斗は口を開け、言葉を失った。
光が柔らかく揺らめき、まるで昼の空のように空間を満たしている。
自然の太陽ではないのに、この空間に生命の息吹を感じさせた。
歩きながら、周囲の構造に目を凝らす。
通路は直線でも円形でもない、不規則だが無駄のない設計。
壁は必要に応じて現れるらしく、時折透明な空間が広がる。
まるで建築が意識を持っているかのようだ。
「……こんな場所が、人類に……?」
海斗は小声で呟く。
翻訳機を通さずとも、アインは理解したかのように静かに頷く。
さらに歩みを進めると、遠くで人影が動く。
地底人だ――人の形をしているが、どこか異質な静けさをまとっている。
海斗の存在に気付くと、すぐに振り返り、微かな会釈を返した。
敵意は微塵も感じられない。
「ここでの生活は、争いとは無縁です」
翻訳機を通してアインの声が届く。
「皆、研究や観測、思索に従事しています。生活に必要なものはすべて共有され、管理されています」
海斗は息を飲む。
科学と自然が、これほどまでに調和している空間を、現実に見たことがない。
視線を上げると、光ゴケの淡い光が壁や天井に反射し、まるで地下に広がる静かな夜空のようだった。
そしてアインは少し距離を置き、海斗に問いかける。
「あなたは、怖くないのですか?」
海斗は一瞬迷ったが、翻訳機を通して答える。
「……怖い。けど、知りたい。何もかも、知りたいんだ」
その答えに、アインは静かに頷く。
海斗の目には、好奇心と覚悟が宿っていた。
観測対象としてだけではなく、人として、向き合える存在――
そう判断した瞬間だった。
地下世界の空気を吸い込み、光ゴケの光に照らされ、
海斗の心は少しずつ、地底文明のリズムに溶け込んでいった。
——こうして、須藤海斗は、地上では想像もできなかった世界の片鱗に触れ、
新たな好奇心と緊張感の中で、静かに歩みを進めた。




