第4話 微かな痕跡
須藤海斗が目を開けた時、
そこは見慣れた登山道の途中だった。
空は青く、風がそよぐ。
登山計画通りの景色――のはずだった。
だが、胸の奥に、奇妙なざわめきが残る。
夢……それとも幻覚か。
手元のカメラを確認する。
特に異常はない。
岩肌も、木々も、何も変わらない。
しかし、目を細めて遠くを見ると、
ごくわずかに景色が揺れる瞬間がある。
山肌が、空気が、わずかに波打つ。
その瞬間、脳裏に浮かんだのは、
透明な流線型の影、山中に埋まった潜水艦――
あれは夢じゃなかった、という確信。
そしてさらに――
湖のほとりで、水面がゆらぎ、奇妙な形が浮かんだ。
人や魚ではない。
巨大で、首の長い影が、水中に潜む。
――まるで神話の怪物。
「……ネッシー……?」
自分でも笑ってしまうほど非現実的だ。
だが、心の奥でざわつく感覚は、地底文明を思わせるものだった。
その後も、空を見上げれば奇妙な光が瞬く。
夜空ではない。昼の空の青に溶け込む、UFO型の光の粒。
目を凝らすと、ゆっくりと飛ぶその形が、
まるで意思を持つかのように動く。
須藤は頭を抱える。
地上の常識では説明できない。
けれど確かに見た。
記憶は消されても、感覚だけは残っている。
胸の奥で、かすかに響く声の残像。
「観測対象、確認済み」
無意識に振り返るが、そこには誰もいない。
ただ、風が少し強くなっただけ。
——こうして、須藤海斗は再び現実に立った。
だが、目に見えない地底文明の痕跡は、
日常の隙間に、ひっそりと潜んでいた。
海斗は決意する。
もう一度、あの“存在”を確認しなければならない。
その道は、地上と地底を繋ぐ長い橋の始まりだった。




