第二話 居場所を失った日
目を覚ましたとき、外での争いはすでに終わっていた。
耳に入ってくるのは、壊れた町を修理する音だけ。
叔母さんの姿は、どこにも見当たらなかった。
起き上がろうとして、また転ぶ。
体が重い。
膝が震え、息がうまく吸えない。まるで――体が、俺のものじゃないみたいだった。首元のネックレスに目を落とす。光はなく、母さんにもらったときと同じ姿のままだ。
隠れ家を出た瞬間、言葉を失った。町外に住んでいた人々は、ほとんどが死んでいた。水堀は血に染まり、外城は完全に壊滅している。
町内は占領こそされていないが、被害は大きい。壁の修理が、すでに始まっていた。
亡くなった人々が集められた場所へ向かうと、そこに、泣き崩れそうになっている叔母さんの姿があった。
……おじさんが、戻っていなかった。
そのとき――
「あいつだ!」
人混みの中の誰かが、俺を指さした。
「絶対にあいつのせいだ!」
「町外の人間を中に入れたからだ!」
「外の者は不吉なんだ!」
視線が、一斉に突き刺さる。叔母さんは、俺を見なかった。
「……叔母さん」
しばらくして、低い声で言われた。
「クタイ。町外の人は、魔物だって言われている」
「弟が外の者と結婚したから……信じたくはなかった」
「でも、あのネックレスを見てから……疑ってしまった」
――ここに、もう居させてやれないかもしれない。
その言葉は、言われなくても伝わってきた。
人々の囁きの中で、俺は決めた。
町を離れた。
山の方へと、ただ歩いた。
立ち止まり、ネックレスを握る。
――光らない。
それが、妙に怖かった。
あの力の記憶も、
家族の行方も、わからないまま。
俺はまだ、何者でもない。
山影に身を隠したまま、日が沈むのを待った。空は赤黒く濁り、燃え残った町の匂いが風に乗って届く。腹が鳴った。怖さより、空腹のほうが現実だった。
夜が完全に落ちてから、俺は城壁の修理が終わっていない裏手に戻った。見張りはいるが、皆疲れている。瓦礫の影を選び、息を殺して進む。足音一つで終わる、それでも戻らなきゃいけなかった。
叔母さんの家は、半分焼け落ちていた。扉は歪み、鍵も意味をなしていない。中に入ると、静かすぎて耳が痛くなった。棚から乾いたパンと干し肉を袋に詰める。
そのとき――
「……クタイ?」
振り向くと、叔母さんが立っていた。目は赤く腫れているのに、声だけが妙に落ち着いていた。
「もう、戻ってこないと思ってた」
「少しだけ。すぐ行く」
沈黙が落ちる。火の消えた炉の前で、叔母さんはゆっくり座った。
「町の人たちは怖がってる。理由が欲しいだけ。でも……」
叔母さんは俺の首元を見た。
「私も、あのネックレスが何なのか、本当は分からない」
「光った時のクタイは…人間じゃなかった。」
俺は何も言えなかった。
「外へ行きなさい。家族を探すなら、ここじゃない」
叔母さんは袋を押し返してきた。
「生きなさい。それが、あの人たちへの答えよ」
別れの言葉はなかった。俺は頭を下げ、家を出た。
夜の町を抜けながら、首の冷たい重みを感じる。
光らないネックレス。
寂しさの寒み。
それでも、歩き出すしかなかった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
続きも書いていく予定なので、よければブックマークや評価をお願いします!




