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第二話 鳥取で

米子から鳥取へ場所は変われど相撲一筋、漢(長谷川 力)誰に合うのか世話になりぱっなしでいいのか?力、それでも頑張れ!応援してるぞ。

列車が江尾を出て溝口に着くと「渉、降りんでいいんか?」と力が聞くと「ああ、どげしょもない。このまま米子迄行くわ」と答えて窓の外を見ていた。

力も黙ってしまった。

 溝口を過ぎてからしばらくして、渉が「リキさんは、このまま帰るんか?」と聞いて来た。力も「さぁ、どうしたらいいのか、帰りたいのか、帰りたくないのか、迷ってしまう」と答えると「陽子ちゃんのせいやろ」普通に言って来た。力はつい「うん」と言ってしまった。渉は「やっぱりな」と力の顔をじっと見た。力は、赤くなった。

 列車は伯耆大山に着いた。渉が「山陰線は、乗り換えやで」と力に言うと「そうか」と言って力は一人で降りた。列車が出ると渉の横に紙袋とカバンがあった。「なんじゃ、リキさんは、ぼーとしてカバンを忘れてどこへ行くんじゃろ?」仕方なく渉はカバンと紙袋を持って米子に着いた。渉は一回、山陰本線で伯耆大山まで戻ることにした。

渉が山陰本線で伯耆大山迄戻るとベンチに一人男が座っていた。「ははん、やっぱり座っとる」渉はベンチの前まで行ってカバンを力の膝の上に乗せた。するとまだ「ぼー」と渉を見た。力は「ああ、渉」と言ったきり黙ってしまった。渉は「どげするの?」と聞いた。

渉は、力の横に座って「漢 長谷川 力しっかりせえ」と声を掛けた。「このままじゃ陽子ちゃんを迎えには、いけんぞ、陽ママに貰った金一封しかないからな」と力を怒る様に声を掛けた。力は「そやな~そうだよな~」と答えた。「じゃ、行くか?」と力が立ち上がった。渉が「どこへ?」と聞いた。力は「まずは、京都やそこで巡業先を探して、分からんかったら東京や」渉は聞いた「東京?」渉は繰り返した「東京か」もう一回繰り返した「東京ね~」渉は「俺も行く」又繰り返した「俺も行くぞ」力が「なんで?」と聞いた。

渉は「分からんけど、行く東京へ」と言って来た。伯耆大山で二人は降りた。

 降りた二人は京都までの切符を買って汽車を待った。こうして力と渉は、山陰本線で京都を目指した。

汽車で一時間くらいゆられて渉が「リキさん、お腹が空きましたね、昼を過ぎてるから」力も「そうじゃなぁ腹ペコじゃ、ここは何処じゃ?」

「この次は、鳥取駅ですね」「うまいものがあるの?」と力が聞いて来た。

渉は「冬なら、松葉ガニ、夏は岩ガキだね」「じゃ今は岩ガキ?」「ですね」「じゃ、いく?」

「どこへ?」「岩ガキを味見に」「鳥取なら賀露港だね」「じゃ、いくか?」「行こう」

二人は、鳥取で汽車を降りてしまった。途中下車をした。

二人は賀露港に行って、食べに食べた岩ガキに白いかの造り、ビールを頼んでのどぐろの煮つけ、どんぶり飯を大盛で平らげた。

「リキさん、砂丘はどうする?」「どうするって?」「鳥取名所砂丘だよ。砂の丘」「いくの?もう、動くの面倒やし食べれんし駅へ行こう時間がないし」二人は砂丘をあきらめて駅へ帰って来た。

「おい渉、カバンは?お前の紙袋はどうした?」と聞いて来たが渉は「あれ~リキさんが持っているんじゃなかったの?」「どこじゃ?カバンはお前の紙袋は」「どこかに忘れたんじゃね。なんちゅう店やったかな~忘れてしもた」「どうする?」「どげしょ」二人は途方に暮れた。渉が、「まずは交番へ届けないと」と、言う事で二人は、鳥取駅前の交番へ行って遺失物届を出そうという事になった。

力が「渉、お金を貸して、なんか食べないとまた腹が減って来た」「あれ~リキさん財布は?」「そんなものは無い」「そんな物って財布だよ」「だから、そんな物」「じゃ、お金は?」「封筒にいれたままだよ。分かるやろ」「分からん」「じゃ、お前は何処に入れているんじゃ?お金を」「紙袋に封筒のまま」「それを忘れた」「よくおわかりで」「じゃ、二人とも文無しじゃないか」「そういうこっちゃははは・・・」「わらいこっちゃないで、こまったもんや」「で、どうする?」「さぁ~どうしよう」「まっ、交番でも行って落とし物届を出すか?」「ああ、それしか無いか」二人は、駅前の交番へ行って落とし物届を出した。

巡査も親切に聞いてくれた。巡査はいつまでも帰らない二人に「届け出は、出しとくから帰ったら」と、言って来た。力は「帰りたいけど、どこへ?帰ればいいのか分からない」

渉は「無一文の二人を追い出しますか?何か悪い事をするかも」と、巡査に詰め寄った。

巡査も「私には、どうすることも出来ません。悪い事をしたら逮捕します」と、はっきり断って来た。

二人は交番を出ようと出口へ行くと。そこへ紙袋とカバンを持った若い女性がやってきた。

「すいません。この袋とカバンが忘れ物だと思いますが落ちていました」と言うではないか。渉と力は顔を見合わせて振り返った。

巡査が「いま、この落とし物の話をしていた所です」と女性に話しかけた。「拾ったのは、どこですか?」と女性に聞いた。「え~と、賀露港の土産物売り場の近くです」「何時ごろですか?」「さぁ、二時間ぐらい前ですか」「はい、わかりました。ここに住所と名前を書いて」巡査の言うとうりに女性は自分の住所と名前を書いた。住所と名前を見た巡査が「あの辺の土井さん?土井建設の?」と聞いていた。

女性は小さな声で「はい」と答えていた。

入口付近で見ていた渉と力は顔を見合わせて待って居たが、巡査はすぐには何も言わなかった。

渉が女性の書いた物を覗こうとすると巡査は、書類をさっ、と隠した。

渉は「なにも悪い事していないやろ」巡査は「お届けありがとうございました。だろ、これは個人情報になるから見せられない」と渉を押しのけて言い聞かせた。

「話からするとこの荷物に間違いなさそうやが、そちらの方もこっちに来て、で、中身は何が入っていましたか?」と渉と力に聞いて来た。

渉は「着替えと封筒が二つ」「そちらは?」と力に聞いた。力は「着替えと封筒が二つそれと浴衣が一枚帯が一本」巡査は「まちがい無さそうやが、封筒の中身は?」

渉は「封筒には一つは明細書とお金が少し。もう一つはお金だけで二万と五六千円が入っているはずだけど」

巡査が「明細書はあるが、お金はないな」「え~無い」渉は、がっかりして女性を見た。

巡査は「そちらの方は、封筒にいくら入っていましたか?」と今度は、力に聞いて来た。

力は「明細書の入った封筒には五千円と小銭、もう一つの封筒には二万五六千円入っていたと思います。巡査は確認をしようと、カバンを開けたが、封筒には、何も無い。

「残念やが、現金は何にも無い。ほれ」と封筒を渡した。二人は顔を見合わせて悔しそうな顔をして、落とし物を届けてくれた女性をを見た。女性は首を横にフリフリして、「私じゃありませんよ~」と言いたげに二人を見た。

巡査は女性と二人の間に入って「この方は親切に届けてくれた方やで、そういう目で見ないように」と二人をなだめた。が、二人は途方に又暮れた。二人は溜め息を付いた。力は「金も無い、泊まる所もない。どうする?渉」渉も「どげしょもないわ」と溜め息を付いた。

巡査も二人を見て溜め息を付いた。この時女性が「もし、よかったら、私が父に相談して、みましょうか?」「え~良いんですか?」と巡査が一番に言った。

渉と力は顔を見合わせて驚いた。女性は「はい」と、言って電話を家に掛けた。「もしもし、ママ?パパ居る?居たら電話に出て」と言いながら渉と力を見た。「パパ、今駅前の交番はい、で、ちょっとお願いがあるの・・・・・」巡査が二人を交番の外に連れ出して「良かったな」と言い出した。

渉が「なにが?」力は欠伸をしていた。渉が巡査に「何がどうなっているんだい」巡査は「何とか野宿は免れたみたいやな」と言った。

それから暫くしてトヨタのランドクルウザーに乗った、いかついおっさんが降りてきた。「おお、この二人か晶子、おい晶子」すると「パパ、そうこの二人よ、お金が無くて,泊まる所も無いの、だから会社で何とかならないかと思って、電話したの」土井パパは、二人を上から下までじっくりと見ると「むん~ん、いいだろ」と答えた。「パパありがとう」渉は「パパ、ありがとう、だってさ」と力に言った。土井パパは、二人に「いいのかい、うちで?」と聞いた。二人は、うなずいた。土井パパに付いて行く事にした。土井パパが「あんたら、飯は?」と聞いてくれた。渉はすぐに「はい、いただきます」と答えた。土井パパは「よっぽど腹が減っているらしいな」と言って焼肉屋へ晶子と二人を連れていった。二人は食うわ食うわ土井パパがビックリするほど食った。四人を乗せたランクルは、宇部神社の近くの土井建設の社員寮へ着いた。

土井社長は寮長に「この二人や、明日からアルバイトで働くからよろしく頼むで」と言って晶子と二人で又ランクルに乗って近くの家に帰っていった。二人は土井建設の寮の一部屋に案内され「この部屋を使って」と言われて部屋を見た。物が散らかっている。「まー、かたずけて好きに使って」と言わた。渉と力は顔を見合わせて笑った。力は「なんだかな~」と言った。渉も「どげしょもない」半分諦め顔で、二人は、物を横にずらして座った。布団もない、部屋で二人は「夏でよかったな」クーラーは部屋に付いていた。「窓を開けると虫が入るからな」と渉が言った。力は部屋を出て外に出た。建物の外には建設用の物がいっぱいで力は「四股をする場所はありそうだ」と独り言を言った。

次の日朝早く起きた力は、浴衣姿で外に出て浴衣を脱ぐと褌一帳で四股を踏んだそこの後は鉄砲だ、適当な物がなかったので重機を素手で叩いたそのあと腰を下ろしてすり足をする。すっかり汗でびっしょりになった。外の水道で顔を洗って汗を拭くとすっきりした。部屋へ入って渉を起こした。「おい渉、もう起きろよ」「ああ、リキさんか?おはよう今日は十七夜だね」「ああ、そうだったな、元気かな」と、返事をした。しばらくして、お腹が「ぐう~う」と鳴った「渉、ここには朝飯は無いんかな?」渉は「さあ、どうだろう」と答えた。そこへ土井建設の寮長がやって来た「おい、新入り早く飯を食わないと、仕事に遅れるぞ」と、二人に言って来た。力は「何処に、ありますか朝ご飯?」と聞いた。すると寮長は「入口の食堂や」と教えてくれた。二人はあわてて食堂へ行った。まだ、二人分の朝飯が残っていた。二人は食べた、お代わりをしたかったが、寮長が「時間がないぞ、早く支度をして」と急かされて着の身着のままで、別々の車に乗った。二人は別々の現場に付いた。二人は別々の仕事をして夕方寮に帰って来た。力は物を運ぶ力仕事だったが、渉はセメントを作る力仕事だった。二人とも慣れない仕事で、くたくただった。特に渉にはきつかった。力は「渉、飯を食べないとへばってしまうぞ」と言って渉に肩を貸して食堂へ連れて行った。渉はそれでも頑張って食事をした。あとは部屋へ帰って倒れた。力は、渉と自分の服を洗濯した。「明日までに、乾くかなあ」と心配をして外で力が洗濯物を干していると、ランクルが来た。晶子が現れて「長谷川さん、渡辺くんは?」「ああ、寝ています」「これ、よかったら使って」と言って着替えの服と作業服を持って来てくれたのだ。力は、思わず「ありごっちゃんで」と答えてしまった。「あっ、すいません。思わず出てしまって」晶子は「ありごっちゃんが?うふふ」と笑顔で力を見つめた。力も笑った。寮の窓から何人かが二人を見ていた。晶子は「じゃ、ね。おやすみなさい」とランクルに乗って帰って行った。力は貰った服と作業服を持って部屋に帰った。部屋では渉がまだ伸びていた。「おい、渉、起きろ、おい」と力が無理やり起こした。「む~ん、なんだい?」「ほれ、これ、着替えと思うけど開けてみろよ」と晶子から貰った服を渡した。渉は、開けて見た。中にはタンクトップとパンツが入っていた。渉は見て笑った「これは?だれの?」「そんな形はお前だろ」「これは、女物じゃないの?」「ははは・・・やっぱり」「おフランスか?ははは・・・」どうやら晶子は、女物のおばちゃんパンツとタンクトップを渉用に買って来たらしい。力の分を見るとパンツは大きなおばちゃんパンツだった。タンクトップは一緒で大きいサイズだった。渉が「これ、はくの?おれが?」力は「おれは、褌があるからパンツは要らんわ。お前にやるわ渉、作業服を着れば見えんやろ」と言った。渉は「でしょうが、恥ずかしい」力は「その、恥ずかしいから男物をよう買わなかったんや、だから女物を買ったんや晶子さんが買って来てくれたんや、どう我慢して答えて行くかや」と変な理屈をこねた。渉は「せめて、男物であってほしかった」と、力を見た。

力は「いま洗って干したから乾くやろ、一日だけの辛抱や」「でも、おれのプライドは」

「そんなものがあったんかいな?知らんかったわ」そんなこんなで夜も暮れた。

真夜中に又、力は起きた。褌いっちょうで四股を踏んで腰を下ろして両手を付いて「はっきょよい」と小さく言って一歩二歩すり足で進み両手を前に勢いよく出した。それを二回三回と繰り返した。また戻って腰を下ろして繰り返した。それが終わると両手を合わせて「神様、ありがとうございました」と小さく言って部屋へ帰って行った。

次の日、力はいつもどうり朝早く起きるといつもどうりに、四股を踏み鉄砲をして腰を下ろして歩いていた。すると寮長がやって来て「おい、こいつか?」「そう」「よし、おい、新入り」「俺の事?」「そうだ、おまえ昨夜、洗濯をしたろ?」「ああ、したよ」「洗剤はどうした?持っていたのか?」「いいや、洗濯機の上に在った洗剤をつかったけど、なにか?」寮長は「やっぱりな、人の物を黙って使うのは、泥棒と同じじゃ」「ああ、他の人の物でしたか、どうもすいません。今は、一文無しで後で返しますから、かんべんしてください」と謝った。寮長は「そうか気をつけろよ」と言って帰って行った。力が部屋に帰ると渉が「どうした?」と聞いて来た。力は今朝、寮長に言われた事を渉に話した。渉が同じ間違いをしないために「渉も気をつけろよ。問題を起こすと、晶子ちゃんに迷惑がかかるから」と言った。すると渉が「晶子ちゃん?いつからそういう仲になったんでしょうか?」と笑った。力は顔が赤くなった。

夕方、力が帰って来ると、渉はもう部屋に居た。「おい、渉、どうした?」「ああ、リキさんか、ちよっとへましてな」と顔を見せた。「何じゃその顔、いったいどうしたんじゃ」「だから、ちょっとへまをして殴られた」と正直に言った「殴られた?だれに」「寮長とその下の奴」「殴るとは、ゆるさん」「あっ、ちょっとまって」という間もなく力は、寮長の部屋へ行った。「おい、寮長、渉を殴ったのはどいつや?どっちでもいいから、表へ出ろ」と寮全体に聞こえる様に怒鳴った。すると寮の連中が全員ついて来た。

力が渉と二人で土井建設の寮全員とが向き合った。力が「お前ら、人を殴るとは、どういう事じゃ俺たちは昨日から世話になって居る者じゃが、誰にでもこういう事をするんだったら俺たちにも覚悟があるでな。渉を殴った奴でてこい」と怒鳴った。すると寮長にこずかれた一人が前に出た。力が「渉、こいつか?」と聞いた。すると渉がうなずいた。「よし、渉、こいつを殴れ」と言うと、他の奴らを睨みつけた。渉が殴って来た奴を殴った。殴られた奴も殴り返して来た。渉と二人はケンカになった。他の奴らも今度は力に掛かって来た。二人対十何人の大げんかになった。ケンカの知らせを聞いた土井社長がランクルでやって来た。土井社長は片っ端から殴って「やめろ、やめろって言っているんだ。こら~」と言ってケンカの輪の中へ入って行った。社長に殴られた社員はやめてケンカの輪の外に控えた。輪の中心で最後までケンカをしている奴を殴った土井社長が「お前迄、なにをしているんじゃ」と、寮長を叱った。その下に力と渉が倒れていた。晶子がランクルから飛び出して来た。「長谷川さん、渡辺くん」と心配そうに近づいて来た。土井パパに晶子はつかまれた。倒れている二人を見て「ごめんねごめんね」と泣いていた。ウ~ンウウ~ンとパトカーが、ピィポ~ピイポ~と救急車がやって来て、大騒ぎになった。

次の日、力と渉は、ベットの上で目が覚めた。「おい、渉、生きているか?」と隣のベットに声を掛けた。「う~ん、」と声がした。「そうか、生きとったか、あいつ等強いな」「うん」そこへ若い看護師がやって来て。「気が付きましたか?」と優しく聞いてくれた。渉はすぐに「いたたた」と言って看護師を見て微笑んだ。看護師は、渉にニッコリして仕事をてきぱきとこなして「はい、後はゆっくり養生してください」と言って出て行った。変わって晶子が入つて来た。晶子は、二人に「ごめんね、私がパパに頼ま無かったらこんな事には・・」と謝った。力は、痛い手を振って「大丈夫、大丈夫こっちこそ迷惑を掛けてすいません。社長に申し訳なくて謝っといてください」と言うのが精いっぱいだった。晶子の後ろに土井社長が居た。二人をじっと見て「若いのう、こっちも手が痛いわ」と包帯を巻いたこぶしを見せた。そして「早く治すことや、それまで入院しとき」と言ってくれた。二人は次の日には起きて体を動かしていた。力は「この躰が資本やから早く動かさないと」と言って体のあっちこっちを痛いのを我慢して動かした。渉も真似をして動かした。が顔の腫れは直ぐには引かなかった。三日目に二人は退院をした。晶子が迎えに来ていた。晶子は二人の身体を心配して「大丈夫?まだ痛いでしょ?」と聞いてくれた。二人は土井建設の寮へ着くと荷物をかたずけ出した。そこへ、寮長と土井社長がやって来て土井社長が「どうした、荷物なんかかたずけて」力が「たいへんお世話になりながらこんなことになりまして、なんとも申し訳ありません。このままお世話になるのも皆さんに迷惑がかかりますし」と言いかけるのを寮長が「そんなことあらへん。一緒にもうちょっと働こうや」と言ってくれた。一文無しの二人には大変ありがたい事だった。こうして二人はもう一度土井建設で働くことになった。渉は晶子に「お嬢さん、もう女物は結構ですから」と言うと晶子は顔を真っ赤にして「知りません!」と、言うとみんなが笑った。

次の日の朝、力はいつもどうりに朝起きると外に出て、褌いっちょうで四股を踏んで鉄砲を重機相手に押していた。そこへインドネシアから来ていた手伝いのジブランラカが「リキさんお願いがあります。私に相撲を教えて下さい」と言い出した。力は「わしは、まだまだ、修行中で教えるなんてできないよ」と断るとジブランラカは残念そうな顔をして「教えてくれないですか?」と又言った。力は仕方なく「じゃ、一緒にやろう。それでいいかい?」と聞いた。「ええ、もちろんいいです」とジブランラカは喜んで力を押す真似をした。力も笑いながら、ジブランラカを押した。力は、腰を下ろして踏ん張って歩くとジブランラカは腰を下ろすと動けなくなってしまった。力は、笑いながら「ま、ゆっくり行こう」とジブランラカに言った。

その日も仕事が終わって夕飯を食べた後で、力は外へ出た。しばらくすると、ジブランラカがやって来た。「リキさんよろしく、ふんどしは無いですか」と聞いて来た。「ああ、まわしの事か、わしも出先でまわしは持って来ていないので、動きやすい褌だけじゃ、褌いっちょじゃ恥ずかしいのか?君はジャージでいいんじゃないか」「そうですね。わかりました。あっ、それから私の事はラカと呼んでください」そう言って力の真似をして四股を一緒に踏み出した。力も片足を上げてゆっくり下ろしてそのまま腰を下ろして、また足を変えて上げるゆっくり下ろして、足を代える。四股を何回か踏んだ後で、今度は腰を下ろすと両手を前に力を入れて出す「えいっ」と気合を入れて出す。足を広げてスクワットをする様に腰を下ろしては両手を前に出す「えいっ」声を息と一緒に出す。ジブランラカは、腰をゆっくり下ろすことが難しいようで背中が前に曲がって来た。「ラカ、無理をしない様に、明日立てなくなるよ」と注意をした。二人とも汗でぐっしょりになって来た。力は「今日はここまで」と言って終わることにした。ラカは「ごっちゃんです」と言った。二人で笑った。力とラカは風呂に入って汗を流した。

力は部屋に戻って渉に「どうした、今日は?力仕事ばかりで疲れ切ったか?」と聞いた。「ああ、が、仕方ない金が無いから飯が食えるだけでもありがたいから」「そうだな、もうちょっとだ。頑張るしかないから、渉、お前、免許持ってないのか?」「なんの?運転や重機のクレーン何かは?」「車と小型特殊だけ」「渉、お前器用だから免許取らせてもらえ」「でも時間が、」と、いう渉に力が「土井社長に頼んでみよう。なっ、明日」そう言って力はごろんと横になった。渉はテレビを見に食堂へ行った。

その日の真夜中、力は又一人で起きて外へ、浴衣を脱ぐと褌いっちょうになった。両手を合わせて祈ってそんきょをして両手を広げて表裏を見せて立って二歩前に出てかがんで両手を付いて「はっきょい」と小さな声で一歩二歩頭を下げたまま両手を前に右左と出した。力は一人で相撲の申し合いをした。止まって大きく息をした。「ふう~」力は「もう一回」と言いながらまた「はっきょい」と繰り返した。脇を締めたり腕を返したりして、納得したのか力は、空を見上げて「う~ん、きれいな星空だ」と言いながら汗を拭きつつ寮へ入って行った。寮の明りが消えてしばらくしてすると、止めてあったランクルが動き出した。

ランクルが止まったのは、寮から少し離れた土井社長の家だった。降りて来たのは晶子だった。家に入ると「パパ、今日は、事件無し、平和」と言って土井社長に報告をした。晶子は「ねえ、パパいつまで見張りを続けるの?」と聞いた。土井パパは「いいじゃないか、若者のちからがまたいつ爆発するかわからないからな」「もう~パパったら今度は自分で行ってよ。夜遅くに若い乙女が一人で車で心配じゃないの?」「ははは・・・酒を飲んだら運転は違反だから、今度からママかお手伝いのはるちゃんを連れて行くといいよ」なんて言うと晶子は「もう~パパったら、ね~えはるちゃん。若い乙女が二人で男の部屋を見張るなんて」と、言ったが、力の姿が頭をかすめた。

晶子は、また一人で力が長い髪を後ろでたばね、浴衣を片肌脱いだ姿で相撲の稽古をしている姿を見たいと思った。

次の日の朝早く、力は、又朝の稽古をしようと外に出ると、ラカが待って居た。「リキさん今日はなにするですか?」と聞くので「いつも一緒だよ、四股を踏んで鉄砲を打ちこむ腰を下ろしてスクワップウオーク、これだよ」「オーケイ」ラカが力の後に付いて同じ練習をした。力は「ラカ、これは一日の準備運動だからハードにやらないから軽くね」ラカも「オーケー」と答えて力について行こうとしたがなかなか朝早くから、身体が動かなかった。力が「さあ、朝飯だ、早くしないと仕事に遅れるよラカ」と言って寮に入った。ラカも汗を拭きながら寮へ入った。食事が済むと、もう車が待って居た。みんなは分かれてそれぞれ仕事に向った。力は一緒になった上司に「すいません。渉の事なんですが重機の免許を取れないですかね?」と聞いた。すると上司は「いま、忙しいから社長に相談してみないと何とも言えないな」力は「渉は器用やし重機の操作も覚えるのは早いと思うんですわ」「ああ、分かった一回な社長に言っとくわ」力は「よろしく、お願いします」と言ってから、渉のやる気のない顔を思い浮かべた。

仕事が終わって、寮に帰ると渉が重機の稽古をしていた。「あっ、リキさんおかえり、今ちょっと重機の稽古をさせてもらっていたんですよ。半日仕事で半日稽古をしろって社長がいってきたので、やらせてもらってます」力は「それは、良かったな。で、どうやって帰って来たんだ?」力に聞かれて渉が「社長の軽トラを借りてかえってきたんだよ。社長の家はすぐそこの大きな家だよ」と寮の向こうの大きな家を指さした。渉が重機から降りてきて「社長の家にかわいいお手伝いさんがいるんだよね」と話して来た。

力は「そうか、で、どんな子や」と聞いた。すると渉は、にやけて「どういっていいのか、とにかくかわいいんだよね」力は「あほ、どんな子やと聞いているんや」「ははは・・・可愛いだよね」「あほか、」

力は、渉に元気が出て来たみたいで、ちょっと「ほっ」した。晩飯が済むと力は外に出て又稽古を始めた。始めるとすぐにラカが出て来た。二人で躰が温まって来たので申し合いを始めた。ラカが思いっきり当たって来た。力も後ろに下がった「力強いな、ここはどうかな」と言って右手をラカのわきの下に入れて下手投げをして見た。するとラカが左手で力の右手を抱え込んで決めて来た。「おっ、やるな」力は身を沈めに掛かった。頭をラカのあごに付けた。ラカの身体が伸びた。力は決められた右腕を抜くと左腕でラカの腰を押して押し倒した。ラカは悔しそうにして「もう、いっちょう」とまた体当たりをしてきた。今度は力も頭から当たった。「ゴツン」と音がした。ラカはそのまま倒れた。力はあたまをさすりながら「ラカは、石頭だなぁ」とラカを起こした。ラカは、目を回しかけて「リキさん、いしあたま」と言った。稽古を済まして風呂に入った。風呂から上がるとラカはおでこに湿布をはっていた。

寮の電気が消えると、力は一人浴衣姿で外に出て来た。褌いっちょうになると両手を合わせて「今日もありがとうございました」と小さく頭を下げて腰を下ろしてそんきょをして両手をひろげて手のひらを裏表にして立ち合いの稽古を始めた。今日ラカとの申し合いで腕を決められた時を思い出していた。「腕が深かったか」と思いながら足を動かしていた。ちょっと離れた所にランクルが止まって居た。

「ねえ、凄いでしょ。リキさんいつも夜遅くに、ああやって一人で踊っている様に見えるの。はるちゃんは、どう思う」と、今日は、隣に一緒に来たはるちゃんに聞いていた。「わたし、わかりません。どうなのか、良いか悪いか、わかりません」と答えたはるちゃんは「ただ、素敵です。なんだか」と、良い言葉が無いかと、後の言葉を探した。すると、晶子が「なんだか?素敵、で、いいんじゃない」はるちゃんはちょっと間をおいて「ですね」と答える。はるちゃんも納得したのかうなずいた。「ほんと、素敵」晶子は、また力を見つめた。

次の日も、又次の日も晶子とはるちゃんは力の夜の一人相撲を見に来ていた。三日目は晶子は一人で見に来ていた。今日は、後ろに髪を縛らずにザンバラ髪のままで、褌いっちょうで力が一人稽古をしていると、晶子は、車から見ている事が我慢が出来なくなった。車から降りて力の所まで、ゆっくり力にきずかれない様に歩いて見に来た。隠れることもしないで力の後ろに立った。力はふり向きもせずに両手を前から上へと突っ張った。そしてゆっくり体ごと振り向いた。「あなたでしたか」晶子が「やっと気が付いてくれました?うふふふ」とほほ笑んだ。「どうしたんです。こんな夜遅くに」と聞くと「見てたの、ずっと、毎日」力は「えっ、毎日?どこで?」晶子は「車で、ずっと」力は「そうですか」と答え、晶子が「いけなかったかしら?」と聞いた。力は黙った。晶子は力の沈黙に、イラっとして「いけないのね。見ては」と言うと「そんな事は無いですが、夜も遅いし、男一人の所に来るなんて」「どうかしてる?」「ま~どうなんですかね」「いいじゃないの」と口を尖らせて言った。

晶子はうつむいて「あなたがいけないのよ。一人で踊りの様にダンスの様に動いてそれに、長い髪を風になびかせてそれが相撲だなんて」と思った。その時、力が晶子の目の前に来ていた。晶子が顔を上げると、目の前に髪の長い男がジッと晶子を見ていた。晶子もじっと見つめ返した。晶子のからだが動かない。晶子は、目を閉じて顔を髪の長い男に近づけた。すると体がフワッと浮いた。晶子は目をつむったまま「お姫様抱っこで彼の腕の中」と思った。ちょっと歩いて「トン」と下ろされた。車の運転席だ。「じゃ、おやすみ」力は寮の方へ歩いて行った。晶子は、髪の毛の長い漢の褌をしめた後姿を見ながら「素敵」と言葉をもらした。

次の日とそのまた次の日は、夜中の稽古を力は休んだ。土井建設の給料日だったので飲み過ぎたのだ。

日曜日の朝、力は、いつもの様に褌いっちょうで四股を踏んで鉄砲を打ってスクワップウオークを土俵の大きさの円を何周かして一休み。「日曜は、ラカも来ないか」と言って「もう一回やるか」と、又四股からやり出した。汗が流れてきたが辞めない、今度はすり足で両手を交互に前に斜め上に突っ張りの稽古をやり出した。何度か往復をすると息が上がって来た。頭を下げて両手を膝の上に付いて息を整えていると。目の前に女性の足が見えた。「なに、だれ?」かなと思って顔を上げると土井社長のとこのお手伝いのはるちゃんが立っていた。「ああ、社長のとこの」「はい、はるです」「なにか?」「これ、作ったんですけど」と、風呂敷包みを差し出した。「私に、ですか?」と聞いた。「はい、似合うかどうか?分かりませんがどうぞ、開けて見て下さい」力は「いいんですか?わたしに」「はい、リキさんにと思って作りました」力は、風呂敷包みを開けて見た。すると中には浴衣が入っていた。「リキさんは大きいからこの町には売ってないと思って作って見ました」力は、飛び上がるほどうれしかった。確かに何処にも自分に合う浴衣何てなかったから「着てもいいですか」「はい」と、はるちゃんはちょっと恥ずかしそうに頷いた。力は「汗をかいているから」と言って、一応タオルで汗を拭いてから袖を通した。

派手な竜と虎の柄の浴衣だ「大きさもぴったりだ、はるちゃんありがとう」とはるちゃんの手を握った。はるちゃんは「それから、これ」と言って紙袋を出した。「これも?」「うん」「いいの?」「うん」力は紙袋をそっと開けて見た中には少し大きなおにぎりが三つ入っていた。別の入れ物にはおかずが入っていた。「日曜日は、寮には、ご飯が無いでしょう。だから作って来たの」「ふえ~ありがたい、ほんと」力は素直に喜んだ。

力は、少し離れた所にはるちゃんをさそった。「ここなら、誰にも見られないよ。私といる所を見られると、はずかしいだろ?」「いいえ、そんなこと」と言いながら力の横に座った。

「これ、たべていい?」と力がいうと「うん」とうなずく、「渉が夢中になるはずや」と思いながら「かわいい~」と言うのをおにぎりと一緒に飲み込んだ。はるちゃんはおかずの入った入れ物を開けて「あっ、お箸を忘れた」と、言ってから「わたし、何で忘れたんだろう、ほんとおっちょこちょいなんだから」力は「おっちょこちょいなんだ」と言いながら笑った。「気にしなくていい、良いから」と手で卵焼きをつまんだ。「うま~」「でしょ」「うん」二人は目と目を合わせて笑った。はるちゃんは「私、裁縫と料理を土井社長の奥様から教えて貰っているんんです。浴衣とお弁当が気に入るか心配でドキドキしました」「ほんとうに気を使わせまして、ありごっちゃんです」「ふふふなぁ~にそれ?」力は「ありがとうとごつぁんですを合わせた自分語です」「ふふ自分語、変なのふふふ」力も一緒に「ははは・・・」と笑った。少し時間がすぎてはるちゃんが「力さんて、本当におすもうさん?」と聞いて来た。力は「関取じゃありません。相撲大好き、二段です」「お相撲に段があるの?」と聞いて来たので「ありますよ序二段とか、三段目とか」「じゃ力さんは序二段?」「いいえ、二段です」「そう、よかったわね。二段で」「ですかね。」と言いながら力はどことなく寂しそうに一点を見つめたまま汗の乾いた髪の毛を風になびかせて黙ってしまった。はるちゃんが「もう、いかなくちゃ」と立ち上がろうとすると、力が、はるちゃんの手をすっと握った。はるちゃんは、もう一回座った。力の大きな手がはるちゃんの小さな手をゆっくり包み込むように手のひらとひらを合わせて握った。はるちゃんも目をつむって大きな手を指を触った。しばらくすると、はるちゃんが、力の手を放して「わたし、やっぱり帰ります」と言って立ち上がった。力は、座ったまま、はるちゃんの目を見て「今日は、本当にありがとうございました」と言って、丁寧に頭を下げた。立ち上がったはるちゃんはじっと見詰めていたがゆっくり背を向けて小走りに帰って行った。力は、その後ろ姿を「本当に、ありがとう」と見送った。

力が寮に帰ると渉が「何処に行っていたん?見かけんかったけど。なに?その荷物」と聞いて来た。「ああ、もろた」渉は「だれに?」力は隠し事が出来ない必要じゃ無かったら沈黙することにしている。

渉がまた聞いた「だれに?」力は「はるちゃんや」と答えた。渉は「なんで?」と聞く。力は「わからん」と答える。渉は「何をしたんや」と聞く「何もしてへん。くれたんや」と答える。渉は怒って「何もしなくて、あんまり言葉も交わしたことも無いのに、くれるか?物を」「物やない浴衣や」「なに?浴衣」「そう、手縫いや」「手縫いの浴衣、なんじゃそれ」渉は完全に怒ってる。どうやらはるちゃんを良く思ってたみたいや、力は「ここには、俺に合った寸法の浴衣が無いから裁縫の練習で作ったらしい、それを持って来てくれたんや。裁縫の練習や」と練習を強調した。渉は納得はしない。「なんでや?」と又言った。力は「嘘やと思うんだったら、はるちゃんに聞いたらええがな」と言った。「弁当も作って来てくれて」と、余計な事を言った。渉は、切れた。「この野郎」と言って殴りかかって来た。力は最初のパンチは避けずに受けた。二発目を出してきた渉の拳を掴んで「なんにもしてない」と言ってびんたを二三発食らわした。」渉は大人しくなったが「くそっ」と言って部屋を出て行った。力は「なんじゃあいつは」と頭をひねった。しばらく考えて「あいつ、勘違いをしている」と思ったが自分も悪い気がしないのを隠せず、昼間の事を思い出した「要らんことをしたか」と反省をした。渉が帰って来た。そして荷物をかたずけ出した。かたずけると言っても紙袋に着替えを入れるだけですぐ済んだ。力は「どうするんだ」と聞いた。渉は「帰る。米子に」力は「そうか、どこへ行ってもがんばれよ」と言うと「これを持って行き」と一昨日貰ったアルバイト料から二万円を取り出して、渉に渡した「これは?」と聞く渉に「選別や、今はこれだけしか無いからすまんな。お前には言葉に尽くせない程世話になったのでもっとお礼をしたいけど今は、これだけしか出来ん。かんべんな」と言って渉の目をジッと見た。渉は目を伏せて「これが無かったら明日からどうするの?」力は「明日か?あしたは明日の風が吹く、いいから持って行け」渉は「リキさん」後の言葉が出て来ない。荷物を持って出て行った。

閉まったドアを見つめて「行ってしまった」独り言を言った。

その日も夕食が済んで落ち着いた頃に夜中には少し早いが力は外に出た。夜の空気をいっぱい吸い込んで浴衣を片肌脱いで四股を踏みしめた。

片足を上がる所迄上げてゆっくり下ろした。又反対の足を上げてゆっくり下ろす。今度はすり足で両手を交互に出す。

そこへランクルが入って来た。「何事だろう、晶子さんか?」力は少し笑った。

すると降りて来たのは土井社長だった。「おい、長谷川、お前さんの相棒は、何処だ?」と聞いて来た。「あっ、渉ですか?渉なら米子に帰りました。挨拶に行きませんでしたか?」と逆に聞いた。

「しらん、ちょっと事務所で事故があってな。お前もちょっと来い」そう言って社長は寮へ入って行った。力も社長のあとに続いて寮へ入った。

社長は寮の食堂で寮のみんなを集めて「今日、会社の事務所で事故があった。もし何か知って入る者がいたら、何でもいいから知らせてほしい」と全員に言ったが何人かが居なかった渉もその一人だった。「事故って、なんだろう?」それが寮に居る者の疑問だった。

又社長が「警察には知らせなくてはいけない事だったので知らせたが何かの間違いと言う事も考えられるので、何か知って入る者がいるなら。言ってほしい」そう言って寮を後にした。

残った寮の皆は「何だ、何があったんだ」と顔を見合わせた。寮長が「落ち着いて、皆後で警察が来るかもしれないので、出て行かないように」と全員に言い渡した。

全員自分の部屋に戻った。廊下には寮長が立って見張っていた。

「えらい時に渉が居なくなったもんや」と力は心配した。「事故ってなんだろ」と思って部屋に居た。

そこへ警官が三人入って来た。全員の指紋を取って居る様子だった。力も取られた。

どうやら土井建設の事務所へ泥棒が入って、手提げ金庫から現金が盗まれたらしい。

寮で暮らすみんなが疑われている「困ったもんだ、どうすることもできない、余計な事をすると疑われるし」力はいつものの様にしようと思ったが渉の事が心配だった。

次の日、

昨夜返らない者が三人居た。一人は渉だがあとの二人は外国からの研修生だった。

力は、渉の事を聞かれたが何も知らなかった事に気が付いた。

知って入るのは、渡辺 渉と言う名前だけだった。米子で知り合った事だけ喋った。

「本当に、他は?全く知らないのか?」と警察に聞かれても「知らない」と言うしか無かった。

次の日、

みんなは普通に仕事を済ませて夕方会社に戻ると全員に「昨日、戻っていなかった者は、まだもどっていない。何か知って入る事があれば教えて欲しい」と連絡があった。

力は「渉も、見つからなかったのか」と思った。

「おい長谷川、渡辺はまだ連絡は付かないが、事務所の足立が今日と明日は休むと聞いて居たそうや。帰って来たらいいが」と土井社長が言ってくれた。

力は「なんじゃ、二日ほど休むだけで大げさに言ってからに」とちょつと安心した。「そうか、そうか」と独り言を言いながら部屋に戻った。

その日も晩飯が済んでしばらくして力は、また外に出た。月が雲の間から出たり入ったりしていた。

いつもの場所で街灯の下で、はるちゃんから貰った浴衣を片肌脱いで両手を合わせてしばらくじっとしていた。「今日もありがとうございました。渉の事もありがとうございます」小さく声に出した。

浴衣を脱いで褌いっちょうで四股を踏みだした足を上げて下ろす。又反対の足を上げる下ろす。何回もするうちに汗が落ちて来た。腰を下ろして上げる時に両手を前後に素早く押し出す突っ張りの稽古。それが済むと両手を地面に付けて「はっきょい」と体をぶつける様に前に出す。ひとりで相撲を取る。手に腕に肩にちからを入れて前に横に進む“後ろには引かない“来るっと回る。今日は、いつもより長くやった。汗だくになりながらやった。何もかも忘れる為か忙しそうに動いた。

少し離れたところにランクルが止まっていた。誰も乗っていない様に見える車の後ろの席からじっと晶子が見ていた。「こんなに周りが騒いでも、やるのね」と独り言を言った。

力がひととうり済むと、水道の水を頭からかぶった。濡れたタオルで体中を拭くと気持ちが良かった。渉を心配しなくて良くなったからか。気持ちも軽くなった。褌を脱いでタオルと一緒にを洗っていると、「コホン」と晶子が咳払いをしてやって来た。力は慌てて浴衣を着た。「あっ、ごめんなさい」と、晶子は横を向いて「こんばんは、月がきれいだから」口ごもりながら言うと力は「ああ、また見ていたんですか?」と、タオルと褌を絞りながら立ち上がった。

晶子は大きな紙袋を持っていた「これをって思ってさ」と紙袋からまた綺麗に包装されたものを出した。力は「なんですか?」「プレゼント」「わたしに?」「そう、わたし浴衣なんか縫えないものね」力は「はるちゃんがくれた浴衣の事を知って入る」と思いながら「なんですか?」と尋ねた。「やきもちをやいたのかな」と思ったがが口には出さない。「開けていいわよ」と晶子が言うので開けて見た「まわしじゃないですか?」「そう、相撲のね」「どうして?」「いつもの姿じゃ見ている方も恥ずかしいしわよ」「ははは・・・見ていてはずかしい?」「なによ」「すいません。つい笑ってしまいました」「だから、探して買って来たの。もし良かったら使って」力は「ありごっちゃんです」と頭を下げた。「でた~ありごっちゃん、うふふ」力は本当にうれしかった。今までまわしが無くて練習をしていたがやっぱりまわしを締めたいと思っていた。力はもう一回「ありがとうございます」と言って頭を下げた。「やめて、こっちが恥ずかしいから」そう言うと晶子は速足でランクルに帰って行った。

次の日は、忙しく朝から二か所に荷物を運んだ。昼からも忙しく足場の組み立てもした。夕方やっと解放されて飯をゆっくり食べることが出来た。部屋に帰ると渉がいた。

渉が「どうも、心配を掛けまして」と頭を下げた、力は「心配してないけど」と答えると「おかげで助かりました」と話を始めた。どうも親父が病院へ運ばれたらしい「おふくろとは、義理でして自分とは、あまり仲が良くなくて姉が知らせてくれたんだけど、ちょっと遅れて知ったわけで」力は「それで、親父さんは?大丈夫なのか?」聞くと「ああ、何とか持ち直して元気になったようで、こっちに帰って来た」「そうかそれは良かった」と力は言った。

会社の事は事務所で聞いたらしい渉から「会社が大変だったらしいね」と聞いて来たが力は「おれは、何にも知らんねん」と答えて、荷物を触っていた。

渉が「それは、なに?」と聞くと「これか?これは、まわしや相撲するときのま わ し」「なんでここにあるの?買ったの?」「いいや貰った」「だれに?」「晶子さんや」渉が「ちぇっ」と舌打ちをした。力は「ふふふ・・」と笑った。渉は「なんで、リキさんばかり」と言うと、力は「わしは、事実何にも持っていない。金も無ければ、知り合いも少ない。有るのはこの躰だけや」「自慢ですか?わしも何にも持ってないけど」「体も相撲取りにしてはそれほど大きくないし、相撲は好きだがそんなに強くないし」「二段やしな」「そうやった二段やった」「プロか?」「プロならお金が稼げるがな、お金も稼げないのをプロって言うか?」「言わん」「やろ」「だから?」「だから、相撲が好きなだけや」「でも、毎日四股を踏んだり鉄砲をしたり練習をしているやないですか」「練習せんと強くならんし勝てんがな。ははは・・・」「ごもっともで、ははは・・・」二人して笑った。

その日も夜遅くに起きた力は「雨かな」と外を見た。外は霧雨の様だった。

「やるか?」と自問をした「回しが濡れるな」と思い直したのか裸で褌一張で外へ出た霧雨が冷たかった。それでも四股を踏み鉄砲を打ちつづけると体が熱くなり汗が出て来た。

体中から湯気があがり息も乱れて来た。顔に付いた雫を撥ねるのに顔を振ると髪を縛っていた紐がとれてザンバラ髪になった。力は大きく息をして空を仰いだ。「まるで、落ち武者ね」今日もランクルが止まっていた。

次の日は、晴れていた。仕事が手間取り次の現場に行けずに昼の休憩が三時過ぎになったので「今日は上がろう」という事になった。

会社に帰ると警察が来て研修生を連れて来ていた。どうやら二人が悪さをしたらしい。

力はラカを捕まえて「どうした?」と聞くと「仲間が悪い事をした。俺達みんな追い出される。国へ返される」と言った。「そうか」と、聞いたもののどうすることもできなかった。

事件は解決したのか力には分らなかった。せっかくの相撲相手がいなくなるのが寂しかった。

夕飯にはまだ時間があったので一人で力は練習をしようといつもの街灯の所へ行くと穴が開いていた。「どうした?」と思っていると渉が来て「リキさんここに柱を埋めてやろうと思って穴を掘っていたんだ」「なんの?」「リキさんが鉄砲をする柱だよ」「それはそれは」「まっ、そこ等にある太い木でいいでしょ?」と、言って太い木を穴にはめ込んだ。上から重機で叩いた。

後は、力と渉で打ち込んだ木の根元を土で埋めて叩いた。「これで良いんじゃない」と渉は言うと重機をしまいに重機に乗っていってしまった。

力はしばらく埋めた木を素手でたたいて見ていた。どっしりとしたいい木だった。力は頭を付けて腰の方から手を鋭く出して木にぶつける様に押した。木が少し揺れた様に思った「よし、これを大木と名付けよう」と言って離れた。

渉を待って寮に入った。もう夕食の時間だった。二人は夕食を黙って食べた。

部屋に帰ると今日の出来事を話した。「今日ラカたちが首になるかもと話をしていたがどうなるんだろうな」「ラカって?ああ、研修生のね。さあどうだろ労働者不足だからね」「そうなのか?首にならないのか?」「ま、悪さをした奴は仕方ないけど、そうじゃない奴迄首にするのはどうかな?」「そうかな」「社長の考え次第だよ」「言いに行くか?」「やめときわしら迄とばっちりを食う事になるよ」「そうかな?」「ずっとここで働くの?」「そうか」「そうだよ、ずっと居る訳にゃいかないでしょ。ここに」「あ、そうだった」「だから大人しくしないと出て行きにくくなるよ」「わかったよ」力は納得した。

渉は部屋を出て食堂にテレビを見に行った。

力はまわしを出して一人で締めて見た。端を引っ張らないと上手く結べないと思った。

「う~んうまく行かないか?もっとグッと引っ張らないと」力は端を柱に縛って自分でぐるぐる回って力強く巻いて最後に柱から外して端をグッとしばった。「できた。うはは・・」と喜んだ。

力は、まわしをしめて浴衣をひっかけて外へ出た。辺りは暗くなっていて街灯の下の大木がずっしりと構えていた。

力は先ず大木に「今日からそろしく」と両手で叩いて浴衣を脱いだ。

そこに、真新しいまわしを締めた相撲取りが居た。髪は紐で軽く縛っていた。

大木の前で四股を踏み始めた一回大きく足を上げてゆっくり下ろす反対の足をあげる。

ゆっくり下ろす。又上げる下ろす。すり足で大木に向って進み頭をつける右、左と大木を倒すかのように突くゆっくり前に出して太木に当たる時に力を入れる。右、左と太木にあたる瞬間に力を入れる「おお、いい感じや」と思いながら打つ、打つ、汗をかいて来た。

力は「よし」と言ってタオルで汗を拭いた。ちよっと休憩を挟んで大木に背を向けてかがんで相撲を取る様にかまえて「はっきょよい」と言って一人でそこに相手がいる様に力を込めた両手で空を切って相手を押した。腰を下ろして又相手を押した。「どうだ!どうだ!」と両手を出した。

「よし!おしだし」と決まったように納得をした。

息が荒くなっていたが人の気配でゆっくり振り向いた。そこに晶子がタオルを持って立っていた。力は、陽子を思い出した。タオルを持って待って居る姿が「いいなぁ」と思った。

「はい、タオル」と晶子がタオルを渡した。良い臭いがした。陽子が消えた。力は「ありごっちゃんです」と受け取って汗を拭いた。

「また、見に来たんですか?」と力が聞くと「まわしを付けているかと思って」晶子が言うと「夜遅くに叱られますよ」と言った。

「心配無用、私がここに居ることは、父も母も知って入るわ」「ですか」

「いいじゃないの見るくらい」「いいですが見世物じゃないので、退屈でしょ」

「見たいの!わたし」「おこらないでください」

「怒っていないわ」力は、良い臭いのするタオルで又汗を拭いた。タオルの臭いが気を高ぶらせた。

まわし姿を晶子に見られていることにも気が高ぶった、気持ちを抑えて

「どうです?まわしを捲いて見ました。似合いますか?」と聞いた。

「似合っています。すて・」晶子は「素敵」という言葉を飲み込んだ。

「えっ、なんです?」力は聞き返した。

晶子が「なんでもない、タオルを返して」とタオルを掴むと、力は「いや、もうちょっと」とタオルを引っ張った。

すると晶子が力の方へ二三歩前にこけかけた。力はとっさに両手を出して晶子を抱き止めた。

力の汗の臭いが晶子を包んだ。晶子はタオルを持ったまま自分の力が抜けて立って居られなくなった。

力は晶子を抱きかかえ上げた、踵を回してランクルを探した。

そのまま車へ運び、指で車のドアを開けて乗せた。すると晶子が力に抱き着いて来た。

力も晶子に力を入れた。晶子の息が力の耳にかかった。力は両手の力を抜いた。晶子の息が離れた。晶子は目をつむり口を少し開けて体のちからを抜いた。

少しの間が長く感じ晶子は目を開けて力を見つめた。力は首を振った。晶子は力に平手打ちをした。力は車から離れて晶子に背中を向けた。ドアの閉まる音が聞こえてエンジンが掛かった。

ランクルが静かに動いた。力は大木の所まで来ると大木を「バシッ、バシッ」と叩いた。

次の日、

土井建設の従業員の話だと研修生の二人は国に返されることになったが他の研修生は今までどうりに研修を受ける事が出来るらしい。

力は「よかった」と、思った。ラカがやって来て「よかった、よかった」と言って力に握手を求めた。「よかったなラカ、また一緒に相撲やろうな」と言うとラカが「はい~」と答えて両手で力の胸を押して来た。又車に乗って仕事へ向かった。

今日は渉が車の運転をしている。「渉、車の運転が出来るのか?」と聞くと「免許は持っているんや、車と小型特殊だけは」「大丈夫か?この車大きいで」「これも普通車、免許は一緒や、ははは・・・」と笑い飛ばした。

仕事が済んで寮に帰るとラカが待って居た。「リキさんやるか?すもう、やるか?」と聞いて来た。

力は「おお、やるか」と言って準備をした。力は、まわしを付けて外に出た。

ラカが力を見て「おお、すもうとり、かっこいい」とほめてくれた。力は照れながら「よし、やろう」とまずは、四股から始めた。

ラカは大きな木を見て「これを打つんですね」「そう、鉄砲をする柱じゃ、押し倒してもいいから」と言うと「押すだけじゃだめ、斧かのこぎり必要です」「ははは・・・」二して笑った。

力は久しぶりに体中にちからが湧いて来る様な気がした。ラカも汗と力に投げられて土で泥だらけになった。その相手をしたので力も泥だらけだ二人で水道の水を掛け合いその後風呂に入った。

二人ともすっきりした表情で夕飯を食べた。ラカは夕飯の後で友達と何か食べに行った。力は仕事と久しぶりの相撲でちょっと横になった。ぐっすり寝ていた。

「あっ、もうこんな時間か」力は、昨日より遅い時間に一人で起きた。まわしを触るとまわしはまだ濡れていた「しかたない、これでいいか」と、褌に浴衣を引っ掛けた。

外へ出ると月も無い真っ暗闇に街灯だけが「ボャ」と光っていた。

力は大木の前に行き大木に向って両手を合わせた。「今日もありがとうございます」と小さい声で言うと四股を踏み始めると背中から湯気が立ちのぼった。

「今夜は蒸し暑いな」と思いながら大木に向って鉄砲を打ち始めた。が、音はしない。大木に触りそうな所で「グッ」と力を入れる。身体が後ろに行く又体を前に傾けて腕を大木に打ち付ける。

体重を大木に預けて手で押す。右、左と突っ張りを早くして大木を押し叩く、力は息が切れた

「はぁ~はぁ~」と肩で息をしていると頭にタオルが掛かった。

「はい、ティーケイオー負け」また、良い臭いのタオルが力のはなをくすぐる。

力はタオルの臭いを吸い込んで「晶子さん、こんなに遅くに私と逢っている所を見られたら・・・」

晶子は「ずっと、ずっと待って居たんだから・・」最後の方は涙声になっていた。

「今日は、もう帰ろうと思っていたの、すると街灯の下でゴソゴソ動くものが熊かと思ったら、リキさんあなただったの、でも時間も遅いし、あわてて出て来てタオルを投げたの」力は黙っていた。

力は大木の影に入って両手を広げた。晶子も影を探して大木の影に来た。力は両手の中に晶子を入れた。そしてゆっくりちからを入れて抱いた。晶子は「苦しい」と、小さく言った。

力はちからを抜いた。晶子が目をつむりあごを上げて来た。力は晶子の少し開いた口が可愛いと思った。かわいい口に自分の口を重ねた。

晶子の心臓の音が自分の心臓の音と共鳴するように感じた。

晶子は苦しくなったのか唇を離した。力はもう一度ちからを入れて抱きあげた、晶子が首を振った「下ろして」と小さい声がした。

力が晶子を下ろすと晶子が「優しくして」力は「自分は不器用なもんで」と横を向いた。

晶子は「ばか」と言って両手で力の顔を挟んで自分の顔に近づけて「チュ」と力の口にして「帰る」と言って車の方へ行ってしまった。

振り返らず、片手を振って。

力は、晶子の後ろ姿をじっと見つめて、一人ぽつりと大木の影に立っていた。

次の日も又次の日も晶子は来なかった。

仕事が休みの土曜に渉が買い物をすると言うので力は付き合った。下着とポロシャツとズボンを買って「りきさんも要るだろ」力は無一文だからと大きいサイズのポロシャツを買ってくれた。「金、持っとるな」と、力は思った。渉は晩飯もおごってくれた。

夜、寮に帰ると力宛に手紙と木綿の反物が置いてあった。

「なんだろ?」と手紙を開けるとすぐに女と分かるきれいな字だった。

「りきさんへ 

この間はごめんなさい。

貴方が相撲を取る姿がとても素敵で好きでした。

毎日見たくてこっそり車から見ていました。一人で稽古をしているのが好きで、

夜、一人で両手を合わせて祈る様なしぐさ、男の人のきりっとした姿、準備運動かしら足を高く上げて、上げては下ろすだけなのにドキドキしたのを覚えています。その後の一人で相撲を取る姿、流れる汗、髪を縛った紐がとけてザンバラ髪で右や左に動いて踊りの様に見えて素敵でした。相手もいないのに、そこに相手がいる様に動いて、汗まみれの姿に夢中になりました。

ありがとうございました。

今日、私は見合いをしました。とてもやさしい人の様です。

父も母も乗り気でたいへん喜んでいます。

木綿の反物を贈ります。自由に使ってください。

かしこ   AKI   」

渉が「だれから?」と手紙を覗いた。力は「さっ」と隠した。渉は、誰からか分かっていたのか、反物を持って「これは、なに」と触って来たので「それは、木綿の反物や浴衣を作ったりするやつや」「で、どうするの?浴衣なんかよう作らんやろ」と聞くので「当たり前や浴衣やったら、人に作って貰うんや、はるちゃんに作って貰おうかな」「あほ言いな」「そうじゃなかったら六尺に切って褌に使うわ」「そうか、良かったじゃん」「ははは・・・そうだな」と言ってから、ひとりになった時

「そうですか、ありごっちゃんです」と手紙に言った。

その日の夜も力は一人で大木の前にいた。

一人で、四股を踏んで、大木に向って鉄砲を打った強く強く何回も打った。

汗が流れて来てもまだ辞めない。頭でも大木にあたった。何回も頭をぶつけて「痛い」と「くっそ」とが一緒になった「いくっそ」という言葉を何度も吐いた。目からも汗が出て、体中の汗を出し切るかというほど汗を流した。力は走りたくなった。大声を上げて走りたかった。走った。黙って走った。

次の日は日曜だったので力は寝すぎてしまった。起きると渉はもう居なかった。

 力は寝坊したせいもあって午前中何もしなかった。ラカが来て「りきさん相撲しないか」と言って来ても「今日は日曜」と言って相手をしなかった。ラカは友達と出かけた。力は「何か気が抜けてしまったな」と独り言を吐いた。見られていたことを意識したことは無かったのに「こんなことで練習をやすむなんて」自分で自分がおかしかった。「が、俺にはこれしか無い」思い直した。「ぐ~」とお腹が鳴った「腹は減っているみたいや」と何処かへ行こうとゴソゴソしていると晶子から貰った反物が出て来た「これを売りに行くか」と思って反物を広げて見た。絵が描いてあった「なんだこれは」と反物を転がすと相撲の色んな絵がかいてある「え~、相撲四十八手の反物」力は驚いた「そんなにまで夢中になって」

晶子の気持ちが分かる様な気がした。ちからは腹の空いてるのも忘れて四十八手に見入った。「これを浴衣や褌に仕様なんて、ちょっとでも覚えて又練習をしなければ」と思い直した。力はまわしを締めた。そして四十八手の絵を見ながら、形を覚えようとしていた。夢中になっているともう夕方になっていた。

「おーリキさん、起きてるか」と渉が帰って来た。どうやら力はまわしをしたまま寝てしまっていたらしい「おお、渉か帰っていたのか」「帰っていたのかじゃないで、まわしをしたまま寝るなんて、リキさんらしくも無い。ほれ晩飯の変わりや」とハンバーガーを出した。「五人前や」と渉が言った。力は朝から何も食っていないのを思い出した。力は、あっという間にハンバーガーを平らげた。渉が「少しは落ち着いたかな」と言うので力はやっと思い出したように「渉、何処に行っていたんや?」と、聞いた。渉は「試験や重機の」「で、どうやったんや」「はい、合格」「ほんとか?よかったな」「ほんと良かった」二人は喜んだ。渉が「リキさん、足りたかや?」と聞いた「何が?」「晩飯や」「たりん」「まだ食える?」「食える」「行くか?」「あるか?」「ある」「行こう」ふたりは晩飯を食べに出かけた。

次の日も

仕事であちこちへ足場を組み立てては移動して足場をばらしてと忙しかった。夕方車で駅の近くを走っていると「あっ、晶子さんや」と声がした「そう言えば晶子さん見合いをしたそうや」「あっ、隣に誰かいるその彼氏かも」みんなの視線を集めていた。力は目をつむっていた。腕を組んで寝ている真似をしていた。その日の夜、力はいつもの様に夕飯が終わると部屋へ帰って反物を見て相撲の技を見ていた。

「こんな技をする人がおるなんて信じられないな。櫓投げか相手が軽かったらいいが」じっと見て「もっと腕にもちからをつけないと投げ技は出来ないぞ」力は考えた「そうだ、丸太に縄を回して持ち上げたり投げたり練習をしよう」という考えに行き着いた。夜も遅くなって力は褌いっちょうで外へ出た。昼間の暑さも少しはましになって来ていた。力はゆっくり足を上げたゆっくり下ろした。足を代えてゆっくりゆっくり四股を踏んだ。腰を下ろしてスクワップウオークを始めた「きつい」足首がアキレスけんがつって来た。中腰になって膝に手を置いて深呼吸をした「昼間も仕事だったからちょっと疲れたか」そう言って大木の所に来て鉄砲を始めた。やっぱりちからが入らない「今日はこのぐらいにしておこう」と寮の部屋へ帰って行った。寮に入る時、後ろを振り向いた。車も止まっていなければ、が誰も居ない。

部屋に帰ると誰も居ない。「あれ、渉はどこに,行ったんや」いつもいる渉が居なかった。「夜も遅いのに」力はごろんと横になった。カチャとドアが開く音がした。「た だ い ま、うふふリキさん寝てる?」渉が力の方へ来て「ほれ」と紙包みを見せた「なんや?それ」と力が聞いた。渉は「もろた、ははは・・・」「だれに?食堂のおばちゃんか?」「違う違う、はるちゃんや」「えっ?ほんま?パンツか?」「なんやろ?」「俺と一緒の浴衣やないか?」「あほな、一緒にせんといて」「開けたら?」「内緒にしとくか」「勝手にしろ」「ははは・・・あっ、手紙まで入っている」「おっ、ほんまか?」

 「渉さんへ

 いつも、おみやげありがとうございます。あまり気を使わないでください。

奥さんや旦那さんに冷やかされたりするので、恥ずかしくなります。

晶子さんに付き合って力さんの相撲の練習を見た時に、何でこんなことを夜遅くにするんだろうと思いました。でも目的があってしていることだと分かると素敵な事だと思って応援のつもりで浴衣を縫いました。自分の出来ることで応援をしたいのです。

渉さんも目的があって力さんと一緒に行動をしていると思います。

頑張ってください。これは、私が縫った腹掛けです。ぜひ使ってください。

追伸

今度は、ぜひ映画に誘って下さい      はる    


力は、渉が手紙を読み終わるのを待つて「どうだって?はるちゃんは?もう誘うのをやめてくださいてか?」「リキさん何を言っているんですか?ぜひ映画に誘ってください、と書いてあります」「で、プレゼントは?」「これ」「なにそれ?」「腹掛けって書いてある」「腹掛け?なにそれ?」「わからん」「見せてみ、ああこれかこれは金太郎がお腹にしているやつや」「え~金太郎?」「子供がお腹を冷やさない様にしているやつやな」「俺、子供?」「みたいなもんや、はるちゃんにとっては」「俺も浴衣の方がよかったな」「何言うているんや、お前の事を心配して、縫ってくれたんや大事にせんとバチがあたるで」「おっ、これ腹の所にポケットがある。それも大きなポケットや」「お前がお金を無くすからそこにポケットを付けたんやな」「ほんまか?」「ほんまや」

「あれ、もう一枚手紙が」

 渉さん、腹掛けを見てどう思っているか想像しています。

こんなもの恥ずかしいと思っているかもしれませんね。

でも昔の人はこれを付けて仕事をしていたそうです。

いまでも祭りや重いものを持ったりするときに使うそうです。

あなたがこれを付けてちから仕事をしている姿は素敵だと思います。


渉は「よう見ると、恰好いいなあ」力は「一回付けて見たら」渉は「そうだな着て見るか」と言うと裸になってパンツいっ張で腹掛けを着た。力が「いがいとかっこいいなあ」と言った。渉も「イイ感じや」とニヤニヤしていた。

 力は「はるちゃんよく見てるなあ」と思った。

次の日、渉は腹掛けの上に作業服を着て出かけた。

力とは別の現場へ行ったらしい、力は昨日の続きの現場だった。足場の解体だ力は物を上げ下げするときには腕を使って曲げ伸ばしを加えた。すると筋肉痛になりかけた。「これは、きついな」と言いながら出来る所までと頑張った。夕方寮に帰るとやっぱり筋肉痛になっていた。「今日は先に風呂にはいろう」と風呂で筋肉をもみほぐして夕食に着いた。渉はまだ帰って居なかった。「頑張っているな」と思いながら飯を食べて、部屋へ帰った。力はまた反物を見て「これをやって、のこられたらこっちの技をだすか?おっ、いい考えだな」力は浴衣のまま外へ出た。大木の所へ来ると適当な木を探した。大木と同じ太さの木で身長に近い長さの木を探した。「おおっ、これなんかいいじゃないか」と太い木を立てて見た。ますます気に入った。木に腰のあたりの位置に縄を捲いた「まわしの代わりや。なかなかいいぞ」力は縄を掴んで木を持ち上げて見た「なかなか重いな」といいながら下ろした。「ふ~こいつに名前をつけんとな」と腕組みをして考えた。「大木の子供みたいやから、たいぼくこ。ちょっと弱いか。たいぼくざん。大木山、これで行こう。おい、大木山よろしくな」力は手でポンポン叩いて寮の部屋へ帰った。帰ると渉がニコニコして座っていた。「おーおかえり、遅かったな」「うふふ、うん遅い」「嬉しそうやな?」「ああ、うれしい」「にやけてから」「うん、にやけている」「あほか」「あほや」力は、渉が嬉しそうなので、笑いながら「はるちゃんに腹掛けを見せに行ったんか?」と聞いて見た。「えっ、なんで分かったん」「顔に書いてある。私は腹掛けをはるちゃんに見せました。って」「ほんとう?」「あほ」二人で笑った。

次の日

力がいつもどうりに仕事に出掛けようと準備をしていると土井社長と土井ママがやって来た。土井ママが近づいて来て「長谷川君ちょっと」と声を掛けて来た。「ちょっと聞きたいんだけど、じつは晶子が見合いをしたのを知っているでしょ」力は「はい」と答えた。「晶子が見合いした相手とケンカをしたらしいの、あなた何か気が付いたことが無いかと思って、何か心当たりが無い?」聞かれて力は、まわしをプレゼントされた事を言った。他の事は黙っていたが晶子が夜車で自分の相撲の稽古を見に来ていた事は言った。これは土井社長も土井ママも知っていると言っていたからだ。力は「後は、わかりません」と黙った。すると土井ママは「そう、なぜケンカをしたのかしら」と言って社長と帰って行った。

渉が来て「どうしたの?わるさをしたの?」力は「してない!」といいなら頭を掻いた。紐で縛った髪の毛がほつれた。

 仕事が終わって寮に帰ると一人で大木の所に出て鉄砲を軽くしながら「どうしたんだろう晶子さん」と晶子を心配した。夕食が済んでからまわしを付けて浴衣をはおって出て来た。

いつもどうりに四股を踏みだした。四股が終わると今度は鉄砲だ大木に向って押す当てる押すと繰り返した。汗がにじみ出て来た。立てた大木山を相手に「はっきょい」と当たって巻いた縄をつかんで両手で抱えて投げた。「重いな」と思いながら大木山を又起こして今度は反対に投げた。

投げた向こうにタオルを持った女性が立っていた。

 力は、動きを止めた。立ったままゆっくりと女性の方へ歩いて行った。女性が「はい、これ」とタオルを力に渡した「ありごっちゃんです」と受け取ると、晶子が「いつもどうりね」と言った。

力も「変わりません、でも少しは成長しました。それがこれです」と大木山を指さした。

「木を投げるの?」「そう」「怪我しない?」と聞いて来た。

「大丈夫」と答えると「重い木は危ないわ、やめてお願い」とじっと力を見つめた。

力は「はい~」と返事をしてしばらく黙っていると、晶子の方から「わたし、見合いの相手とケンカしたの」と言って来た。

力は「で、勝ったんですか?」と聞いた。「勝って無い」

「ですか、悔しいですね」「そうなの、悔しいの!」晶子は力が何でも分かっている様に喋って来た。

「それで、パパとママに言ったのあんな奴きらいって」力は「勝って無いのに?」「そう、勝って無いけど負けてないわ」晶子の返事に力は安心した。

「もう一度会ってやっつけたら」力はケンカの原因が分からないのにけしかけた。

「どうして?やっつけるの?」と晶子が聞くと「相手のベルトを持って上手投げで投げ飛ばす。どう?」

晶子は「ケンカの原因が相撲なの」力は「え~」と頭を抱えた。

晶子は「わたし、相撲が好きですって言ったのすると彼が僕は野球が好きって言うのでお互い何処が好きかってなって彼が相撲よりプロレスの方がおもしろいって言うから相撲は勝負は短いけれどそこに行くまでお互いがどうやって相手を倒そうか考えているわって言うと、それはどの格闘技も相手の居るスポーツもそうだろうって言うの」力が「ま、そうですけど」と言うと「負け?」と晶子が聞いた。

「いいえ、相撲には魅力があります。一瞬のうちに勝負が付いたりなかなか付かなかったり足の裏以外に土が付くと負けだし、土俵から出ても負け、あの土俵の丸の中にロマンがあります。」

「でしょ、それがあいつには分らないの!とうへんぼくよね」

力が「でも、いろんなスポーツも知れば知るほど魅力的なります」晶子は「ですかね?」と口をとがらせた。力はその口を見て「かわいい」と考えてしまった。はずかしい自分が居た。

力は「ですよ。勝つには、もっと相手を知る事です」と、言われて晶子は「どきっ」とした。

「相手の事を知る?」と自問したからか、黙ってしまった。

晶子は力の目を見て「わたし、やってやるわ。あいつの事を知ってコテンパンにやっつけてやる」と言うと「もう、タオルは返さなくていいから」と手を振って行ってしまった。

力はタオルを持って「これでいいのか?良かったのか?」と、自分のほっぺを叩いた。

忙しい日々が続いた日曜日に今度は一人で土井ママが寮に訪ねて来た。食堂へ力を呼び出した。

力に「この前は、失礼しました晶子の事で心配をしていたものですから」と語り出した

「晶子が、この前こちらにお邪魔したそうで迷惑をおかけしました。晶子が、もう一度、彼に会うと言い出して、どうやら彼に会ったみたいでなにかいつもニコニコして帰って来るので、安心しまして、こちらで何かあったのでは」と聞いて来たが

力は「なにもありません。相撲をする所を見て帰って行きました」と答えた。

「そうですか、おせわになりました」と言って帰って行った。「うまく行ったのかな」力は心配した

力が部屋に帰ると、渉が部屋で待って居た「リキさん、もう九月場所が始まっているよ」「あっ、すっかり忘れていた。巡業はもう終わって東京に帰っていたのか」「そうだよ、どうする?」「仕方がない、このままもうしばらくここに居るか?帰るか?今日は何日目?」「中日って言うていたよ、テレビで」「中日、もう半分終わっている」「どげするの?」「もう帰っても間に合わん。ついでや京都に寄って行くか」「大丈夫か?帰らんで」「また、一からやり直しや」力は大きなため息をついた。力は渉と一緒に食堂のテレビを見に行った。「おおっ、やってるやってる」大相撲中継をしていた。力はテレビにくぎ付けになった。中継が終わって、力は矢も楯もたまらなくなり土井社長の家へ出かけた。家に着くと「ピンポーン」と呼び鈴を鳴らした。はるちゃんが「はーい」と可愛い声で出迎えてくれた。「社長は、いますか?」と尋ねた。はるちゃんが「いますよ。ちょっとお待ちください」と言って奥に引っ込んだ。しばらく玄関で待って居ると、社長が出て来て「どうした、まー入り」と応接室へ「どうぞ」と入れてくれた。力は話を始めた「お世話になっていて、たいへん申し訳ありませんが今日もう相撲が始まっていたのに気が付かずにお世話になりっぱなしで申し訳ありません」と頭を下げた。「何を言うとるんだ、君は?」社長は力の言う事が分からなかった。力は「申し訳ありません。東京に帰りたいんです」それを聞くと社長は「そうか、わかった。明日事務所へ来てくれたらいいから、ちゃんとしとくから」と言ってくれた。力は「急な事で申し訳ありません」と頭を下げて社長の家を後にした。寮に帰ると寮の皆に挨拶をして回った。ラカにも寮長にも挨拶をして部屋に帰って荷物をかたずけていると、何処に居たのか渉が入って来て「やっぱり、帰ることにしたんか?」と聞いて来たので力は「おう、渉どうする?一緒に東京へ行くか?」と聞いた。「いや、俺は、もうちょっと居るわ。重機を教えてもらったこともあるしはるちゃんも居るし」「いいんか?渉」「ああいい、まあ分かっていたことだけど、どげしょもない。頑張るしかない」「よしっ、がんばれ」こうして二人は別れを惜しみながら朝を待った。

 次の日

力はまとめた荷物をもう一度確認した。「下着の褌、タンクトップ、二枚になった浴衣と帯、まわし、ポロシャツ、タオル」カバンがいっぱいになっていた。

渉には、東京の住所を渡していた。寮の皆が仕事に行った後で寮を出た。食堂のおばちゃんには朝挨拶をしていた。土井建設の事務所に行くと事務員の足立さんが出て来て「大丈夫?相撲部屋の方は?」と心配してくれた。そして昨日までのアルバイト料と寮費が計算された給料が入った袋を持って社長室へ一緒に行った。足立さんが「社長、長谷川君が来ました」と言って袋を机の上に置くと力に「どうぞ」と言って部屋へ入れた。部屋に入ると社長と晶子さんがいた。社長が「ご苦労さんやったな」と言ってアルバイト料の入った袋を渡してくれた。「そしてこれは、おれからの選別や」と言って袋をもう一つくれた。「いえこれは貰えません」と力が言うと。晶子が「だめ、貰わないと、土井建設を忘れないためにも、貰って」力は「ありがとうございます。お世話になりぱっなしで、いただきます」と袋を押し頂いた。

「晶子、駅まで送ってあげなさい」「はい、パパ」「おっ、元気いいな」「はい、パパ、じゃ行こうリキさん」晶子は力の背中を押した。力はふり向いて社長に頭を下げた。

晶子があのランクルを出して来た。力が後ろに乗ろうとすると「前にどうぞ」と助手席を開けた。力は、荷物を後ろに乗せて前に座った。晶子は会社を出た。「急に出て行くのね」晶子の一言で力はうなだれた

申し分けない気持ちと心残りが重なって、力は前を見たまま「お世話になりました」と答えた。「もっといっぱい話をしたかった。このまま一緒にどこかにいこうか?」力は黙っていた。晶子も溜め息を付いた。

晶子は「もっと、いっぱいあなたを叩きたい叩いて叩いて土俵に膝をつかせたい」力は「叩くのは反則負けです」と返事をした。「うふふ」晶子が笑った。「反則でもいいわ」「負けですよ」「負けてもいい」晶子は車を鳥取城の近くに止めて城跡に入って行った。力は付いて行った。「ここが仁風閣ですか、立派ですね」力が見ていると晶子はふり向いて力のほっぺたを思い切り叩いた「反則ですよ」力が言うと「いいの負けても」と言いながら今度は拳で力の胸を何度も何度も叩いた泣きながら叩いた。最後に「ばか」と言って抱きついた。周りに人の目も在ったが知らぬ顔で泣いていた。力は最後に「すまんです」と言った。

力は晶子が泣き止むのを待って居た。そして晶子は泣き止んだ。ずっと泣いてろ俺の胸でという力が居た。泣き止んだ晶子は「私は、あなたの応援団長よ何処へ行っても頑張るの、この応援団長の為にね。分かった?」「はい、団長」団長は力を見つめた。晶子は「行こう、遅れるわ」と二人は車に乗った。

車は駅に着いた。力はなかなか降りなかった。晶子が「泣くわよ」と言うので「ありごっちゃんです」と言って降りた。荷物を持って頭を下げた。後を振り向かず力は駅へと歩いた。晶子は泣いていた。

力は「京都一枚」と言って切符を買った。「特急券は?」と言う駅員に「乗車券だけで」駅に入ってホームに上がった。正面に城山があった。「さっきまであそこに居たのに」と遠くを見つめた。


漢(長谷川 力)今度は一人で何処へ行く?もう女を泣かすな!頑張れ、漢じゃろ。

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