『カフェラテと初恋』
金曜日の午後、私は小さなスイーツ店の前で立ち止まった。
ショーケースには、宝石みたいに輝くケーキが並んでいる。
「今日は何を食べようかな…」
そんな私の後ろから、優しい声が聞こえた。
「おすすめはチョコレートタルトです。甘さ控えめで、コーヒーともよく合います」
振り返ると、そこには爽やかな笑顔の店員さん。
黒縁メガネに白いエプロン、髪を少し無造作に整えている。
一瞬、息を飲んだ。
「じゃあ、それください」
思わず声が弾む。
店員さんはタルトを包みながら、にこりと笑った。
「ありがとうございます。ラテも一緒にどうですか?今日のブレンドは少し深めで、タルトと相性抜群です」
あまりに自然なおすすめに、つい頷いてしまった。
「じゃあ、お願いします」
席につくと、タルトの甘い香りが鼻をくすぐる。
ラテをひと口飲むと、苦味の中にほんのり甘さが広がった。
店員さんの笑顔と、少し似ている気がして、思わず顔がほころぶ。
会計を済ませ、帰ろうとしたその時、店員さんが手を止めて言った。
「もしよかったら、またおすすめのケーキを用意しておきますね」
小さく頷きながら、心の中で密かに思った。
『またここに来よう。理由はケーキじゃなくて、あなたかもしれない』
店を出たあとも、ラテの温かさと、あの笑顔が胸に残った。
恋は、意外な瞬間に、ふわりと訪れるものなのかもしれない。




