『通知音の距離』
スマホが震えた。
画面には「◯◯くん」が表示されている。
でも、開くのが怖くて、しばらく画面を眺めていた。
「忙しい」と一言だけ来ている。それで、私の胸はぎゅっと締め付けられる。
昨日までは、毎日「おはよう」と「おやすみ」を交わして、夜遅くまでくだらない話で笑い合っていたのに。たった一言で、心のリズムが乱れる。
彼とはマッチングアプリで知り合った。
最初は「いいね」がきっかけだったけど、会ってみたら、想像以上に話が合った。映画の話、音楽、推しのアニメまで、知らない世界を教えてくれる人だった。
「今日、忙しいけど夜少しだけ話せる?」
つい送ってしまった自分のメッセージに、少し後悔する。
私はいつのまにか、彼の生活の一部になりたくなっていた。
返事は、しばらく来なかった。
画面の通知音が怖くて、手が震える。
でも、窓の外を見ると、雨が止んで、夕焼けが淡く街を染めていた。
空の色を見て、ふと思った。
「彼がいなくても、世界は回ってるんだ」
深呼吸をして、スマホを置く。
自分の心が少し軽くなるのを感じる。
数分後、やっと返信が来た。
「ごめん、今日ほんとに忙しかった。少しなら話せる?」
指先が震えながらも、私は返信を打つ。
「うん、ちょっとだけ話そ」
画面越しの文字だけど、温かさが胸に広がる。
恋って、こうして少しずつ距離を縮めるものなんだな。
そして、私も少しだけ、大人になれた気がした。




