良い子はマネしちゃダメ
我は壺。名前はないが、この家の中で一番高価な壺だ。それはもう、大切に扱われている。
当然だ。なんといっても著名な作家(?)の一点もの(真偽不明)だからな、フフ。
見るがいい、愚民ども! そして我の美しい形、色彩の前にひれ伏すのだ! フハハハハハハ。
◇◇◇
――その日は突然やってきた。
バタンと勢いよく扉が開いたかと思うと、大剣を片手に持った少年の他に数名の少年少女が何やら話しながら入ってくる。
そういえば、この家の者たちが「勇者が現れたらしい」などと話をしていたな。きっとこの少年がその勇者に違いない。
勇者はキョロキョロと室内を見渡し、我の存在に気付くと真っ直ぐこちらにやって来た。
フフン、どうやら勇者にも我の価値が分かるらしいな。
さあ、じっくりと我を堪能するがいい!
勇者はジッと我を見つめ、次の瞬間――。
「よいしょ、っと」
いきなり持ち上げたかと思うと、あろうことか我を床に叩きつけた。
ガシャ――――ン
「ひぃぃぃぃいい! ちょっ! なんて事してくれてんのぉぉぉぉおお!?」
ローブを被った少女が悲鳴を上げ、他の少年少女は呆然と粉々になった我を見ている。
「え〜? 勇者といったら壺とか樽とか割って、棚は引き出し開けてアイテム探しするのが定石だろ?」
「そんな定石知らんわ! てか、わざわざ割らんでも覗けばいいじゃない! 壺とか樽とか割りまくるって、それどこの破落戸よ! これ絶対高価な壺! 絶対にクレームくるって! 誰が弁償すると思ってるの!?」
少女が頭を抱えている横で勇者がアハハと笑う。
この流れだけで少女がいたく苦労しているのだろう事が窺える。
我は少女に激しく同意し、そして同情した。
騒ぎを聞きつけてやって来たこの屋敷の主が、粉々となった我を目にして固まる。
「ああ、大切(高価)な壺が……」
瞳をうるうるさせながら欠片を拾い集める主の姿に、ローブの少女が慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「……違う、ここじゃない。これは、こっちかな?」
勇者とローブの少女を含む少年少女たちが眉間に皺を寄せながら、欠片を手にとり我の修復を行っている。
実は王女様だったらしいローブの少女が王宮宛に手紙を書き、王家が弁償すると約束をしたものの。
あまり反省していないように見える勇者と、見ているだけで止めなかった少年少女たちにも責任があるとして、王女様が我の修復を命じたのだ。
まあどちらかといえば、これに懲りて安易に壺や樽を割らないようにという、勇者に向けての戒めの意味が強いと思われるが。
見てくれは悪くなり置き場所も変わってしまったが、屋敷の主は相も変わらず我を見にやって来る。
時々我を前にブツブツと何やら呟いているが、まだまだ続くらしい我の壺生は案外悪くないかもしれない。
主「この壺売れないかな……」




