うさぎショッピングモールへ行く
今北産業!
うさぎと おでかけ 楽しかった
お母さんの代わりに、うさぎと一緒にお使いへ行けたいちごちゃん。
久々のお外へおでかけ、楽しかったね。
さぁ今日は家族みんなでお出かけだ!いざ!ショッピングモールへ!
玄関前に立つ父がやたら張り切った声を上げた。
「よし!今日はみんなで買い物行くぞ!」
手には車のキー。
母は微笑んで、わたしも靴ひもを結びながら小さく返事をした。
ちょっと前までなら「わたしはいいかな」と一人で留守番をしていたかもしれない。
あのお買い物事件以来、わたしは家の外へも出るようになった。
うさぎも一緒だけど。
そのわたしの散歩のお供、ことうさぎは玄関口で直立していた。
うん。どこからどう見ても白い筋肉の塊。
「じゃあ出発ね」
わたしも母も車に乗り込む。
「で?うさぎは?乗れそう?」
わたしが座ってる反対側の助手席の扉から入ろうとする2.5メートルの巨体。
でっかい。というか車より存在感ある。
案の定、というかまぁそうだろうというか。乗れない。
「すみません……少々お待ちを!」
耳がドアの枠につっかえた。
背中の筋肉もつっかえてる。
うさぎはぐいぐいっと無理やり体を曲げてからだをねじ込む。
車が「ギギギ……」と悲鳴を上げて傾いた。
「せまいっ!!」
わたしは押しつぶされながら絶叫する。
もうモール行く前から命の危機。
わたしやっぱりお留守番するべきだった???
車はなんとか出発した。
後ろから「ミシミシ」って音してるけど聞こえないふりをした。
目的地は大型ショッピングモール。休日だし人がとても多い。
そんなモールの入り口ガラス扉の前でわたしは足を止めた。
「ペット入店お断り」
貼り紙を見て固まる。
(……そういえば。うさぎってどうなの?)
振り返るとうさぎは普通に入場ゲートを通過していた。
しかも警備員が笑顔で会釈してる。
「いらっしゃいませ」と確かに警備員は言った。
「うさぎっていったい……何なの?」
わたしの声は誰にも届かない。
このモール常識どこに置いてきたの?
中もたくさんの人であふれていた。
「とりあえず順番に見て回るか」
父は服売り場、母は食品コーナー、わたしはうさぎの肩の上。
家族でショッピングモールをめぐる。
衣料品店の試着室から出てきた父に向かって
「その色、よくお似合いですよ」
って真面目にアドバイスするうさぎ。
え?色合いっていった?ファッションまでわかるの?
食品売場では母の代わりにカートを押して手伝いにいそしんでいた。
会計が終わった後の袋詰め。その荷物持ちもしっかりとこなす。
「助かるわ〜」と母も自然に返す。
……いや助かるけれども!
うさぎを見ると「余裕!」と言わんばかりにサムズアップして見せた。
両手に買い物袋を持ち、わたしを肩に乗せて通路を歩くうさぎ。
時折「きゃーかわいい〜」と指さして笑う買い物客たち。
笑顔で見守る周囲。
わたしだけが現実と格闘しているような気がした。
「だからいったいわたしたちってどう見えてるの!?これ!!ねぇ!?」
もはや誰も答えてくれない。
「気になりますか?」
耳元でキラッと声がした。
神様だ。出た。後ろから唐突に。
今回はキラキラ光る紙吹雪をまとって現れた。
相変わらずの“演出だけは派手な人”である。
「いきなり出てこないで!!」
思わず飛びのくわたし。
神様はポケットから小さな光る紙吹雪をひらひら出しながら言った。
「みんな普通のうさぎにしか見えてませんよ。安心してください」
「普通ってどの基準よ!?!?」
わたしの叫びは虚空に吸い込まれた。
頭の中で“うさぎ、筋肉、二足歩行”って単語を並べてみたけど、一生”普通”という単語とは交わらない。
お昼過ぎ。
一度買い物した衣類や食糧などを一時預かりのロッカーに詰めレストラン街へ向かった。
「そろそろご飯にしようか」とレストラン街を歩く。
「たまにはお肉なんていいんじゃないかしら」
母の提案でお昼はステーキランチになった。
「いらっしゃいませ。4名様ですね。」
店員さんが笑顔でこちらへどうぞと案内してくれる。
うさぎの単位って1名2名だったっけ...?
うさぎも普通に椅子に座る。
何もかも普通じゃないのに。なぜかすべて普通という違和感でお肉が何枚か焼けそうだ。
「お待たせしました!ごゆっくりどうぞ!」
注文してしばらくした後。おいしそうなステーキが運ばれてきた。
そのステーキをナイフとフォークを使って器用に切り分ける。
その1つを口に運び「おいしいですね」という。
うさぎが。
「……お肉もいけるんだね」
思わず呟くとわたしの脳内にあの胡散臭い声が響いた。
(なんでも食べるよ!)
(いちいち出てこなくていいから!!!)
ツッコミのせいで危うくスープひっくり返しそうになったじゃないの!
食後、通路を歩いていると――
「……あら?もしかして?」
こちらに話しかけてくるひとりの女性。
「あ。お世話になっております」と両親とも頭を下げる。
軽く紹介されたけど、それは学校の...担任の先生だった。
「今日はご家族でお買い物ですか?」と先生は微笑みかけた。
父と母は軽くお辞儀をする。
わたしはどうしていいかわからなくてうさぎの後ろに隠れた。
そのうさぎが丁寧にお辞儀をする。
周囲の人々は何も気にせず買い物を続けている。
……先生だけが、完全に固まっていた。
「……えっとどなたかしら???」
声が裏返りそうになっている。額にはうっすら汗。
「こちらうちのうさぎです」
父がさらっと紹介する。
うさぎは深々と会釈。
沈黙。空気がちょっと重い。
(いやいやいやいや!それペットの紹介の仕方じゃないから!!)
先生の顔が引きつる。視線が泳いでいる。
たぶん脳内で“現実に理解が追いつかないループ”起きてる。
やがて先生が無理やり笑って「そ、そうなんですね〜」と力なく返した。
信じられないですよね?
わたしもそうです。
そんな中、父が切り出す。
「そろそろ娘も学校にも行かせようかと思ってまして」
その言葉に先生は嬉しそうな表情に変わった。
「そ、そうなんですね!でも一番は娘さんですから。慌てずにゆっくりでいいですよ」
先生はわたしに向かって小さく手を振った。
知らない人に見られる不安からわたしはうさぎの陰に隠れた。
「まぁでもまだこんな感じで」
父は少し苦笑いして言う。
「でもこの子うさぎには懐いてるみたいで。先生さえよければうさぎも一緒に学校に連れていってもいいかしら?」
え?母、今なんて言った???
秒で修羅場が訪れた。
先生は一瞬笑顔のまま固まった。視線が宙をさまよっている。
たぶんどう答えていいかわからなくなって混乱しているんだと思う。
その気持ちすごくよくわかる。やがて
「え、えぇ……そうですね……生き物を愛するのはいいことですからね……」
と魂が抜けかけた声で答えた。
その背後でなぜか神様が非常口マークの上に腰掛けていて
「いいですねぇ。教育は心を育てますから」
とか言っている。もう帰って。あなたは。
先生は限界の笑顔を保ったまま小さく会釈し、
「じゃあ……また学校でね、いちごさん」
とだけ残して逃げるように去っていった。
父は満足げに頷き、母は微笑み、うさぎは筋肉を張りながら静かに見送る。
その場に取り残されたわたしは、両手で顔を覆った。
「うさぎ学校連れてって大丈夫なの?本当に???」
現実感がだんだん薄くなっていく。
(大丈夫わけないよなぁ)
まるでパニック映画の如く激しく騒動が起こる未来を予想してわたしは頭を抱えた。
――うさぎ、近日来襲。
映画のタイトルはこれでいいや。
平穏な学校生活なんてきっとなかった。
第4話ご覧いただきありがとうございます。
「うさぎはちょっと大きなうさぎにしか見えない」のに「ペット禁止」で素通りしてたり、ステーキハウスで「4名様」と普通にカウントされてるのはなぁぜなぁぜ?
全 部 神 様 の せ い
次回、はじめてのがっこう。




