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名前を付けてやる

今北産業!


我が家の うさぎ ムキムキ。


そんなボディビルダーみたなうさぎが我が家にきた次の日。

「そういえば。この子の名前は決まったのかい?」

と父がつぶやいた。

そういえばまだだったな。どうしよう。

朝のダイニング。トースターの焼ける音と新聞のめくれる音が混ざる。

父がふと顔を上げて言った。


「そういえば。この子の名前は決まったのかい?」


テーブルの向こうでは、うさぎがナイフとフォークを使って器用にサラダを食べていた。

葉っぱをひと口ずつ礼儀正しく切り分けて。


「いや、うさぎはナイフとフォーク必要ないでしょ!!」


朝から全力でつっこむ。

わたしが声を上げるとうさぎはフォークを置いてとぺこりお辞儀をした。

いやそういう問題じゃない。


「や。まだ決まってないかな」


わたしも牛乳を飲みながらそう返す。


「そうねぇ。だったらいちごちゃんが何か考えてあげたら?」


母からの提案にわたしはうーんと唸ってからそっとうさぎを見た。

光を反射して筋肉がキラッと輝いて見える。

その瞬間わたしは脳内にあった“かわいいものフォルダ”をそっと閉じた。



かつて想像していた“うさぎのいる暮らし”は

もっとこう……ふわふわで、ぴょんぴょんして、抱きしめたらコテンと寝ちゃうイメージだった。

そのとき考えてた名前は「シロちゃん」とか「ミミちゃん」。

かわいくて、やわらかくて、世界が優しい響き。


だがしかし。目の前の現実は、筋肉の鏡餅。

すべての「かわいい」を圧倒的物理で押しつぶす存在感。


「……ないない」

即却下。候補全滅。

ため息が出る前にうさぎは再びポージング。

こんなミミちゃんはちょっと、いやだいぶんイヤだなぁ。



朝食が終わると父は会社へ。母はパートに出かけた。

わたしは部屋に戻って本を読もうと思ったらうさぎもついてきた。

せっかくだから観察してよう。何かいい名前が思いつくかもしれないし。


ベッドの上で本を開いていると隣から聞こえる規則的な音がする。

 ぴくっ、ぴくっ。

横を見るとうさぎが静かに腹筋していた。

呼吸がやけに静かで動きにムダがない。まさに美しい腹筋だった。

うさぎ、小声で何かブツブツ言ってる。


(まさか回数カウントしてる?「99……100!」とか言わないでね)


視線をそっと本に戻す。


何なのこのストイックなうさぎ。うさぎってこんな体育会系の生き物だったけ?


「99……100!」


「うそでしょ」


思わず読んでいた本を閉じて額を押さえこんだ。ツッコミが追いつかない。



お昼過ぎ。

母が皿洗いをしている。その隣でうさぎもエプロン姿で並んでいる。

もはやその程度で突っ込む気にはなれない。

泡立て器を片手に「これ、ぬるま湯でいいですか?」って聞いてくる真面目さ。

母も「助かるわ〜」と自然に返す。

会話成立してるのが逆に怖い。

(……なんか、もう家族っぽいな)

少なくともペットではないよねぇとか思いながら観察を続けた。

お昼ご飯はそんなうさぎが作った焼きそばだった。


「いや泡だて器何に使ってたのよ!!!」


夕方。

母の代わりに洗濯物を干すうさぎを観察する。

洗い立ての洗濯物に若干うさぎの毛が付いているのでこの仕事は向いてないことを教えてあげないとと思った。

……そういえばお昼の焼きそばにも何か混ざってたような、と思い出してげっと顔をしかめた。

食卓にも立たせるべきじゃないな。

毛だらけだし。


その時、洗濯物を干そうと持っていた鉄のハンガーが「バキッ」と折れた。


「うわー……」


わたしは頭を抱える。


「すみません、つい力加減を……」


「“つい”のスケール大きすぎる!!」


ツッコミながら笑ってしまった。

あの巨体で鉄のハンガー握りつぶしてごめんなさいだって。

悔しいけどちょっと面白かった。


夜。

テレビの光が部屋の輪郭をゆるく照らす。

父と母、わたし、そしてまだ名前のないうさぎがソファに座っていた。


「名前、まだ決まらない?」母の声。


今日一日観察して思ったこと。

こいつは最早うさぎではない。でも時々うさぎ。毛とか。


「うーん……」


わたしはクッションを抱えて顔を埋めた。

うさぎは正座でポーズ待機。ちょっと落ち着いて。


「じゃぁ“マッスル”とかどうだ?」


この見た目でミミちゃんとかも無理があるけど

うさぎにマッスルなんて名前つけるのもどうかと思いやんわり首を横に振った。


いや見た目的にはマッスルで正解かもしれないけど。

母は笑い、うさぎは「呼びやすければなんでも」と穏やかに答えた。

そういう問題じゃないのよ。キャラの問題なのよ。

もしかしてまじめに考えてるのわたしだけ?



夜更け。

「ねぇ電気消すよー」

わたしが声をかけて部屋の明かりを消すと、うさぎはケージの横で丸くなった。

夕食後。この子どこで寝る?という話になったときにもともとケージを置いていたわたしの部屋になった。

コイツと同じ部屋で寝るのかー

同じベッドで一緒に寝るんじゃなくて内心ほっとした。

本来ならその中にいるはずだったのに巨大すぎて入れない。

(こうしてるとうさぎっぽいんだけどなぁ……大きさは規格外だけど)

岩みたいに動かないその背中を見ながらそっと目を閉じた。



翌朝。

父がコーヒーを飲みながら「そういえば名前は決まったのか?」と再び聞いてきた。

母がトーストにバターを塗る音が静かに響く。

わたしは口の中で呼吸を整えながら小さく「決めたよ」とつぶやいた。


全員の視線がこちらを向く。

わたしは昨晩からずっと考えていた”それ”を口にした。


「うさぎ」


空気が一瞬止まる。


「うさぎの名前が“うさぎ”?」


母が笑いをこらえながらいう。父は手を叩いて笑ってた。


「だって!うさぎって呼ばないと、こいつがうさぎだってこと忘れそうなんだもん!!」


わたしも言いながらおかしくて吹き出しそうになる。


うさぎは一拍置いて気に入ったように大きくマッスルポーズを見せつけた。

筋肉がピキピキ鳴った気がした。


「いい名前ですね、いちごちゃん」


「そういうところ!!」


わたしのツッコミが部屋の空気をぶった切った。


母は笑い、父は頷き、うさぎは満足げにポージング継続する。


もう完全に“うさぎだけどうさぎじゃない何か”と暮らしている自覚が生まれた。


命名『うさぎ』。


この家、もうまともな未来が見えない。


つづく

第2話読んでくださってありがとうございます。

名前も決まり改めて家族?に加わったうさぎ。

次の話ではなんと――


―――――――――――家の外に出ます。


もう事件の予感しかしませんねぇ。


次回、お巡りさん違うんです

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