借り
かなり時間が経ったが、一匹も近寄ってこない。
間抜けの相手はしてられないのだろう。
その気持ちには大いに賛同する。
しかし、もう少し状況を見て判断してほしいと思う。
アリと仲良く隣に並ぶ蝶がいるだろうか?
そんなことも気づかない。
やはり奴らは能無しなのだろう。
そんな奴らと関わって果たしてわたしに利があるのだろうか?
間抜けはだんだんと元気がなくなってきている。
それもそのはず、散々羽をボロボロにされた挙句、体中傷だらけだ。
わたしがつけた傷もあるが、それ以前にもう助かる余地はない体であった。
間抜けは考えが足らないから最後につけられた傷しか覚えていなくてわたしに文句を言うかもしれない。
わたしをもし責めるつもりならそれはお門違いというものだ。
むしろこいつの最後の望みを叶えてやったことに感謝してもらいたい。
しかし、間抜けだ間抜けだと言っていたが、初めてコミュニケーションを取れた奴がそろそろいなくなると思うと寂しくなるものなのだな。
他の蝶がやってこない今、たとえ実りのない内容の話であっても、もっとこいつの話を聞いてやり、会話をしていれば良かったと後悔した。
間抜けがいう。
「誰も……きてく……れないや……はあ……しん……どい……ね……ここまで……付きあ……てもら……たのに、わ……るいね。」
そのような喋り方をされると、後ろめたい気持ちが少し芽生える。
わたしがつけた傷も死因につながっているのではないかと考えてしまう。
そんな気持ちを押し殺すように、
「気にするな」
と言ってやる。
流石に気の毒だ。
せめて最後は近くにいてやろう。
わたしは獲物になりうる奴に初めて慈愛という感情が芽生えたことを感じつつ、優しく語りかけてやる。
「安心しろ。死ぬ時まで一緒にいてやるよ。」
そういうと、間抜けは安心したように微笑む。




