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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD5 2024 10月

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94 廃墟といえば、山奥そう思っていた。

新章、いや、やっとこの章の本編です。

 廃墟といえば、山奥そう思っていた。

「では、改めて説明させていただきます。」

 案内人と名乗った職員は、そういって敷地全体が見える場所で説明を開始した。

「当施設の入り口は、二つ。今から向かうの付け根の部分と、海側の貨物搬入口です。貨物搬入口のほうは荷物の受け取り用のエレベーターがありますが、普段は電源が落とされています。また周辺は電気柵とコンクリート製の塀で囲まれています。」

「厳重だな。」

 最初の説明に、同行していたレイモンドが苦笑するが、激しく同意だ。案内人も気を悪くした様子もなく、むしろ誇らしげだった。

「当施設はその性質上、人の出入りには敏感です。それを信頼して機密情報の保管を託されている方もいらっしゃるとか。あとは万が一の時は、周辺地域の避難所としても登録されています。」

 さらに案内人が補足した内容によると、潮流と地熱、太陽光など利用した自家発電と浄水と下水システム、それらを利用した水耕栽培やビニールハウスなども完備されており、外のとの接触がなくても数年は自給自足が可能とのことだ。

「お肉やお酒といった嗜好品は、外からの補給だよりなんですけどね。」

 そんなことを言いながら曲がりくねった道を歩くこと20分、塀の合間にある大きなゲートが僕たちの前に姿を現した。

「本日は、来客ということで事前に開放してありますが、普段はしまっています。開けるには外部と宿直の管理人が同時にキーを回す必要があります。」

「厳重だねー、下手な軍事基地よりもすごいぞ。」

 しきりと感心して周囲を見回るレイモンドに、僕らは呆れてしまう。それなりに緊張感をもって打ち合わせをしていたのはなんだたんだろうか?


 ホーリー君に、ランバース精神病院について話をしてから数日。僕はレイモンドと共に、ランバース精神病院を訪れていた。

 アポイントはすぐにとれた。組織を頼るまでもなく、レイモンドとルーザーの人脈を頼ったら関係者と連絡がとれ、リーフを引き取っているという事情を説明したら、びっくりするほどすんなり来訪の許可と招待が送られてきた。

「ようこそ、ランバース精神病院の院長を務めさせていただいている、ウォルター・レイルマンと言います。」

「ラルフ・アルフレッドです。警官です。」

「レイモンド・ヒジリだ。しがない記者で、今回はこれの付き添いだ。」

 案内されたエントランス。その場で僕たちを出迎えたのは、白衣をきた壮年の男だった。白の混じった茶色の髪はきっちりと固められ、しわの浮いた顔ははつらつとしており、足取りもしっかりしている。聞いた話では50代後半とのことだが、

「ふむ、警官に記者様ですか。聞いてはいましたが実際にご一緒されているところをみると面白いですな。」

「信用されたくて、職業を名乗っただけだぞ。仕事でこんなところに来るほど仕事熱心ではないからな。」

「ははは、面白い方だ。」

 礼儀に欠けるレイモンドの態度に、ウォルター院長も案内人も気を悪くした様子がない、むしろ楽しげだ。

「まあ、立ち話もなんですし、ひとまずこちらへ。」

 エントランスに設置されたソファーに案内され、それと同時に温かなコーヒーが提供された。

「インスタントで申し訳ないですが。」

「いえ、ありがとうございます。」

 ブラックのまま一口飲むが、それなりにのめる味だった。僕もレイモンドもコーヒーはブラック派だったし、押しかけている手前、凝った飲み物よりもインスタントの方が緊張しなくていい。それも狙いなのかもしれない。

「さて、早速ですが、今回は、当院に収監されている患者の面会をご希望だとか。」

 一口飲んで、早速とばかりに話を切り出すウォルター院長だが、その視線はレイモンドの手元に向いている。

「ああ、すまん、職業病だ。ちゃんとオフレコにするよ。」

 その手元にあったスマホを表向きにして、目の前で電源を切る。ついでに首から下げていたカメラをテーブルに置く。慌てて僕もスマホの電源を切ってテーブルに置いた。

「助かります、こちらとしては隠し立てするようなことはしていないのですが・・・。」

「もともと病院は携帯が使えないし、持ち込むようなものじゃないからな。」

 だから、言い方。もう少し態度を気を付けてくれないかな?

「構いませんよ。」

 慌てる僕に手の平を向けて、院長はやんわりと言った。

「大事なのは言葉遣いやマナーではなく、誠意です。こちらの意図を理解して行動してくださる分には構いません。むしろ、普段は話し相手にも困るような場所なのでレイモンドさんの態度は心地よいです。なっ?」

「ええ、話はおろか、ユーモアの分からない人間ばかりなので。」

 ブラックすぎません、そのジョーク。

「さて、新ためて、患者の名前をお伺いしても?」

「ウッディ・リドルです。一年ほど前にこちらに収監されたと伺ったのですが。」

「なるほど、事前にお話しいただいた通りですね。ちょっと失礼。」

 そう言って、タブレットを操作し、何かを確認する院長。その顔は一瞬だけ険しくなるが、すぐに取り繕われる。

「類縁や友人はおらず、元の職場の人間も、彼が収監されたことは知らないと記録されていますね。」

 それなのになぜ?言外の追求については、アポを取った時に電話とメールで伝えてあるが今一度話せということなんだろ。

「彼を知っているのは、僕が、彼の逮捕現場に居合わせたからです。どのような記録があるのかは知りませんが、ウッディ・リドルは表向きは愛想がいい男でしたが地域行事には参加せず、近所づきあいも最低限でした。」

「そうらしいですね。その裏で。」

「はい、娘に対する異常な執着をもち虐待を行っていたそうです。これは娘であるリーフ・リドルから直接聞いたので確かです。」

「ほお。」

「僕は、色々あって、彼女を引き取っています。父親というのは傲慢ですが、周囲と協力して彼女が自立するまでは見守ろうと覚悟はしています。」

 これは本心だ。リーフはもう娘のようなものだし、彼女から目を離すことはない。

「なるほど、めずらしいですが、ありえない話ではありませんね。」

 ぼくの言葉に院長は相槌を打つ。流石に聞き上手で話しやすい。

「で、おれはその周囲の一人ってわけだ。リーフちゃんは甥っ子の友人でね。その縁で俺たちも知り合ったというわけだ。」

「ほう、友人がいるならば、彼女も安心ですね。」

「そうですね、ほ、彼のおかげもあってリーフは父親から虐待と離別から立ち直りました。表面上は?」

「なにか不安が?」

「いえ、特には、ただ感情を出すのが苦手な子でして、無理をしてないか気を付けてはいるんですけど。」

「聞けば中学生ですよね。多感な時期ですし、長い時間がかかると思います。」

「覚悟はしています。」

 もっともな話だ。だからこそ、ここに来たわけだ。


「患者とよばせていただきますが。」

 そう前置きして院長は説明をしてくれた。

「患者のご家族や友人の方が面会を望まれることが多いです。当院としてもお断りはしていません。ですが、ここに収監されている患者の多くは、精神が安定しておらず、相手が誰か理解したり、会話をしたりすることはできません。その中でもウッディ・リドルは重傷です。アレはもはや周囲を知覚できていません。」

 アレという呼び方が気になった。だが、それだけ重症ということだろうか。

「生物として、彼は健康です。身体に異常はないし、食事もとれます。ですが、それは機械的かつ反射的なものであり、そこに感情はありません。口の中に食べ物を流し込むと飲み込む、そういう生理的な反応です。」

「そこまで?」

「はい、以前の彼がどのような人物だったのか、我々は資料でしか知りません、しかし、アレは生きているだけです。死んでいないだけとも言えますが。このようなことを医者として言うのはどうかとも思うのですが・・・。」

 無念そうに首を振る院長に心の底から同情する。精神病院で研修を受けたこともあるし、麻薬中毒者の成れの果てを資料で見たことがある。どんなに親しい間柄でも、いや親しい間柄でなくとも心が壊れ、意思疎通ができなくなるのはツライ。研修の数日でも鬱々とした気分になったのだ、業務として向き合っている彼らの心労は計り知れない。

「あなたがたが、ウッディ・リドルと親しい人間であるならば面会はおろか、現状を伝えることはひかえていたでしょう。そう、娘さんでもね。」

「リーフには伝えるつもりはありません。」

 食い気味に僕は答えた。

「ここに来たのは、僕が安心し、彼女と向き合うためです。院長が面会を勧めないなら、このまま帰るつもりです。ただ、彼女が父親について知った時に、この場所を教えられるようになっておきたかったんです。」

「なるほど、立派ですな。」

 話を遮ってしまったことに頭を下げると、院長は穏やかな顔で、そういった。

「そのような覚悟をおもちの人は稀有です。どんな形であれ、あなた方が幸せになることを、我々一同、祈っています。」

 この人はいい人だ。

 そう魅せるコミュニケーション方法なのかもしれないけれど、ウォルター・レイルマンはまっとうな医者だ。そう思えるぐらい、彼の瞳には嘘はなく、職務への忠実な覚悟が見えた。



 

 

どきどきお宅訪問 ランバース精神病院編スタートです。

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