92 秘密基地のような地下室はそれだけでドキドキするけれど、今日は違う意味でドキドキしていた。
子供のような大人たちと少年の悪だくみなお話です。
秘密基地のような地下室はそれだけでドキドキするけれど、今日は違う意味でドキドキしていた。
「というわけで、ホーリー、知っていることを話せ。全てだ。」
「え、ええっと。どういう状況。」
学校が終わったその日、僕は珍しく迎えに来てくれたレイモンド叔父さんに連れられて、おじさん達の秘密基地へと連れ込まれた。ちなみにリーフさんは手芸部の部長さんと買い物へ行くということで一緒ではない。
そして、地下室に連れ込むなり、おじさんのテンションがやたらと高い。
「レイモンド、落ち着いてください、ホーリー君が怖がってるじゃないですか。」
「そうだよ、レイモンド、まずは状況を説明しよう。」
今にも噛みついてきそうな叔父さんを止めてくれているのは、叔父さんの趣味仲間のルーザーさんと、なにかと巻き込まれているラルフさんだ。もう一人の趣味仲間であるロビンさんは猫観察のためにおでかけ中。なんだろう、この因縁めいたメンバーは・・・。
「すまない、ホーリー。実は、例の件についてレイモンドにも相談したんだ。」
例の件、一体なんだろうか?
おじさんたちの活動は、まっとうなニュースの取材から近所のネコ探しと多岐にわたるし、ラルフさんも関わってくるとなると、選択肢が多すぎて答えが分からない。そもそもに叔父さんの勢いがすごくて、思考がまとまらないんだけど。
「ウッディ・リドルのことだ。お前、あの男についてどこまで知っている?」
「えっ?」
詰めよりながら続けられたおじさんの言葉が意外すぎて、僕は目を丸くした。よりにもよって、「ウッデイ・リドル」の話題がここでくるのか。
「リーフのことについては前々から3人にも相談していたんだ、で、最近あの男が今、どこでどうなっているか情報が入ってね。それをリーフに伝えるべきかどうかの相談したんだけど。」
なるほど、たしかに。この地下秘密クラブは内緒話をするにはいい場所かもしれない。
「ホーリー、お前も聞いておいたほうがいい。」
「どういうこと?」
「面白いからだ。」
なんだその理由は?
「愛しのリーフちゃんに関わることだ。お前だって知らないままは気持ち悪いだろ?」
「下品。」
ああ、これ僕をからかいたいだけだ。その証拠にゴミを見るような目で見ていたら、ルーザーさんがこらえきれず噴き出してるし。
「ああ、もう悪かったよ。悪ふざけがすぎた。」
気まずそうに目線をそらす叔父さんに僕は、ため息をつき、用意されていたテーブルに座る。妙に迫力があるからか何事かと不安になっていたのがバカらしい。
「ごめんごめん。ただ、ウッデイ・リドルに関わる話なのは本当だよ。ホーリーも聞きたいだろうと思ったし、場合によってはリーフには話すことになると思う。」
僕や叔父さんが落ち着いたのを確認して、ラルフさんは、秘密だよと前置きして話をはじめた。
「ウッデイ・リドル。リーフの父親が違法薬物で捕まったのは知っているね。」
「はい。」
その出来事のきっかけは、僕がリーフが連れ出したことだ。事の顛末は大人たちから聞いている。子供向けってことでだいぶぼかした内容ではあったけど。今は街の外の刑務所に入った。と聞かされた。
「その薬物は、非常に危険なもので、現状では所持はおろか、詳細な情報を調べることも違反となっている。」
「ネットなどによる情報の公開や、新聞で記事にするのもダメって話だ。」
補足するように言う叔父さんにルーザーさんもうなづく。恐らくは僕のことを気にかけて「リドル」という名前はぼかしてくれているんだろう。
まあ、ぼかしているのは、ラルフさんと僕もだけど。
「それだけ危険な薬物だけど僕やレイモンド、それにルーザーはそれに関わったことがある。その縁もあって、僕たちは彼や薬物について知っていることを共有していたんだ。」
叔父さんとルーザーさんの関わりといえば、やはりミューランド大学の一件だろう。叔父さんは「リドル」関連の話をしてなかったけど、ニュースや叔父さんの話から「リドル」について知ってしまったことは予想できる。
「で、ウッデイ・リドルのその後なんだけど。違法薬物の所持と公務執行妨害で拘留されたのち、身柄はFBIに引き渡された。」
「それは、以前話してくれましたよね。」
リーフさんを引き取る際に、ラルフさんが僕と彼女に話した内容だ。叔父さん達がそれを知っていたことは驚きだけど、これだけ付き合いがあれば、不思議でもないか。
そんなことはどうでもいい。僕が一番知りたいことを早く教えて欲しい。
「で、彼は今はどこに?」
刑務所なり、なんなりにいて罪を償っているならばいい。いっそ死刑になっていても、僕の良心は痛まない。悪いけど、大っ嫌いな他人がどうなっても・・・いや、気にするな、絶対引きずる。
「彼は、逮捕されたときのショックで、精神疾患を患い。今は精神病院に収容されている。」
「精神病院?」
「ああ、会話はおろか日常生活も送れない状態になっている上に、定期的に発作が起きてひどく暴れるそうだ。まともな刑務に服することは難しいんだろうね。」
精神疾患?日常生活が送れない? ゲームではそんなことはなかったはず・・・。
ウッデイ・リドルはRCD4のラストでリドルを過剰摂取して巨大な化物になったところを、主人公たちによっ倒され、RCD5では無力な中ボスとして登場し、ラルフさんによって倒されている。RCD4で死んだと思われたキャラの復活は、しつこい、飽きたと酷評されたけど、無力になりながらも妄執を捨てない姿は、彼のいかれ具合を象徴していたと思う。
最初から狂ってるから、これ以上狂いようがない。というの製作陣の言葉だったっけ?
「犯罪者が正常な判断ができない状態の場合、そういった病院で治療が試みられることがあります。特殊な思考や思想の犯罪者を隔離するための施設でもあるらしいですね。」
「まあ、そういうのは基本的に極秘になっているな。安全のために。」
そうなんだ。調べたらわかりそうな気がするけど。
「それって、診断結果をもとに、実刑を免れてるとかじゃないんですか?」
蝙蝠なヒーローが活躍する街だと、そうやって犯罪者を匿う闇医者みたいなヴィランがいた。死刑や無期懲役レベルの犯罪者をそそのかして入院させてから、洗脳して手ごまにするだったかな?
あるいは、司法取引で政府やどこかの組織に引き抜かれるとか。
「それは僕も考えた。その上で、ウッディ・リドルがその病院に収監されていることと、彼が会話もできない状態というのは確かな情報だよ。」
「その情報元がなんなのか気になるところだな。」
「勘弁してください。署長に無理を言ってもらった情報なんですから。」
署長、というのはきっと嘘だろう。
ゲームでは、RCD1以降、ラルフさんは「VR」という組織に監視されていた。直接聞いたわけじゃないけど、ラルフさんは、自分には支援者がいると言っていたし、この世界でも「VR」はきっと存在する。その組織がウッディ・リドルを監視していて、ラルフさんにも情報を流したと考えれば納得も信頼もできる。
「そんなこと言って、私にその病院があるか、調べさせたのはレイモンドさんですよね?」
「気になる情報は、どんな些細なことでも調べておくは記者の鉄則だぞ。」
「だからって、違法なサイトにハッキングまでさせますか?」
うん、物騒な言葉は聞こえなかったことにしよう。
「ええっと、私たちの方でも確認したんですよ。そしたら、その精神病院は確かに存在してました。警察病院の一種で、重度の犯罪者や異常な行動をしている患者を専門に引き受ける専門の病院みたいです。」
「ははは、完全にゴッ〇ムの収容所だな。」
ケラケラと笑う叔父さんは何とも楽しそうだ。僕だって、ウッデイ・リドルの話でなければ、刑事ドラマのような話だとワクワクしてただろう。異常な犯罪者が収監された精神病院なんて、普通ならお目にかかれないことだ。
「それに名前が面白かった。ホーリー、ダンバース精神病院って知ってるか?」
「いいえ?」
「そうか、じゃあ、ウォルター・フリーマンは?」
「知らないよ。だれそれ?」
まったく聞き覚えがない。もちろん「俺」の記憶にもないからRCDとは無関係な人なんだろうけど。
「中学生が知っていたら怖いですって。」
「俺の甥っ子だぞ。それくらい知ってそうなものだけど。」
やばい、これも聞き流した方がいい?
「ええっとダンバース精神病院というのは、アメリカでロボトミー手術をしていた病院の名前です。マサチューセッツ州にあったんですけど、1985年に閉鎖されています。それと、ウォルター・フリーマンは、ロボトミー手術を行っていた悪名高い医者のことです。」
「ロボトミー手術、ええとたしか脳にメスをいれて行う手術でしたっけ?」
それは聞いたことがある。小学生のときに読んだ漫画で悪の組織が一般市民を誘拐して改造するときに、その処置のことを「ロボトミー手術」と呼んでいた。
「今だと、コミックの話になってしまいますが、ロボトミー手術は、行動に問題がある人間に対して実際に行われてた外科手術なんです。前頭葉、脳の一部を切除することで患者を落ち着かせるそういったものです。」
「へえ、怖いですね。」
「そう、実際、処置された人間は症状が落ち着いたんですけど、言語障害などの副作用が大きすぎたんです。」
「俺としては、サルの惑星なんだけどな。」
ごめん、叔父さん、そっちは見たことがないよ。それよりも。
「まさか、その病院はロボトミー手術をしているとか?」
「さすがにそれは。ロボトミー手術は倫理的な理由から禁止されています。精神病の治療は服薬や行動観察やコミュニケーション方法の模索などが基本です、その病院だって、やっていることは変わりません。」
「ほんとのとこはどうなんだろうな。」
「レイモンド、ホーリーを怖がらせるな。」
「叔父さん、うるさい。」
余計な茶々をいれるから話が進まないじゃないか。
「まあ、いいじゃないか。でないと面白さが分からないだろ。」
懲りない叔父さんはニヤニヤと笑う。
「ウッディ・リドルが収監されている病院の名前は「ランバース病院」そして、そこの院長の名前は、ウォルター・レイルマン。似てると思わないか。」
ダンバース精神病院とランバース精神病院。確かに似ている。だけど、それが何だと言うのだろう?
「偶然ですけどね。気づいて面白がっているのはレイモンドだけですよ。」
ほんとそれな。
「なんだ、ホーリーなら、このネタが伝わると思ったんだけどな―。」
そんなマニアックなことを言われても困るわ。
「ええっと話を整理していいかな?」
こほんと咳払いをしてラルフさんは改めて説明する。
「ウッディ・リドルは今、ランバース精神病院に収監されている。24時間体制で監視され、オモテにでてくることはない。これは確かな情報だ。」
なるほど。ラルフさんは、僕を安心させたかったんだ。
色々と思う中、ウッディ・リドルの存在だけが不明瞭で不安材料だった。
「ありがとうございます。」
もしかしたら、レイモンド叔父さんがふざけているのも、この事実を伝えやすい空気にするためだったのかもしれない。
大真面目に伝えるにはわりと重い内容だよね、これ。
「安心ですね。」
「ああ、安心しておこう。」
ねぎらい合うようにラルフさんと言葉を交わす。リーフさんに伝えるかどうかはまだ悩むけど、一先ずは安心だ。精神疾患というのがどれほどのものか知らないけれど、24時間体制で監視されているなら、ウッディ・リドルがこれから何かをするのは不可能だ。
あとでルーザーさんに、どんな病院か詳しく教えてもらう。3人を信頼しているけど、どんな病院なのか、知っておければ安心だしね。
たしか、ランバース精神病院だったけ?
うん? ランバース精神病院?
えっあのランバース精神病院?
いやいやいや、なんでまた。最悪の組み合わせがでてくるんですか。
精神病院というフラグ臭がとんでもない場所ですが、この先どうなる?
なお、蝙蝠なヒーローはこの世界でも存在しています。




