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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD5 2024 10月

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89 それが夢だと分かっているのに抵抗はできなかった。

 新しい章のはじまり。またまた、ホーリーががんばります。

 それが夢だと分かっているのに抵抗はできなかった。

 普段より少し広い視野と風のように過ぎていく景色。それが新聞配達で自転車を走らせるときに目にする光景であることはすぐにわかった。何年も繰り返してきた朝の日課にしてアルバイト。早朝なので人気がないのはいつものことだけど、今日はいつにもまして静かだった。

 まずい。

 そう思っても身体はいつも通りに新聞を配っていく。そして、見知った家へとたどり着く。見知った家だからこそ、その異質さは浮彫となっている。最近はモノが減り代わりに植木鉢の花なども置かれて温かくなった家。だというのうにその家は殺風景だし、開いているガレージにはガラクタが多い。何より家主の顔が違った。

「やあ、ホーリー、いつもありがとう。」

「いえいえ、」

 彼が自分と新聞を待ち構えていることは何度かあった。だが、その顔は僕の知る顔ではなく、俺が見知った顔だった。3年の隠遁生活で社会復帰はしつつもトラウマと恨みを隠し切れない笑顔。感情の溢れる顔を見ているからこそ、その笑顔が無理やり張り付けた仮面であることがわかる。

 だめだ。

 愛想もいいし、時々チップもくれるのでホーリーは喜々して彼に新聞を手渡すべく近づいていく。 

 逃げろ。

 声にならない悲鳴を上げるが、身体は勝手に動く。数歩、新聞を手渡すその瞬間だった。

 ゴキ。

 鈍い音とともに視点が反転し、真っ赤に染まる。

 それがどういう状況か自分にはわからない。だが、ものすごい力で自分の身体が捻じ曲げられ、地面に倒されたことは知識で知っている。それがどれほどの痛みか分からない。痛みを感じる間もなく自分の意識は消えたはず。

 だと言うのに、この夢では僕の視界が残り続ける。

 黒くぶよぶよした不定形の化物。僕を見下ろす化物は触手のような腕を振り上げて叩きつける。その威力はすさまじく当たるたびに身体が跳ねて、ひしゃげていく。

 何度も何度も何度も。

 執拗に繰り返される殺人、いや解体作業は顔だけは避けているので、僕の瞳はその蛮行を映し続ける。

 やがて、最後に残った頭にも・・・。


「ひいいいい。」

 あげられないはずの悲鳴と共に悪夢から僕は目覚める。

「ゆ、夢?」

 身体くっついていることを何度も確認しながら、周囲を見回して自分の部屋にいることに安心し、尋常じゃない冷や汗にびっくりした。

「くそ。」 

 悪態をつきつつベットサイドに置いておいたタオルで身体を拭く。できるなら温かいシャワーを浴びたいが、バイト後にもシャワーを浴びるので二度手間になってしまう。それほど大きな声ではないので両親が目を覚まして騒ぐということもないことも経験で分かっている。

 この悪夢を見るのも何度目だろう?

 自転車で転んで俺の記憶が流れ込んで以来、僕はRCD3の自分の悲惨な末路を何度も夢にみている。それは俺の記憶しているゲームの冒頭であり、日常が崩壊して惨劇の始まりを広げる時報となるイベントだ。そのインパクトの強さでファンアートがいくつも作られるほどだ。ホーリータイムとか、ホーリーサイレンなどど言われるほど愛されている。

 おかげで、僕は悪夢を見ているわけなんだけど・・・。


 でも、そんなことは起こらない。僕と俺はそれを確信している。

 2024年の年末は目と鼻の先だが、ミューランド大学の闇は1年早く暴かれて、大学は閉鎖された。だから、RCD2の惨劇は起きない。

 そして、その翌年の年明けに起こるであろうRCD3の惨劇は、原因であるリーフ・リドルが保護されて、諸悪の根源であるウッデイ・リドルは逮捕されたことで、原因は取り除かれている。

 おまけに半年ほど前にRCD4のキーマンであるジョン・ガーデンは、行方不明になり、資金源となる企業は他企業に吸収合併されて、テロが起こる可能性はなくなった。

 何より3のラスボスとなるリーフさんは、ゲームと違って幸せに生きている。友人も見守る大人の気持ちにだって気づいている。孤独と絶望から化物となる彼女はもういない。

 こうなるために、僕と俺は頑張った。

 と言っても、僕がしたことは勇気を出してリーフさんを連れ出したことと、レイモンド叔父さんに攻略メモを渡しただけだ。あとは痕跡や兆候探しもしたけで、あんまり効果がなかった。

 リーフさんを連れ出すという行動や、レイモンド叔父さんへのメモの横流し、たった二つの出来事をきっかけにゲームのフラグはドミノ式に倒れていった。

 リーフさんと仲良くしているのは、彼女が素敵な子であり、放っておけない危うさがあったからだ。もしかしたら彼女と距離を置く方が生存率が上がるのかもしれないけれど、彼女の境遇を知り、その優しく素直な人柄を知った今では、距離を取るなんて思いたくはない。彼女の見ている世界がとてもキラキラして新鮮であり、一緒に過ごす時間が一番楽しい。

 もうゲームとは違うのだろう。そう思ったら、下手な憶測は藪蛇となると思った。他にも気になっていた痕跡もあったけど、僕はそれを探すことをやめた。

 おかげで、「俺」の記憶にあるホーリー・ヒジリの日記というものは存在していない。

 

 大丈夫、ダイジョブだ。


 そう自分に言い聞かせても不安は消えない。僕の行動がゲームで語られていないだけで、ミューランド大学ではまだ研究がつづいているかもしれない。ウッデイ・リドルが舞い戻って研究を再開するかもしれない。リーフさんが暴走して惨劇が起こるかもしれない。

 そんなことはないし、リーフさんやラルフさんに会えば消える不安であるけれど、悪夢を見た朝はどうしても考えがネガティブになってしまう。

「よくないなー。」

 僕は、小心者だ。こうなるたびにそう考えてしまう自分が嫌になる。ラルフさんやレイモンド叔父さん、なによりリーフさんを信じてあげられない自分にうんざりする。

 でもさあ。自分が死ぬかもしれない運命が3か月先に迫っているとなったら、多少はネガティブになると思わない?


 2024年 9月

 なんだかんだトラウマになっているホーリー少年の今後はどうなる?

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