34 気づけば数か月、入学のドキドキは、クリスマスへのドキドキへと変わっていた。
舞台は新たなるステージへ
気づけば数か月、進学のドキドキは、クリスマスへのドキドキへと変わっていた。
「・・・クリスマスか、泥棒対策に罠を作る?」
「いや、それ映画の話だから。」
「冗談。」
リーフさん・・・、君はアローンかもしれないけど、そのジョークは笑えないから。
「はは、冗談で笑えるなら元気さね。」
「・・・今日は、チーズケーキ。」
「僕は、プリンで。」
金曜日に立ち寄ったダイナー。格安で提供されるローズさんお手製のスイーツを楽しみながら宿題に励む。というのがリーフさんの最近の流行りだ。中学生のお小遣いで連日というのは難しいけれど、僕は新聞配達の御駄賃、リーフさんはなんやかんや資産家なので、週に一度はこうしてお茶会兼勉強会をしている。
けしてデートとかではない。これは共依存だ。
中学の勉強についていくのが大変な僕に対して、人間関係や学校生活にずれを感じるリーフさん。宿題を教えてもらう代わりに僕は相談にのる。今の僕たちの関係はそのくらいに落ち着いている。
「そういえば、文学部はどう?」
「・・・読むのは楽しい、けどレビューは難しい。」
中学でも課外活動は義務で、リーフさんは文学部で僕は新聞部にはいった。最初は僕について新聞部に入ろうと考えていたみたいだけど、部室から不穏な気配を感じたと直前でUターン。その後に、リンダとサラの本好きコンビニに誘われて文学部にはいった。こうして話を聞く限りでは、日々楽しく過ごしているようだ。
「・・・ネタバレはNG、でも面白くってのが難しい。」
「たしかに、それは難しいね。」
好きな本を読み、お互いにおススメを紹介し合う。そんな活動が大変で楽しいらしい。僕としては女子たちが姦しく話しているようにしか見えない活動で、さすがに近づけなかった。
中学生の男女関係は微妙なものだ。小学校の時の男女別なグループや派閥は衝突と分解を繰り返し、部活動やクラスなどをベースとした人間関係が構築される。
そんな中で、リーフさんと僕はそこそこ。一緒にいることは多いけど、学校で一番一緒にいるのはリンダとサラの二人だ。3人とも本が好きで性格も大人っぽく、バカ騒ぎもしなければ、オタクということもない。一緒にランチを食べ、勉強や部活に真面目に取り組む、そんな教師たちにとってありがたい集団だ。
僕?僕は新聞部を中心に、それとなく人間関係を作っているよ。毒にも薬にもならならいタイプって感じ。話すほどじゃないし、
「こんにちは、僕もコーヒーを。」
お迎えのラルフさんが到着し、僕たちは宿題を片付けるべく作業を再開した。
この三か月で一番の変化として、ラルフさんが正式にリーフさんの養父になったことだ。戸籍とかそういうのは保留とし、リーフさんはラルフさんの家に住んでいる。それでも男一人だけという状況には不安があるらしく、なにかと理由をつけてはローズさんのところで食事をするように言われているそうだ。
「おや、ラルフ、今日もご活躍だったそうじゃないか。」
「ただのペット探しですよ。ほとんど勘違いみたいなもんですし。」
ローズさんからコーヒーを受け取りながらラルフさんが苦笑する。子どもを預かるのだからとラルフさんは最近になって働くようになった。これまでも街のボランティア活動などには参加していたけど、最近は警察署で雑用のバイトをしているようだ。元警官ということで、ローガンさん以下、いろんな人の頼み事に付き合って社会復帰を目指しているとのことだ。
「なんだかんだブランクがあるから、ちょっとずつだね。」
聞けば休職扱いとなっているらしく、ローガンさんや署長さんからは、街の警官として復職しないかと誘われているそうだ。
「今日はテイクアウトだったさね。」
「はい、金曜日は家で映画を見る約束なので。」
「・・・恐竜パーク。」
「ああ、そういえば今日だったね、録画しとくかねー。」
金曜日の週末、今日は現代に恐竜を復活させた動物園が舞台のパニック映画が放映される予定だった。
「ホーリーも帰るなら送っていくよ。」
ローズさんが料理を包んでくれる間に、ラルフさんがいつものように誘う。そしてそのままラルフ家で夕飯をごちそうになり映画を見て帰る。そんな週末もたびたびあった。
けれど、残念。
「ありがとうございます。でも今日は叔父と待ち合わせをしているんです。」
「叔父?確か、新聞記者だっていう?」
今日は先約があった。ダイナーローズに来ていたのは、時間にルーズな叔父との待ち合わせのためだったのだ。
「・・・残念。」
その話をしたとき、少しだけがっかりしたリーフさんの顔がちょっとだけ面白かった。一緒に映画を見れないことか、僕が良く話す叔父と会えないことか、どちらが残念だったのだろう?
でも叔父さんとリーフさん、いやラルフさんの相性はきっと最悪だ。顔を合わせないほうがいいに決まっている。
いろんな意味で強烈な人なんだよねーあの人。
「こんちはー、あいからず、美人ですねローズおばさん。」
「おい、美人はいいが、おばさんは余計さね。」
ばんと勢いよく開いた扉とローズさん相手に物怖じしない失礼な言動。
「・・・うん?」
「リーフさん落ち着いて、悪気はないし、アレが素面の人だから。」
ローズさんをおばさんといった瞬間にぴくっとなったリーフさんをなだめつつ、僕は飛び込んできた人物を見てため息をつく。
「おや、ホーリー。久しぶりに会ったというのに辛気臭い顔をするな。世の中、ラブ&スマイルだぞ。」
なんというか濃い。
絶対このタイミングを狙って登場したよこの人。ちらりとローズさんを見るとめっちゃ呆れてた。
「外でめっちゃ見てたさね。」
「おいおい、そう言うのは言いっこなしだ。ちょっとした演出。別に中学生になった甥っ子を観察してたとか、デートの邪魔をしていたとかじゃないぞ。」
「だあー、めんどくせーーー。」
有能だけど、メンドクサイ人。
声を大にしてそう言うと、にかっとわらうのもメンドクサイ。僕よりもずっと背が高いのに子供みたいなことしているのがメンドクサイ。
「まあまあ、いいじゃないか。それに会いたいと連絡してきたのはホーリーじゃないか。」
そして、こちらが隠しておきたいことを、隠しておきたい相手にばらす。
「叔父さんのこと嫌いになりそうだよ。」
「ははは、そんなことないくせに。」
レイモンド・ヒジリ。僕の叔父さんはいい人なんだけど、なんというか、こんな人だ。
中学1年生って、どんな人間関係だったか覚えてない?
ただまだ小学校のノリで男女の仲に微妙な距離感があった気がしませんか?
まあ、そんなん関係なく、リーフとホーリーは仲良しなんですが。




