104 何気ない日常 いつもの朝を君とともに
エピローグ的な話 ホーリー君視点です。
某日 早朝
高校生になって僕は新聞配達のバイトをやめた。
学業が忙しくなってきたし色々とやりたいことも増えたというのもあるけど、子どもでもできるアルバイトを高校生の自分がいつまでもしているのもあれだと思ったからだ。今は、近所の小学生が僕の自転車を引き継いで毎朝配達をしている。
僕はといえば、レイモンド叔父さん達の仕事を手伝ったり、新聞屋やダイナーローズの店番のバイトなどをして、小遣いを稼ぐ日々だ。頭脳労働になったおかげで時給は上がったよ。
だから、早起きをする必要はない。学校へ行くだけなら1時間は余計に寝れるだろう。けれども長年続けた習慣はなかなか抜けず、つい早起きし、そのまま新聞屋へ向かうなんて失敗を何度か繰り返してからは、開き直って朝のランニングが習慣になった。
「・・・さむ。」
ジャージに着替えて外にでると、朝の寒さに体が震える。抑え込んで走り出すと徐々に身体があったまるけど、これが自転車だとシャレにならない寒さになったっけ?今頃、後輩も試練の時だろう。
この街の冬はそこそこ長く冷え込む。夜明け前後は特にそうで、湿気がある日はすぐにガスっぽくなって視界が狭くなる。
朝は視界が悪いから冬は遅めに起きる。というのがこの街の習慣になるぐらいだ。
「にゃー。」
「みゃー。」
そんな時間にうろついているのは、新聞配達かネコ、あとは僕のように早起きしているもの好きだ。
これがホントにいない。6時半ぐらいになるまで街の人達はほとんど出歩かない。夜勤の人とか、はっちゃけた若者とかが居そうなものだけど、少なくとも住宅街には猫しかいない。
タン、タン、タン。
コンクリートを蹴る自分の足音がはっきりと聞こえる。自転車で走っていたときはあまり気にならなかったけど、足音というのは意外と大きく響く。以前、ルーザーさんが言っていたけど、鳩の群れに自転車で突っ込んでも逃げないけど、人が歩いているとその音で逃げるそうだ。
朝の静けさの中では、ネコの足音や鳴き声がよく聞こえるし、鳥の羽ばたきとか鳴き声が遠くからも聞こえる。ほかにも、どこかの家から流れるラジオやテレビの音に、洗濯機の回る音や室外機の唸り声など色々な音がある。耳に入る音の正体を考えながら走るのが意外と面白い。
「にゃあーー。」
「みゃーーー。」
ただ、なんか猫率高いんだよねー、この街。
そんなこんなで住宅街を軽く一周する。配達時代よりも距離は短いけどランニングなので、以前と変わらない時間で、ゴールにつく。
「・・・おはよう、ホーリー。」
「おはよう、リーフさん。」
住宅街の外れの一軒家、そのウッドデッキの手すりに身体を預けながら、彼女は待っていた。青いデニムに黒のタートルネック、その上から白いモコモコのアウターを着流している姿が似合っているのは、ここ数年でさらに洗練されたスタイルの良さが良くわかってしまう。長い黒髪は編み込まれて肩に流され、機嫌よさげに細められら黒目も隠されなくった。
「寒かったんじゃない?」
「・・・それはそっちも。」
寒さの盛りは過ぎてこれから徐々に温かくなる時期ではあるけど、まだまだ朝は寒い。だというのにリーフさんは今日も僕を待っている。もう配達はしてないし、約束をしたわけでもない。なんなら今日の配達はもうきていたらしく、彼女の手には新聞が握られている。
中で待てばいいのに。
そんなことを思いつつ、彼女に促されて家へお邪魔する。新聞配達をしていた頃は、軽く立ち話をするだけだったけど、今は時間的に余裕があるのでウッドデッキやリビングでコーヒーを飲んで雑談をするようになった。
「バウバウ。」
「おお、エメルもおはよう。」
「バウバウ。」
ソファーに座ってコーヒーを待っていると、毛玉が足元にまとわりついてきた。相変わらず、真っ黒な毛皮はさらさらで触り心地はいいが、こいつが理由もなしに寄って来ることはない。
「バウ。」
「わかったよ、はい。」
何かを訴える緑の瞳に根負けしてポケットから取り出したビーフジャーキー(個装)を渡す。
「バウー。」
さっさと寄こせよなとばかりに、一声鳴いて去っていく毛玉の中での僕のヒエラルキーが非常に気になる。まあ、あいつの場合はリーフさん以外には大体あんな感じだ。餌をもらっても、食べてやるぞとばかりに尊大だ。人の朝ごはんをカツアゲしておいて、しれっと他でも餌をねだっている。
「・・・どうぞ。」
そんな毛玉と入れ替わる様にリーフさんがコーヒーをもってやってくる。お茶請けのクッキーは彼女が最近ハマっているショートブレッド、イギリスに本店のあるちょっとお高い赤い袋のシリーズのやつだ。朝からクッキーとも思うけど、そんなカロリーを気にしてもしょうがない。
「これ、美味しいよねー。」
「・・・小分けのにしないとすぐ、食べ切っちゃう。」
「そういうときは、小皿を用意して食べるといいって聞いたことがあるよ。」
「なるほど。」
クッキーをきっかけに始まった雑談はとりとめのないものばかり。お菓子や天気の話に学校の出来事など、些細なことだけ。それこそ登校中でもいいのだけれど、そんな雑談に時間を使っていること自体が楽しかったりする。
「・・・そういえば、新作が届いた。」
「もしかして、そこの?」
もじもじと伝えるリーフさんには悪いけど、それは気づいてました。リビングにある戸棚、そこを埋め尽くさんばかりに並んでいるぬいぐるみが、昨日より増えていることは。
「今回もミザリー先輩の新作?」
「・・・そう。」
中学でミザリー先輩と出会って以来、リーフさんは小物集めにハマった。キャラクターとかは気にせずに気に入ったものを集め、自分でも作る。気づけば独身男性の殺風景な家がファンシーハウスのようにかわいらしくなってしまった。家主であるラルフさんは、そんなリーフさんを咎めるどころか、彼女が気に入りそうなグッズを見つけるとお土産に買ってくるぐらい協力的だ。
なお、お土産がリーフさんのお眼鏡にかなわず箱にしまわれると目に見えて落ち込む。すっかり親馬鹿になってしまったよ、あの人。
以前の落ち着いた感じもカッコよかったんだけどなー。
ちなみに、今日は夜勤で留守にしている。高校生になったことで、リーフさんも1人で留守番をするようになった。いやできるようになったか・・・。
「・・・ホーリー、また伸びた?」
会話の流れの中、リーフさんが僕の手の袖口を見ながらそんなことを聞いてきた?
「どうかな?たしかにジャージが少しきつくなったような?」
そうそう、ちょっとした自慢だけど高校生になったら遅れていた成長期が僕にも訪れた。中学のときは遅々として伸びなかったけど、ここ一年ほどで7センチ近く伸びた。おかげで低身長から高校生の平均ぐらいまでにはなったよ。最近は落ち着いていたけど、服の手足がきつくなった気もする。
「・・・このまま追い越されたりして。」
「それは流石に難しいなー。」
揶揄われている。残念ながらモデル並みの身長とスタイルのリーフさんを追い越すのは無理だろう、生物には成長限界というものがある。
とそんな話をしているうちに、コーヒーが飲み終わりいい時間になった。
「あっそろそろ行かないと。またあとで。」
「・・・うん、またあとで。私も準備する。」
戻ってシャワーで汗を流して、学校へ行く準備をしないといけない。コーヒーカップは彼女に託して僕はそのまま外へ出る。見送りはない。30分もしないうちに、スクールバスのバス停でまた会うのだ。そんな必要もないだろう。
「後のこともないから、一緒に登校したらいいんじゃない?」
服なら置いておくといい。ラルフさんにそう誘われたことがあるけど、僕は断っている。仲良しとはいえ、そこまでお世話になるのは気が引けるし、学校の荷物をもってランニングが面倒だからだ。
いや、正直に言うと、理由は違う。
「おはよう、リーフさん。」
「・・・おはよう、ホーリー」
早朝と、登校の時、一日に二度挨拶をする。そのたびに嬉しそうに微笑むリーフさんの顔を見たいからだ。彼女も同じ気持ちだったら嬉しい。
そんなのんびりとしたいつも通りの朝。願わくば、これからも彼女ともに過ごしていきたい。
もっと、色々「俺」に関わる心情とかも書きたかったけど、何気ない日常で終わらせたかったので、我慢です。
これにて、リドル・ハザード本編は完結です。長い事お付き合いいただきありがとうございました
一応、ラルフさん視点での過去話とか、ゲーム通りだった場合の話などの短編も考えていますが、定期的な投稿は一区切りです。
似たようなジャンル?ですが、新作の連載を上げる予定です。
今度はファンタジー物なんですが、そちらも縁がありましたらお付き合いください。




