102 何気ない日常に (学生)
エピローグ的な話 とある先輩たちの話。ミザリー先輩視点です。
2025 1月某日
ダイナーローズは若者のたまり場だ。比較的な安価な上に、スイーツ類が豊富なことで、昼間や週末は、女子や子供向けという印象がある。中学生が背伸びしてカフェデビューをするほか、高校生や酒が苦手な若者が待ち合わせに使われることも多い。
高校生以上は、後輩たちに遠慮して、待ち合わせのみ使って長居をしないというのが暗黙の了解だ。注文はコーヒーかジュースのみ、お菓子を頼む場合はテイクアウト。そんな注文スタイルに、中学生はあこがれ、高校生はそれができる自分に胸を張る。
だというのに・・・。
「おや、ミザリー、久しぶりだね。」
「部長・・・相変わらずそれなんだ。」
「もう、部長じゃないんだがな。」
そんな了解など知った者かと特盛のチョコレートパフェを食べる部長に、相変わらずだとあきれながら、私は、対面に腰かけた。
「アップルパイ、アイスコーヒーで。」
「君だってそうじゃないか。」
「うるさい、黙れチョコ魔人。」
明らかに空気を読まない部長に便乗して、自分も好物のアップルパイを頼む。ここのパイは、サクサクな上にアイスクリームとの相性もよいので、たまに食べたくなるのだ。
「世間の目だとか、暗黙の了解なんてのは、店側からすれば関係ないだろ。金を払えばだれだって客だし、ローズさんからすれば高校生も中学生もガキンチョに違いない。ならば好きな物を食べて何が悪い。」
「そうだけど、そんなはっきり言う?」
部長の言葉には同意であるが、わざわざそんなことを言うのはどうかと思う。
この男は昔から、わかった上で、空気を読まない。同席をして同類と思われたくはないが、今日は相手のおごりという約束なので、席を立つのはもったいない。
「言い訳してる時点で、気にしてるってことさね、ガキンチョ。」
「ぐっすいません。」
と思っていたら、ローズさんに怒られていた。ざまあ。
ちなみに、先に断っておくけど、デートとかではない。この部長とは腐れ縁であるが、そんな中ではない。呼び出しというか頼まれたことがあまりにも面白い話だったからだ。
「で、呼び出した話ってマジ?」
「ああ、大マジだ。なんなら、今ここで通話をしてもいい。」
「OK、信じるから、それはやめろ。」
それはとある企業からのデザインの依頼だった。
デザインといっても、ぬいぐるみ、それも、あみぐるみだ。なんでも9月の新入生歓迎会のフリーマーケットで手芸部が販売したあみぐるみを見た遊園地のオーナーが、たいそう気に入って、伝手をたどってパークの商品のデザインを依頼してきたという話らしい。
そのオーナーというのは、老舗遊園地であるアシストンバレーのオーナーであるマルケット爺さんこと、マルケット・ヒジリさんだ。この街を含め、いろんな街の子供を招待してくれたり、各地の施設に寄付をしたりする慈善家しても有名な人。
そんな有名人が地元を訪れたことも驚きだが、知り合いの高校生を頼って人探しをしたというのだ。もはや推理小説の話ではないだろうか?
「学校側に訪ねてもプライバシーということで教えてもらえなかったそうだ。」
「それで、部長に?」
「ああ、個人的に知り合いなんだ、SNSで知り合った。」
んなわけあるか。
他の知り合いが言ったならばそう言って無視していただろう。だが、この男の人脈というか情報網はどこかおかしい。街のゴシップには詳しいし、変態ナルシストであるあのジェレインと未だに連絡を取り合っていたりする。高校生になって、三か月、怪しげな動画配信を始めたらしいが、フォロワーもそこそこ多いと自慢されたことがある。
「とりあえず、君のXのアカウントを紹介しようかとも思ったが、マルクスさんはそういうのはしないって聞いてな。」
「ナゼシッテイル?」
手芸やデザイン画などをこっそり上げているアカウントを私はこっそり持っている。細々した作品を上げるだけで、フォロワーもほとんどいないそんなアカウントだ。身内はおろか、この男に教えた覚えない。
「新聞部の後輩が教えてくれた。彼らは盗作を疑っていたけど、本人じゃないかって相談されたんだ。僕もまさかとは思ったけど、これ、君だろ?」
そう言って、部長が見せたアカウントは、確かに自分のものだった。
「見る人が見れば、君の作品ってわかるんだろうなって。」
拡大された画像は、私が部活動で撮影したものだ。ありきたりなもので、誰にでも作れるものだが・・・。
「ちなみに俺はわからん。ただ後輩の着眼というか、推理力がすごくてな、これを確かめたかった。」
「だから、呼び出しと、これを確認するために?」
「後輩には、このまま秘密にしておくから安心しろ。」
こういう気遣いができる。いや、借りとか弱みを見つけて自分が優位な関係を作って、何もしないという性格だから、信用ができないし、信用できる。この男はそういう変人だ。
「で、このアカウントの確信がもてたところで、どうする?アカウント経由でやり取りしてもいいし、マルクスさんとしては、君の了承が取れれば保護者の人にも話を通すと言っているが。」
「ああ、それねー。」
私が手芸やデザインに趣味にしていることを、両親はあまりよく思っていない。中学までは自由にさせてくれたけど、高校に進学すると将来のことも考えなさいと、よく言われるようになった。デザイン系の仕事に就きたいといったら絶対反対されるだろう。
仕事は受けたい。遊園地からオファーともなれば簡単な仕事じゃないだろう、でも自分でデザインした商品を売るなんてチャンスに今後出会えるとは思えない。部長が持ってきたせいで胡散臭いが、信頼度は高そうだ。
ただ、両親は反対するだろう。一時的なチャレンジだとしても、学業に支障がでるかもしれない。あくまでSNS上のやり取りとして、デザイン画やサンプルを送るような関係なら、ばれないだろうか?
「筋は通しておいた方がいいさね。」
どうやって両親を誤魔化すかに考えを傾けていた私は、そう言われてローズさんに頭をなでられた。
「悪いね、面白い話だから聞いちゃったよ。だけどバイトや小遣い稼ぎって言うには、ちょっと話が大きくなりそうさね。そういうのは、隠していると、大体面倒な事になるよ。相手があのマルクスさんってなら、仕事相手の顔ぐらいは紹介しておきな。」
「なるほど。」
「そのうえで、いくらも儲けたとかは黙っておけばいい。」
正論のようで、妥協しやすいポイントを教えてくれるからローズさんって好き。
その後、ローズさん立会いの下、私はマルクスオーナーと通話をして、両親を含めて面会する約束をとりつけた。
「あんたも随分手広くやってるさね。」
『ははは、ローズさんが立ち会ってくれたのは心強い。』
ローズさんがマルクスオーナーと知り合いだったのでびっくりした。
『ええと、ミザリー君だったね。売られているあみぐるみを見たけど、ワニのあみぐるみは実に見事だった。ブラッシュアップをしたらきっと、素敵な商品になると思う。ぜひともうちのキャラクターたちでグッズ販売をさせて欲しい。』
ビデオ通話でそう言った相手は、確かにあのマルクス爺さんだった。
あのアシストンバレーのオーナーが自分の考えたあみぐるみに興味を持った?
にわかに信じがたい事実だが、私は夢につながる手ごたえを感じたのだった。
そうそう、夢と言えば、なんだけど。我らが街のスーパースターにして期待のバスケット少年、ジェレイン君は、より一層バスケにのめり込んでいるらしい。
「ジェレインのやつ、手のケガがやっと治ったらしい。」
「いや、別に興味ないけど。」
高校入学のその日に、階段から落ちて右手にヒビが入る怪我をしたことをきっかけに、以前までのチャラさが抜け、走り込みや雑用などに取り組んだ結果、レギュラーとして試合に復帰する日も近いとか。
らしいというのば情報ソースが部長であり、ジェレイン自身がSNSなどによる情報発信を一切していないからだ。あれの偏屈ぷりは昔から変わらない。だからこそ、部長と気が合い、愛想の悪い私のことも覚えていたのだろう。
なんでも入学初日に女子に迫られて落ちたとか・・・。
「あいつの女嫌いが加速しそうだな。同情はしないが。」
「だねー。」
ジェレインには、ずいぶんと面倒な目にあわされたが、余所で元気にしているならそれでいい。少なくともこの街に戻ってくることはないんだろうなって思う。
数年後、期待の新人として雑誌の取材を受けたジェレインが、アシストンバレーのグッズ集めにハマっているというニュースを聞いて驚くことになることを、この時の私達は思いもしなかった。
ジェレインと部長と関わったのはそれっきりだ。今のは何をしているのやら。
2024 12月時点
ミザリー・アン 元手芸部の部長 地元の高校へ進学、臨時収入からストパを駆けて髪型を変えたら知り合いに別人扱いされるのが不満
部長 元新聞部の部長 小学生の時もクラブ長をしていたので、部長というあだ名が定着してしまっている。地元高校へ進学後は、ネット配信者として活動中。機材と通信費のために、新聞配りのバイトをしている。
ジェレイン スポーツ推薦で進学後、手をケガするという不運に見舞われたが、その間に基礎体力を鍛えたことで、苦手だったスタミナやチームメイトと交流がモテて、着実に立場を作っている。女性関係については潔癖ではなく、女性が怖いということがチームメイトにはばれている。




