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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD5 2024 10月

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101/104

101  そして、幕は人知れず破かれる2

 間が開いてしまったのですが、精神病院編は今回で終わります。

 信念、ポリシーというものは、衣食住が足りてこそ発揮されるものだ。

 明日の食事や、今の安全が保障されてこそ、人は雄弁になり、攻撃的になるのだ。普段は寡黙な人間がSNSなどでは過激な発言をするなどがその典型だ。オーガニック食材やらフェアトレードなどと言いながら、腹が減ればなんだって食べる。己の思想に殉じるといいながら、餓死を選べる人間がいないわけではないが、大半の人間は土壇場で手のひらを反す。

 死の淵にたってなお、英雄的な行動ができる人間は、それができるからこそ英雄なのだ。みっともなく動揺し、泣き叫んで何もできない、その方が生き物としては正解だ。

 つい数時間前の彼らがそうであるように・・・。


「無事で何よりです。」

 エントランスホールの中央で蹲る活動家たちに語り掛けながら、ウォルター・レイルマンは人間の弱さについて思う。

 ランバース精神病院の院長を引き継いでずいぶんと経つが、彼らのような活動家というのはいつだって、どこだって、わいてくる。その大半は、病院の実態と職員の誠実さを見れば納得して大人しくなる。だが一部の愚か者は、自分たちが見ているものしか信じず、ウォルターたちを「悪」と盲信する。

 相手が「悪」なので、自分たちは「正義」。その構図を持った相手は、なによりも厄介である。自分たちが正義であることを妄信したら、行動に歯止めが利かなくなり、それが認められないと行動がどんどん過激になっていく。その勢いは決して、油断ならない。

 だが、彼らは自然の脅威という当たり前の危機感をもっていなかった。

 

 山奥で嵐に巻き込まる。

 

 ドラマや小説などでそのような体験は見聞きしたり、旅先で遭遇したことはあるかもしれない。しかしろくな装備も覚悟もない状態で嵐の夜を乗り越えられる人間はほとんどいない。立っていることもできない強風に、飛び交う砂利と雨粒。体温は即座に奪われ、一般販売の電子機器など数分でダメになるし、そもそも持っていられない。避難しようにも方向すらわからない。彼らにできることはミシミシと音を立てる木にしがみついて嵐が去るのを祈ることだけだった。

 彼らの心はすぐに折れた。嵐を予期していたウォルターが、早めに保護を指示していなかったら、彼らの生存は絶望的だっただろう。

 脅威に対して働く生存本能は、エントランスホールという文明の壁に守れた場所にたどり着いたときに、音もなく崩れ去った。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」

 あるものは、膝を抱えて座り込んで、虚空に向かって謝罪を繰り返し。

「ダイジョブ、大丈夫、みんな逃げた。」

「マイケル、クリスタ。ごめん。」

 またあるものは、この場にたどり着けなかった仲間の安否を思い、絶望した。

 「正義」を自認しても、彼らだって人間であり、普段の生活がある。器物破損程度なら正義の犠牲と言えるが、自分たちの無謀でケガ人や安否不明・・・死人がでたとなれば、言い訳もできない。真に仲間を思えば、足を止めることなどありえないが、それを思うことすらできない。それほどにまで嵐は暴力的だった。

 なお、ここにいるメンバー以外は、だいぶ前に計画を諦め、すでに町へと避難していることを、彼らは知らない。ウォルターたちも教える気もない。連絡をするための端末はどこかに落としてしまったらしいし、これをきっかけに大半の人間はグループから距離を置くだろう。そうなれば、彼らが真実を知ることはほぼない。今後は、己の無謀を後悔し、失ったものの大きさも分からずに暗い人生を送るだろう。

「脆いな。」

 ひくひくと動く口元をそっと手で隠す。はた目には同情しているように見えるだろう。彼はまだましな方で、解放している職員たちも、同じように口元が歪んでいたり、呆れた顔をしたりしている。咎める気にはならなかった。

 彼らだって覚悟をもって仕事に臨んでいる。

 患者たちの境遇に同情し、救えるならば救いたいと思うのはウォルター達だってそうだ。原因不明でかつ、理由の分からない心の病に対し、数百、数千という方法を試し、救えなかった。それでもあきらめずに日々、新しい治療を模索し、患者を生き長らえさせる。今はダメでも未来の患者を救う方法をみつけるためにと自分を言い聞かせ、先の見えない職務に務めている。その結果、この病院で開発された新薬は、うつ病などの心の病を抑制するし、診断結果は、早期発見につながっている。自分たちの代では無理でも遠い未来では、救える患者が増えるかもしれない。

 自分たちはそれだけのことをしている。その自負があるからこそ、ウォルター達は活動家の甘い見通しや感情的な訴えに大人の対応ができている。

 でもだからこそ、毎度毎度、手を焼かされてきた相手がひどい目に合っていると思うと同情よりもスカッとした気分になるのも仕方ない。

 感情的には、自業自得の愚か者など放置すればいいとも思っている。だが、そうすると世間からの風当たりが厳しくなるので、事務的に救助を行った。

 これも何度目になるだろうか?

 数えるのも馬鹿らしくなりながら、ウォルターは粛々と行われる介抱を見守っていた。


 翌朝には嵐は去り、自力で歩ける活動家たちは街へと帰り、その後二度と、この地をおとずれることはなかった。



 木乃伊取りが木乃伊になるなお話でした。

 さて、本編用に用意していたプロトは尽きたので、次回はエピローグ的な話をして、リドル・ハザードは完結となります。あと数話お付き合いいだけると幸いです。

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