再会の予感
有名テーマパークのパレードソングが携帯電話から流れる。
その音楽を口ずさみながら、リズムを踏むように葉月が階段を下りてくる。そして、くるっと回転してからテーブルの上の携帯電話に手を伸ばす。
「だっれかなっ!」
携帯電話からはじゃらじゃらといろんなストラップがぶら下がっている。
絶対、携帯電話よりストラップの方が重いはず……。
テーブルで食事をしていた皐月がやたら、ご機嫌の妹の葉月にちらっと視線を向ける。
「へぇぇ……」
メールを見ながら「ふん、ふん」と頷く葉月。
皐月はそんな葉月を放って、自分で作ったカルボナーラをフォークにくるくると巻きつけ、口に運ぶ。
初めて作った割には良い感じ! 料理の才能があるかもしれない……。
自分の手料理に冗談とも本気ともつかない評価をつける。これがいつもできたら才能かもしれないけれど、次に作った時にはたいてい失敗しちゃうんだよなぁ……。
今度は自分の才能のなさにため息をつく。
「さっちゃん!」
うわ、びっくり!
皐月は急に目の前に現れた葉月の顔と声にのけぞった。壁に後頭部をぶつけた。
「いったぁぁぁ……」
「うわ……痛すぎるね、さっちゃん」
葉月が皐月以上に顔をしかめる。その顔に、皐月は痛みとは別の意味で顔をしかめる。
「急になに」
そう尋ねられた葉月が、一瞬きょとんとしたが「あ、そうそう」と今度は皐月の前に携帯電話の画面を差し出す。
見えない……。画面が近すぎて、文字が読めない。
皐月は携帯電話を持っている葉月の手首をつかんで少し離す。
「ふーん……」
そのメールはさやかからのメールで、祐の提案で幼なじみみんなでの食事をすることになったとの内容。日時、場所指定で、提案というか決定事項のお知らせのように見える。
もちろん、皐月にも葉月にも反対する理由がないし、予定もない。
「楽しそうじゃん」
ふっと笑った皐月に、葉月は満面の笑みを浮かべた。
「よっしゃ、決まり!」
葉月はるんるんとメールに返信をし始めた。
流行りの音楽が携帯電話から流れる。
ソファに座っているさやかが横に置いてあった携帯電話を手に取る。携帯電話にはさやかの名前。相変わらず、メールを返すのがはやい。
「おねえちゃん。さっちゃんも、はぁちゃんも行くって」
「じゃあ、私たちも行こうか」
隣に座っていたももかがふぅっと息を吐く。
人見知りの激しいももかとさやかにとって、久しぶりに幼なじみに会うのも緊張してしまう。
みんなと会わなくなって、どれくらいだろう? ふと思う。
ももかは結とたまに会っているけれど、そのほかのみんなとは全然会ってない。
同じマンションに住んでいた幼なじみたちは、祐・悟兄弟、皐月・葉月姉妹は引越してしまった。とは言っても、最寄駅はみんな変わらない。それぞれの家族が住みよくなってしまったのだ。
でも、結局最後にみんなで会ったのは小学6年生の花火大会。
そう考えると、えーっと、10年ぶり。わぁ、10年!
「10年だね」
ももかが思ったことがさやかが口に出す。
「会いたいね」
「ね」
ももかのことばにさやかも頷ずく。
10年ぶりの再会まであと2週間。