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戦災の魔界姫と敵国騎士1★青薔薇の刻印編★  作者: 深窓の花婿
第1章★茨の塔と青薔薇の刻印★
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第5話☆運命の邂逅☆

 それからしばらく菫と太一は静かにしていた。


 潜入しながら竜神女王の情報を探り、情報収集をする。

 ワタルは相変わらず城内を闊歩しながら、貴族女性たちを引き連れているので、凱旋パーティーとやらのパートナーを断るきっかけを逃していた。


 そして、仕事終わりに士官塔へ帰宅しようとしていたとき、同じく仕事が終わったのか私服に着替えたワタルと城内で鉢合わせした。



「……びっくりした……誰かと思った」


 城内の曲がり角で鉢合わせしたため、2人は驚いて同じような大きな目をさらに丸くし、ワタルは菫の体を両手で優しく受け止めた。



「白騎士様、わたしパーティーには出られません。女中が騎士様にエスコートされていたら、あなたが悪目立ちしてしまいます」


 菫がそう言いながらワタルを見上げると、ワタルは面倒そうにチラッと菫を見てため息をついた。


「ルージュにしつこく誘われて、あの場を収めるために誘っただけだ。本気にするな」


 この甘い声に甘い顔で見つめられると、勘違いする女性はたくさんいるかもしれない、とワタルを見て菫は考えた。

 さらにギャップのある冷めた表情と声色。甘い童顔に心ここにあらずな態度は、なんとなく母性をくすぐられた。



「ルージュ様は、格式高い貴族なの?」


「……何故そんなことを聞く?」


「何だか、あなたの性格的にはっきり断りそうなのに、のらりくらりと女中を誘ったりして、面と向かって断りづらそうだったので。立場的に大切にされる貴族なのかなと……」


 ワタルは片方の頬を上げてエクボを見せ、クッと笑った。


「なるほどな、そう考えたか。確かに家柄はいい。上院貴族だからな、国からも大切にされる。そうじゃなくて、ただ面倒なだけだ。おれは騒がれるのが嫌いなんだ」


「そう……」


 腑に落ちない言い方だが、菫はとにかくパーティーに出なくて良いとわかって心底安堵した。


 あとはどうやって、騎士団長たちから青薔薇の刻印を見つけだすかが問題だ。


 

「凱旋パーティーとは、どういうパーティーなのですか?」


「……え。知らないのか」


「わたし女中になったの最近です。そのときからすでに凱旋パーティー、凱旋パーティーと騒がれていました」


「緑騎士団が難しい魔物を倒してきたんだよ。魔人の生き血を好む残虐な魔物でな。緑騎士団長コウキが指揮をとりとどめを刺した。そんなコウキの魔物討伐を祝した凱旋パーティーだよ」



 菫がおとなしくワタルの話を聞いていると、後ろから「ワタル!」と軽やかな声が聞こえてきた。

 菫が思わず振り返ると、背の高いひょろりとした男がニコニコしながらワタルを見下ろしていた。


「やあワタル、今帰り? 珍しいね! 女の子と2人きりなんて。竜神女王にご執心していたのはもういいの……か……?」


 背の高い男は、見下ろして菫の顔を覗き込んだ。みるみるうちに男の目が丸くなり、頬が紅差したように赤くなる。



「あ、えっと……君は……?」


 動揺したようにしどろもどろに言う背の高い男の態度を面白く思ったか、ワタルがフッと皮肉めいた笑いを浮かべた。


「こいつは最近女中になった女。おれのストーカー」


「ちょっと。やめてよ、違います」


 ワタルの言葉に頬を膨らませ、思わず菫はワタルを見た。ワタルはニヤニヤ笑いながら菫を見返している。

 からかっているのだ。


「でもお前、おれの寝室に忍び込んでたじゃん」


「あれは誤解です。掃除をしていたらうとうとしてしまって……」


「ふーん。うとうとしておれのベッドに横になったわけ。上手い言い訳考えたもんだな」


「言い訳じゃないです。白騎士様が不快ならあなた関連の仕事を外してもらいます」


「何言ってんだ、ただのわがままじゃねーか」


 菫とのやりとりをしながら楽しそうに笑うワタルを見て、背の高い男は珍しそうにワタルを見たあと、菫に向かって爽やかな笑顔を見せた。


「お疲れ様、いつも掃除をありがとう。俺は緑騎士団長コウキ。君は……ワタルの専属女中なの?」


 緑騎士団長コウキ、と聞いて菫はハッとコウキを見上げた。かなり背が高くひょろりと細長いので、菫の首が痛くなりそうだ。

 天倭戦争で八雲を殺した男……こんなに爽やかな優男だとは想像しておらず、菫は面食らった。



「いえ、わたしは白騎士様の専属女中ではありません」


「おれのストーカーだよな」


「もう、違うってば」


「ははは、膨れた牛みてー」


 ワタルがニヤニヤしながら菫をからかってくる。


「すみません、失礼しました。緑騎士団長コウキ様、わたしは最近女中に就職いたしました、菫と申します」



 きれいなお辞儀で挨拶をした菫に、コウキは熱っぽい視線を向けた。

 そんな菫を見つめるコウキの熱に気付いたのか、ワタルが冷めた声で静かに言う。



「人選はしろよコウキ、もっと常識的なヤツを専属に付けることだな。その女はおれのベッドで勝手に寝るストーカーだ。もっと純真で奥ゆかしいヤツを専属に付けろよ」



「いや……そんなんじゃないって。ただ、綺麗な人だなって思っただけで……っておい、変なこと言わせるなよワタル!」


「ははは」


 ワタルがコウキをからかって楽しそうに笑った。


「えっと……俺、今度凱旋パーティーの主賓なんだけど、菫、君をパーティーに招待してもいい? 俺のパートナーになって欲しい」


 え? ここでも誘われるの? と菫は驚いてコウキを見上げた。

 ワタルもコウキが菫を誘うとは思っていなかったのか、驚いたように菫と同じような角度、同じような表情でコウキを見上げた。

緑騎士団長コウキは風の精霊の加護を受けており、風の魔法が使えます。【風のコウキ】の異名があります。

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