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戦災の魔界姫と敵国騎士1★青薔薇の刻印編★  作者: 深窓の花婿
第1章★茨の塔と青薔薇の刻印★
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第4話☆太一潜入☆

 目を合わせた瞬間、ルージュがワタルの腕を引っ張り、強引に菫から視線を外させた。


 ワタルはルージュの方へよろけたが、視線はそのまま菫を見て離さなかった。


「凱旋パーティーのとき、迎えに行くから。地味なドレスで待ってろよ」


「無理です、わたしドレス持っていません」


「ならばおれが準備して行く」


 菫の声にため息をついたワタルは、最後にそう言うとルージュの金切り声を聞きながら逃げるようにこの場から去って行った。


 ルージュは菫を睨みつけると、フンと顔を背けてワタルを追いかける。絵に描いたようなライバル心に、菫は思わず口元をあげて微笑んでしまった。


「いや、すごい方ですなあ、あのお嬢さん」


 柱の影から声をかけられた菫は、ビクッと肩を上げた。太一が黒いマントをなびかせながら狐……ではなく鬼の面をかぶって菫に近付いて来た。

 ふわふわの茶髪がやわらかそうに鬼の面にかかる。



「太一様、鬼になったの? 狐面はどうしたの?」


 小さい頃から種類は色々だが狐面をかぶり続けてきた太一が、鬼面をかぶっていたので菫は驚いた。

 相変わらず彼の素顔は見えない。



「天倭戦争で、ボクは天満納言……天界国軍師の片目を潰しました。黒騎士団員になりすまし潜入しているとバレぬよう鬼面に変えました」


 菫はそれを聞いて顔を曇らせた。


「待って。太一様まで潜入することないわ。だいたい天満納言と対峙したのなら、声を聞かれているのでは? 危険です、あなたは隠れ里にいて下さい」


 倭国や倭国城が壊滅した今、生き残りの倭国民たちは、太一たち陰陽師が張った山中の結界内に作った隠れ里で暮らしていた。

 早く倭国城や城下町を建て直し、暮らしを安定させなければならない。


「竜神女王様を救うことは、倭国民たちの希望になります。しかしそれにより菫様まで天界国に囚われることがあれば意味があるまい。ボクは近くで菫様をお守りすると決めております。菫様が女中ならボクは黒騎士団員になりきる。菫様以外には正体がバレぬよう気配を消しますゆえ」


「でも危険です。天満納言は太一様のことを探しています。捕まったら処刑されてしまいます」


「菫様は心配性ですな。小さい頃から変わっておりませぬ」


 鬼面の下でクスッと笑う気配がして、太一は菫の束ねた髪の毛をサラッと弄ぶように触った。

 


「太一様は陰陽師長のご子息で、わたしたち幼なじみですし、小さい頃からわたしの兄弟と4人で遊んだ仲じゃないですか。家族のように心配するに決まっています」


「菫様。ボクを心配して下さるのと同じように、ボクも菫様のことが心配なのです。わかってくだされ」


 太一の真剣な声に、菫は口をつぐむ。


「それに、ボクも竜神女王様の情報を探りたいのです。早速菫様に報告できることがありますゆえ」


「報告?」


 潜入してあまり日が経っていないのに報告とは、さすが太一様、と思いながら菫は太一を見上げて報告を待つ。


「菫様は紫苑の塔をご存じか」


 太一からも紫苑の塔という単語が聞こえるとは、菫は驚いた。天界城では有名な制度なのだろう。

 女性が天界城で働く男性を癒やすという名目のようだが、菫は紫苑の塔の女性たちがどのような気持ちで騎士や貴族に奉仕しているだろうかと、悲しい気持ちになった。



「女性たちが身を売り、対価に国が彼女たちの生活を保障する場所だと聞いています」


 太一は表情の読めない鬼の面で静かに頷く。



「その紫苑の塔にボクの式神を数名、遊女として潜入させております。うち1体の式神、ビョウが相手にした騎士団員が、興味深いことを言っていたそうです」


「何でしょう?」


「騎士団長の中に、青い薔薇の刻印を体のどこかに刻んだ者がおるそうです。その刻印の主は竜神女王様に好きなときに会いに行ける権限を持っているらしいのです」



「体に青い薔薇の刻印?」



「はい。その刻印は1人だけしており、天満納言が竜神女王様の世話ができないときの代理だそうです。ただ、その刻印をしている者が誰かは探れておらぬそうです」


「茨の塔の合鍵などを持っているということでしょうか」



「恐らくその類でしょうな。竜神女王様と接触できるとしたら、騎士団長からかかった方が良い気がいたします。正直、天満納言からアプローチはかけづらいので」


「その青薔薇の刻印の騎士団長を探し出したいですね」



「はい。式神をとりあえず全員潜り込ませて探っておりますが、騎士団長にはなかなか指名されないようです」



 太一の言葉に菫は頷いた。


「そういうことならわたしが探ってみます」


「ま、ま、待って下され! 菫様はおやめください! ボクの式神に任せて下され」


「ふふ、何慌ててるの」


 菫は太一の慌てようがおかしくなって思わず笑ってしまった。



「ボクの……ボクたちの菫様が穢されたら我慢なりませぬ」



「なにもわたし、紫苑の塔に入り込むわけではないですよ。女中の立場から探るの」


「危険です」


「それに、あなたのお父様……八雲様を戦争で殺したのは、緑騎士団長コウキと報告されています」



 太一はハッとしたように息をのむと、菫を見下ろした。


「……お礼を言いたいくらいですな」


 太一の小さな声は菫には届かなかった。


「大切に取っておく花でもないので、ここで散るのもまた一興と覚悟します」


 微笑む菫に、太一は菫の両肩を掴んで力を込めた。



「肝が据わった王女様ですな……」



「天界国に攻め込まれたときからすでに心決めていますからね。今のわたしは父親を殺した方とでも喜んで寝るわよ」



 太一は力を込めた手をふと離した。頑固な部分がある菫がこうなったら誰の話も聞かないと知っているからだ。



「それから、倭国民を早く隠れ里へ向かわせたいです。倭国の生き残りは早く保護したい」



「菫様。自分を大切になされよ。あなたのような方が安く売って良い体ではないはずですぞ……」



「……そんなことを言ったら、紫苑の塔の女性たちも同じだわ」



「菫様……倭国民のために自分の体を軽んじる気持ちは何となくわかりますが……後生ですから」



 懇願するような声に鬼の仮面のギャップが笑えてしまい、菫は思わず唇に弧を描いていた。



「太一様はもう隠れ里に向かった方が良さそうです」



「いえ。ボクは菫様をお守り致します。このまま天界国で黒騎士団員として潜り込んでおりますよ」



「倭国王女は死んだと思われているので、危険ではないですよ。それより太一様は天界国が総力を挙げて探しているのですから」



 菫が引かなかったので、太一が鬼仮面の奥で小さくため息をつくのが聞こえた。



「危険な騎士団長は沢山おるのですよ。例えば橙騎士団長カルラ。ヤツは相当な曲者ですぞ。会ったことございますか?」



「いいえ、ないです。わたしが潜入して会ったことあるのは、白騎士団長ワタルだけです」



「ボクはヤツを見たことがありますが、橙騎士団長カルラには気をつけて下され。気味の悪い得体の知れぬ男でした。近付くことも危険です。菫様の毒にしかなりませぬ」



「橙騎士団長カルラね。わかりました、気を付けます」


 菫は反芻するようにカルラの名を呼ぶ。


「きっと菫様を躊躇なく薬品漬けにするような、変人研究者です。ヤツは左目の下に泣き黒子があり、死者を蘇らせる禁じられた研究をしているとの噂で、近眼らしく眼鏡をかけており、猫背でした。そういう男がいたら決して近付かぬよう」


「はい……」

白騎士団長ワタル→甘い声、甘い顔立ち、辛口言葉

緑騎士団長コウキ→太一の父親、八雲を天倭戦争で殺した

橙騎士団長カルラ→左目に泣き黒子、眼鏡、猫背、気味悪い男

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