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戦災の魔界姫と敵国騎士1★青薔薇の刻印編★  作者: 深窓の花婿
第1章★茨の塔と青薔薇の刻印★
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第1話☆天界国潜入☆

 天界国が倭国に攻め入った『天倭戦争』が終わりを告げて3年が経った。


 敗戦し、壊滅状態になった倭国の生き残りは散り散りになり、未だ瓦礫が残る倭国跡地に帰れないでいる。


 国民の希望だった倭国王族の吸血王は、赤騎士団長に殺されて崩御。

 竜神女王は天界国の捕虜となり、幽閉されてしまった。


 これは神界、人界、魔界、冥界の4界のうち、魔界で起こった出来事。

 壊滅した倭国の、再建までの物語である。


☆☆☆☆☆


(すみれ)様、本当に天界国に潜入するのですか」


 心配そうな声で、陰陽服をまとい狐のお面をかぶった倭国の生き残り、王室陰陽師の太一(たいち)が菫を見下ろした。


 吸血王と竜神女王の娘、菫王女は狐のお面を見上げながら頷く。外したところを見たことのない狐面の太一の素顔は見えないが、心配している表情なのは容易に想像がつく。


「はい、もちろんです。潜入して天界国の内情を探らないと、母を……竜神女王を助けられないでしょう?」


 菫はふわりとした前髪を揺らしながら柔らかい口調で太一に返す。


 倭国王女である菫が、天倭戦争で命からがら逃げ出して3年後。味方の体制が整ってきたこの契機に、母親の竜神女王を救うべく天界国に潜入を開始しようとしていた。


 太一は倭国王族に代々仕える名門陰陽師の家系で、小さい頃から陰陽師長の父親、八雲に着いて倭国城に遊びにきていた。

 陰陽師として純血を保ち、親しい親族との近親婚を繰り返してきた稲田一族の次期当主だが、親族たちと当主争いに巻き込まれているらしい。



 王女と陰陽師という立場だが、友人のように接してきたため、気心がしれている。



 太一の素顔は誰も知らない。なぜか常にお面で顔を隠し生活をしていた。

 稲田一族間では周知の事実のようだが、太一は他人に顔を見せられないのだそうだ。



「実はね、天界城女中の求人が出たから受けてみたんです。わたしは女中に扮して、お母様の情報を得ようと思います」



「菫様が潜入するのであれば、ボクもお供致します。竜神女王様がどこにおるのか、情報を探ります」



「太一様の気持ちは嬉しいですけど、あなたは天倭戦争で相手軍師に怪我を負わせています。もし見つかったら大変です」


 菫の心配をよそに、太一はお面の下からクスッと笑うような気配がした。



「体を張る国民思いの王女様に言われたくはありませぬな。ボクも倭国を支える1人の陰陽師として、ご一緒させてくだされ」



 太一を見上げ、菫は考えた。

 太一の父親、八雲も戦争で散った1人だ。きっと敵を討ちたいと考えているのだろう。



 菫が沈黙したからか、太一は見透かすように菫の手を掴んでギュッと握りしめた。



「父の敵を討つなどは考えておりませぬよ。安心なされ。今はただ竜神女王様のことを救うことだけを考えております」



「太一様……」



「命からがら戦争から逃げ出せた身です。倭国民がまたあの土地に暮らせるよう、尽力致します。菫様のお側でお支え致します。全てはあなたのために」



 頼もしいな……と菫は太一を見上げながら思った。菫が守らなければならない立場なのに、太一は献身的にひたすら寄り添ってくれる。

 天界国に太一がいると思えば、心が軽くなる。

 菫は太一の手を握り返すと、決意を込めて頷いた。



☆☆☆☆☆



 女中として潜入し働き始めて少し経った。構造は隠密部隊から報告を受けていたが、実際見ることでようやく天界城の構造がわかってきた。


 まずは天界城と呼ばれる中央にそびえ立つ白亜の美しい城が存在感を示し経っている。

 ここに王族が住み、公務をしている場所である。



 天界城を正面に見て左側に大きな蒼い塔があるが、そこは通称騎士塔と呼ばれ騎士団長や軍師などの住居になっているようだ。


 彼らの執務室もそこにあるらしい。



 天界城から見て右奥には紫苑の塔と呼ばれる、遊女が住む塔がある。ここは騎士たちや大臣、天界国で働く男性が夜遊べる慰みの塔となっているらしい。



 次に天界城に向かい左側の塔……騎士塔の前列にある小さな建物は、士官塔と呼ばれ城に仕える従者たちの住居となっている。ここに菫は住んでいた。


 さらに奥、目立たない場所には、一際高く細い、天まで届きそうな塔が茨をまといそびえ立っていた。


 茨の棘で包み込まれ、この茨の塔には誰も入れなくなっていた。



 恐らくこの茨の塔に捕虜にされた竜神女王が幽閉されているのだろうな、と菫は目星を付けていた。


 この高くそびえ立つ茨の塔の鍵を見つけ、最上階にいるであろう竜神女王を救う。


 菫は庭掃除をしながら茨の塔を見上げ、母の救出を誓うのだった。

読んで下さりありがとうございます。

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