第10話☆協力者☆※
食事を終えた2人は、VIP席から夜景を眺める。
個室から見下ろすオークション会場は光が煌めいてとても美しく見えた。
リョウマが菫を思わず見惚れるように眺める。
「菫様、本日はカラムの町に泊まることになりますが、コウキの家に誘われていましたね」
「あ……そうなの、コウキ様ご家族を天倭戦争で亡くされて天涯孤独だとおっしゃっていました。だから誘ってくださったんでしょうね……」
「甘い!」
突然リョウマが大きな声を出して仁王立ちをした。菫はそれに驚いて目を丸くする。
「え、な、なにが?」
「下心があるに決まっている。コウキは菫様を家に連れ込んで夜伽をさせるつもりに違いない」
「えっ、まさか。リョウマ様じゃあるまいし……」
「は?」
「リョウマ様が夜伽をさせると言ったとき、コウキ様は止めていましたよ。紳士だし大丈夫よ」
「ぐっ……」
リョウマは菫の言い分に言い返せず、言葉を詰まらせた。
「では、コウキの家に泊まるというのか? やめておけ、あいつは……狂っている。女を残虐に……」
リョウマは菫が期待の目で見ていることに気付き、ハッと言葉を飲み込む。
「女を残虐に?」
「……やめておこう。噂にしか過ぎない」
リョウマは言いづらそうに口を閉ざした。コウキの変態ぶりを聞きたかった菫は、少しガッカリして肩を落とした。
「白騎士様も教えて下さらなかった」
「は?」
「コウキ様の秘密、白騎士様も教えて下さらなかったの」
「……無闇に言いふらす奴ではないからな、ワタルは」
「知りたいです、教えて下さい」
「……いえ。女性は聞かないほうが良いです。それより菫様、俺と2人きりで夜を過ごすと言っていましたね」
「はい」
「それは俺の夜伽をしても構わないと……いうことですか」
リョウマの問いに菫は笑ってしまった。
「なあに、急に下手に出ましたね。わたしを性欲処理の道具にしようとしたのに、倭国王女だとわかったら、お伺い立てるようにするの?」
「ゴホゴホっ……」
「正体を知る前は、貧民で下女のわたしを強引に抱こうとしていたのに?」
「ぐ……結構言いますね……菫様……」
リョウマが困惑したように呟く。今まで当然自分より身分が下だと思っていた菫が、実は遥かに立場が上にあると知って、どのような態度をとったらよいのか戸惑っていた。
「ふふ、あなたが権力至上主義者だと聞いたときから、こうしようと考えてたの」
「どういうことですか……」
菫は戸惑うリョウマに向かって微笑むと、カップルのようにリョウマの隣のソファに座った。
「色々聞きたいことがあるのです。ええと、まずは、そう。裸を見せて欲しいな」
「……は? い、いや……待て、こんなところで……権威ある方とそのようなこと……」
リョウマは慌てたが、菫は強引にリョウマをソファに押し倒すと、馬乗りになった。
「す、菫様?」
リョウマが上半身を起こして菫に向き合う。ふと2人は目を合わせた。
菫を膝に乗せた状態のリョウマは困惑したが、菫はリョウマのネクタイをピンと引っ張ると、結び目に手をかけた。
「脱がせても?」
「……構いませんが、倭国王女は俺を慰めの道具に使うおつもりですか?」
怪訝そうに問いかけるリョウマに、菫はおかしそうに笑った。
「既婚男性に慰めてもらうほど落ちぶれていないわ。いくら出来損ないの倭国王女でもね」
出来損ないと自虐じみたことを言う菫が気になったが、リョウマは少し考えて口を開いた。
「では……なぜ俺の裸を見たい?」
ネクタイを外し終わった菫は、クスッと笑いながらゆっくりとシャツのボタンを外していく。
倭国王女だと頭にあるためか、激しい抵抗も出来ないリョウマは、どうして良いかわからず、少し息を上げながら脱がされていく服を眺めるしかなかった。
「確認したいの。あなたに刻印がないか」
菫は満足そうに頷くと、上半身裸になったリョウマに向かってにやりと笑った。
「刻印……?」
女性経験が豊富のはずのリョウマだが、上半身をじっと見られている視線と、敵国王女に馬乗りになられた屈辱と、自分が可憐な白皙の美人に見下されているという扇情的な光景に、感情が混乱し良くわからなくなっていた。
均整の取れたリョウマの肉体はまるで彫刻のようだった。筋肉の付いた上半身をじっくり眺めながら、菫は思わずリョウマの割れた腹筋に指を這わせる。
「ん……っ」
感じたリョウマが声を上げ、ビクッと体を硬直させる。
「ごめんなさい、つい本能で触っちゃった……ずいぶん艶のある声出しますね」
「くっ……誰のせいだと……思っている……」
吐息を出しながら色気のある表情で菫を見上げるリョウマに対して、腕を持ち上げて脇までじっくりと確認する。
「ないわね。立って下さる? 背中も見たいの」
「は……」
リョウマは訳がわからず、菫を見上げた。
「馬乗りになられたままでは立てませんよ、菫様。どいて下さい」
リョウマは菫の脇の下に両手を差し入れ、ヒョイと菫を持ち上げた。
そのままソファから降ろし、リョウマもソファから起き上がり、立ち上がって菫に背中を見せた。
「どうですか、俺に刻印とやらはありますか」
菫はリョウマの背中を確認する。長い髪を前に追いやると、左背中から右腰近くにかけて、1本の切り傷の跡が長く付いているのを見つけた。
剣で斬られたような古傷だった。
「刻印はありませんけれど、傷跡が……」
菫はリョウマの傷跡に沿って指を這わせていく。
菫の手つきにゾクゾクしたリョウマは、思わず身を硬直させた。
「はっ……昔の傷だ……あまり触るな……」
「ごめんなさい、痛かった?」
菫が慌てて手を離したが、リョウマは下を向いて首を振った。
「違う。もう痛くはない……俺に襲われたくなければ煽るような真似はするな……」
「ああ……大丈夫よ、リョウマ様なら。権力が上の王女を襲うなんてこと、しないでしょ」
完全に立場が逆転したリョウマは、感情を我慢するように拳を握ると、下を向いて菫の煽りに耐えようとした。
この女、全て計算してやっているな、と思ったが、今や立場が上の菫になす術はなかった。
「上半身はないわね。じゃあ次、下半身を確認させて」
「……は? 俺の話を聞いていたか? 襲われたくなければ煽るなと言ったばかりだが?」
リョウマが菫を振り返り、見下ろしながら言うと、菫は腰に手を当てて仁王立ちをしながら微笑んだ。
「うふふ、わたし、王女。あなた、貴族」
「くそ……生意気な……」
リョウマは菫を一瞥すると、覚悟を決めたようにベルトに手をかけた。
「脱がしましょうか?」
ニヤニヤしながら菫が言うので、リョウマはフンと顔を背けると、思い切り良く下半身も全て脱ぎ捨て、全裸になった。
菫は頷くと、下半身も確認する。
さすがに何も出来ずに立たされているだけでは恥ずかしくなったのか、フイと下を向いた。
「リョウマ様、ご結婚している身で他の女性の前で服を脱ぐのは、これを機にやめた方がよろしいですよ。奥様を悲しませないように」
「……向こうに愛人がいてもか?」
「え?」
「結婚し、3年経った今も初夜を迎えていない夫婦に、倫理など存在すると思うか?」
菫はリョウマの目を見あげる。嘘ではなさそうだ。
結婚して3年経つのに、夫婦の営みをしていないということだろうか?
気になるところだが、菫は今は青薔薇の刻印を探すことに集中することにした。
下半身を見ると、菫の視線に合わせて局部を手で隠そうとしたリョウマだが、菫はそれを許さずにリョウマの腕を取った。
「隠さないで。全てわたしに曝け出してね」
囁くような菫の声にビクッと身を強張らせたリョウマが、両手を横に広げる。顔が赤く染まっており、視線は菫から反らすように下を向けていた。
「なあに、さっきから随分可愛らしい反応しますね」
クスッと悪戯っぽく笑った菫は、リョウマの周りをゆっくり一周して体を眺めた。
「見えづらいところも全て見せて。局部、触るわよ」
「……は……」
リョウマは菫に自分の体を見せやすいように動かす。菫はその間ジロジロと体を眺めるものだから、さすがにリョウマも羞恥に耐えた。
「……ないな。ありがとうございます。服を着て良いですよ」
ため息をついた菫が言うと、リョウマはホッとしたように服を着た。
「菫、その、何を……」
「青薔薇の刻印を体のどこかに刻んだ騎士団長を探しています」
「青薔薇の刻印……」
「その刻印を刻んだ者は、国王と天満納言同様、茨の塔に好き勝手入れる権限を持っているそうです。つまり、好きなときに竜神女王と会えるそうです」
リョウマは驚いて目を大きくさせた。
「バカな。竜神女王は俺たち騎士団長でもその姿を見た者はいないはずだ。天満納言と国王のみのはずだぞ」
菫は頷くと、崩れていたリョウマの首回りの服を直し、ネクタイを締めてあげた。
「あなたも知りませんか。リョウマ様、あなた以外の騎士団長の誰かは、わたしの母と自由に会っているということです」
「そう……なのか。俺以外の騎士団長は6人。その中の1人が竜神女王と接触しているということか……」
「はい。もし、機会があれば青薔薇の刻印が誰なのか探ってくださいませんか?」
「ああ、わかった……」
考え込むように顎に手を充てるリョウマに、菫はそっと声をかけた。
「……強引なことをしてごめんね。恥ずかしかったね」
そう言うと、リョウマの頭を優しく撫でた。撫でられながらリョウマは「くっ」とおかしそうに笑う。
「やめろ、俺は子供ではない」
そう言いながらも嫌がるそぶりを見せずに、リョウマは撫でられるがままだった。
「……双頭院が捕まった今、家のことが心配でしょう。行って下さい。没落しそうになったら、家族みなさんで倭国にきてね。いいポストを用意しておきますよ」
「くくっ、引き抜きか? この俺を」
リョウマは楽しそうに笑うと、菫を見て目を細めた。
「菫の資質に惚れ込んだ一人として、良い地位でなくてもいつでも呼んでくれ。俺はあなたならどこにいても助けに行くから」
「ありがとう、リョウマ様大好き!」
菫はリョウマの首に飛び付くと、リョウマの頰に感謝のキスをした。
リョウマは菫を抱きとめると、感謝のキスに応えるように菫の背中を抱きしめた。
☆終わり☆
腹を割って話してみると、案外菫とリョウマは馬が合ったようです。
波長が合うのか、2人の世界に入り込みやすいです。
隠れドS、隠れドMで相性は良いのかもしれません。




