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戦災の魔界姫と敵国騎士1★青薔薇の刻印編★  作者: 深窓の花婿
第2章★権力至上主義の男★
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第8話☆リョウマ陥落☆

 そうか、貧民街の奴らに惜しみない施しを与えていたのは、自身の支持を得るためと、町民の3分の2はいる貧民街の有権者からリコールの署名を得る目的があったのか……



 貴族や富裕層の人数は、もうすでに貧民街をとうに割っていた。

 それを瞬時に見抜き、判断して双頭院失脚を目論み、町長選を開く。

 貧民街の住民はこの町の3分の2以上いるのだから、再び双頭院が出馬しても貧民街の支持を得ている菫サイドは決して負けない……



 ここまでして貧民たちを救おうとしているのだ。



 しかもかなり早く決断した。この速さでは富裕層の反対が間に合わず、署名活動の邪魔もできない。

 かなり優秀な仲間が菫のバックに付いている。

 いや、指揮をとっていたのは菫だった。この頭の回転の速さと決断力の良さ、上に立つ者特有のものだ。



 リョウマは菫の腰を抱きながら、考えを巡らせていた。



 この菫という女は、なぜ自分ではなく、他人を救おうとするのか、不思議だった。

 自分よりも他人を優先する奉仕の心は、どこからくるのか。むしろ何かに懺悔をするように、悔いるように人助けをしているように思える。



 その無償の愛はまさに女神のように思えるが、今や菫の心の内を知った今、その単語を口に出したら彼女が苦々しく思うのを予見できるため、言わないようにしようとリョウマは心の中で誓った。



「リコール? ふざけるな!」

「薔薇の仮面を取れ! 卑怯者!」



 双頭院が立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。

 オークションに出るのは富裕層ばかりなので、双頭院派が多く、菫への暴言が浴びせられた。



 やがて菫に向かって物が投げられる。暴言と共に紙くずや小物などが飛んできた。

 硬いものが投げられたのを確認した瞬間、リョウマは菫をかばうように飛んできた物を腕で弾いた。



「リョウマ様! ごめんなさい、わたしのせいで。お怪我は?」



 菫が心配そうにリョウマの腕を触ったが、リョウマは腕を引いた。



「お前は自分の心配だけしていろ」



「え……」



「……必ず俺が守る。安心して話せ」



 フッとリョウマが破顔した。菫はリョウマの笑顔を見たのはこれが初めてだった。

 思ったより悪戯っぽく、思ったより子供っぽい顔だった。



 菫がリョウマの腕を取り、怪我の具合を見ようとしたが、その隙に双頭院が舞台に上がり、菫の腕を掴んだ。



「私の町で勝手なことをするな! 小娘が!」



 小太りの男は、菫の背よりも低かった。菫は双頭院を見るとニヤリと笑った。



「あなたが双頭院?」



「そうだ」



「嬉しい、やっと会えた」



 菫はクスッと蠱惑的に笑い、双頭院を見る。



「私の町で好き勝手をしないで頂こう。リコールなど、嘘をつくな!」



「あら、本当ですよ。署名はここに」



 菫は先程隠密部隊にもらった貧民街からの署名をちらつかせた。



「貧民街の有権者の署名? バカめ。奴らは字を書けないし読めない」



「なるほど、彼らの識字率を下げることでリコール封じをしていたと。きちんとした教育も受けさせていないのでしょう。この町は富裕層で成り立っているの?」



「……当たり前だ! 我々富裕層が金を稼ぎ、貧民に施しを与えているのだ」



 菫に飛び掛かってきそうな勢いの双頭院に、リョウマは警戒するように菫の腕を掴んで守るように囲った。



「執務室から拝借した財務書類を拝見致しました。おかしいな。帳簿と町の財源が一致しませんね。裏帳簿でもあります?」



 財務書類を眼前に出すと、双頭院は慌ててそれをひったくる。



「貴様! 私の執務室に勝手に入ったな!」



「いえいえ。そんな捕まるようなことは致しません。わたしの仲間があなたの優秀な秘書さんにちょっとお願いしてお金を握らせたら、下さいましたよ。まあ秘書さんは、もう荷物を纏めて安全なところ移住しましたけれど」



 菫の言葉に、リョウマは思わず笑ってしまった。



「金握らせるのも犯罪だ」



「本当? わたし、捕まっちゃう?」



 おどける菫に、リョウマは肩を竦める。



「その前に双頭院を汚職の罪で突き出す」



 それに気付いた双頭院はリョウマを睨みつける。仮面のときは気付かなかったようだが、低音の声で気付いたのだろう。



「貴様、リョウマか! お前の父を……コテツを呼んでこい! 私が失脚したらお前の家も没落するぞ」



 リョウマは静かに双頭院を見ると、頷いた。



「それならばうちも悪銭を稼いでいたわけだ」



「リョウマ!」



 双頭院が怒鳴ると、リョウマは菫を見る。



「うちには幸いルージュがいる。ルージュが継げば問題ない。俺は恐らく双頭院を逮捕することで実家から勘当されるがな」



双頭院に宣言するように言うと、双頭院はリョウマに向かい怒りの形相を見せた。



「貴様! 私を裏切るのか! お前の家を優遇してきた恩を仇で返すか!」



 菫はリョウマに代わり、双頭院に口を開く。



「彼は本日たまたまわたしに雇われ、ボディーガードを引き受けてくださっているだけで、リコールには一切関係ありません」



 菫の言葉に、リョウマは吹っ切ったように笑顔を見せる。



「かばうな。俺は俺の意思でここにいる」



「……もし本当に勘当されたら、わたしのところに来て下さいね」



「ククッ。本気にするぞ、俺は」



 菫はリョウマを見た後、困ったように笑い、双頭院に向き合った。

 そのとき、壇上の1部にドロンと白い煙が立ち込め、その中から忍び装束を来た男が現れた。

 男は静かな声で菫に報告する。



「菫様、裏帳簿見つけました。金の延べ棒も双頭院の自宅地下室から発見しました」



「ありがとう、思った通りですね」



 菫は裏帳簿を受け取ると、ざっと目を通して満足そうに頷くとリョウマに渡した。



「証拠、見つかっちゃったね。リョウマ様、魔界領域外のこのカラムの町ですが、双頭院を汚職で逮捕できますか?」



「ああ。所詮この町で勝手に作った法律だ。俺の……天界国赤騎士団長の権限で逮捕しよう」



 双頭院は菫に罵声を浴びせかけていたが、リョウマが軽く手を掴んだだけで地面に倒れ込み、リョウマのなすがままとなった。



「……リョウマ様。ごめんなさい。あなたの生まれた町を好き勝手してしまいましたね……」



 菫が謝ると、リョウマは小さく首を振った。



「俺も貧民たちを敬遠していたが、為政を行う者としてそれではダメだとお前から学んだ。見たか、貧民街の奴らの菫を見るキラキラした目。お前は考えは甘いが、弱者に寄り添える優しい奴だ。出来れば俺の傍に置いておきたい」



 菫はクスッと笑う。



「奥様がいる分際で、わたしを口説くの?」



「フッ。お前は引く手数多だろう。俺が、お前の傍にいたいだけだ。権力にしがみついている俺では、見向きもされないだろうがな」



 菫は思い出したようにリョウマを見上げた。



「あら。そんなことありませんよ。わたし、あなたに興味津々なの。今夜は二人きりになれる場所に、わたしを連れて行ってね」



 リョウマは不思議そうに眉を潜めると、カラムの町に到着した赤騎士団に双頭院を突き出しながら、菫を見つめて真意を推し量ろうとしていた。


☆続く☆

双頭院は奥様と娘3人がいます。

今回の双頭院逮捕で、カラムの町にいづらくなった4人は、夜逃げをするように町を出ました。

因みに大きな声では言えませんが、双頭院には若い愛人も5人いました。

そのうちの1人が、今回故郷に帰った秘書さんです。


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