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戦災の魔界姫と敵国騎士1★青薔薇の刻印編★  作者: 深窓の花婿
第2章★権力至上主義の男★
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第5話☆果たして聖母か狂人か☆

 左頬に痛烈な痛みを感じて、菫は飛ばされるように尻もちをついた。



「リョウマ!」



 コウキが慌ててこちらに来て、菫を助け起こす。しかし菫はじっとリョウマを見据えていた。

 叩かれすぎて腫れているのが誰にでもわかる頬になっていた。



「何がひどい? 口を慎め。この世は金と権力が全てだ。金や権力のない者は我々に使役され、何をされても口答えをしないで、使い捨てされるのを待つ。それが世の理というものだ」



 コウキは菫の膝に付いた砂をしゃがみながら払っていた。



「リョウマ、これ以上菫を侮辱するのはやめろ」



「ふん、コウキ。お前のような弱小貴族に言われてもな。人脈もない、父親は弱小貿易会社経営、母は下級貴族上がりの古い権力者。俺の家族のように堂々としていないと、弱者が調子に乗るだけだ」



 コウキはリョウマを睨みつけながら立ち上がる。それを見たリョウマも身を構えた瞬間、菫がコウキの前に歩み出てリョウマを見据えて笑顔を作った。左頬がジンジン痛んだ。



「そんなに熱くならないで下さい。せっかくの精悍なお顔が台無しですよ」



 笑うと頬が引きつって痛かったが、菫は無理にリョウマに向かって笑顔を見せる。



「リョウマ様の言う権力というものを見てみたいです。ぜひ、貧民街で」



「は?」



 菫の言葉に、リョウマは眉を潜めた。コウキが心配そうに菫を見下ろし、菫を守るようにリョウマの前に出る。




「まずは貧民街の皆さんを、お腹いっぱいにできますか? リョウマ様ほどの権力をお持ちなら、簡単なのでしょうね。素敵だわ……」



 リョウマは菫を怒りで満ちた目で睨みつける。



「お前はバカなのか? なぜいずれ売られ、奴隷になる汚らわしい貧民街の奴らに施しをせねばならない?」



 菫は微笑みながらリョウマを見つめた。



「だって、餓死させたらこの町は終わるからよ。表向きオークションを売りにしていて、話を聞く限り莫大な資金は貧民街に住む方の臓器売買や人身売買に費やしているのですから、根本を断てばこの町は衰退の一途を辿る。ただでさえ戦争の影響で人口が減った今、魔人は有限ではありませんし……」



 ハッとしたようにリョウマは息を呑んだ。



「贅の限りを尽くし、貪り取ることが町の繁栄に繋がるとは限らないものね……」



「菫……」



 コウキが呟き、菫はコウキを見ると安心させるように微笑んだ。



「臓器や体を売りたいなら、その大元である貧民街の皆さんを健康体にさせることが第1なのでは?」



 菫の言葉に、コウキも驚いたような表情で呆然と菫を見ていた。



「まあそんなことしたら、健康体になった貧民街の皆さんに一揆を起こされて双頭院は終わりでしょうね。結局自分の利益しか考えない双頭院及び彼の側近は近いうち終わりそうな予感が致します」



「お前……」



 リョウマが菫に向かい掠れた声を出す。



「でも、わたしは一介の天界国士官ですので、この町の未来を憂いてもどうにもなりませんね」



 最後は肩を竦めてリョウマに向かってキュートに戯けると、菫はお辞儀をした。



「出過ぎたことを言いました。また叩かれちゃうね」



 クスッと笑いながら言う菫に対して、リョウマは怒りに満ちた目で菫に近付くと、腰を持ち上げて肩に担いだ。



「この生意気な女に貧民街を見せる。お前らは家に帰っていろ」



 リョウマ以外の3人が声を上げたと同時に、リョウマは菫を担ぎながら走り出した。

 一瞬の隙だったが、コウキが追いかける間もなく、リョウマと菫はどこかへ行ってしまった。



☆☆☆☆☆



 リョウマはやがて菫を離すと、地面に放り投げた。体制を崩した菫は転んで膝を擦りむいてしまう。



「いたた……」



「立て、下女。ここがカラムの町貧民街の最下層だ」



 菫が立ち上がると、そこは汚れた服を着てこちらを見ながら牢屋の中にいる大量の魔人がいた。



「この牢にいる者からオークションにかけられる。もちろん商品だから、体を綺麗にしてから売り出すがな」



 牢の中にいる人たちの目は窪み、絶望感溢れる色で、無気力にこちらを見ていた。



「お前はこいつらを腹いっぱいにすることを提案したな。こんな汚らわしい奴らに無駄なことをして何になる」



 菫を見るリョウマの目は怒りに燃えていた。



「無駄……なことって……?」



「俺たちが一生懸命働いて得た金銭をこいつら最下層の奴隷に施す意味を問いたい。下女ごときが生意気な口を利くな」



 菫はふと空を見た。オークションが始まるまでに彼ら奴隷をどうにかしたかった。

 菫が遠くの柱を見ると、隠密部隊の魔人が待機しており、目が合った。

 菫が目配せをして指示を出すと、隠密部隊が意図を汲み取ったように頷き、その場から足音ひとつ立てず立ち去った。 



「もう日が暮れますね。オークションはそろそろでしょうか。リョウマ様の権力で、双頭院様にお会いできませんか?」



「は? 生意気だな。なぜ双頭院に会いたい? 先程のようにこの町の未来を語り、奴隷制度廃止を訴えるか? 綺麗事だな。奴隷は世界中どこにでも湧く。そいつらを連れてくるだけだ」



「この町の財務書類を拝見したいの」



 菫が真摯な目でリョウマに訴えた。頼んでも駄目なら隠密部隊に双頭院の執務室を探してもらおうと考えていた。



「下女がそんなことをしてなんの意味がある?」



 リョウマは菫に興味を示したようだった。菫はリョウマから離れると真面目に訴える。



「リョウマ様、あなたの権力至上主義を見込んでお願いしています。双頭院に会わせて下さい。会わせてもらえたら、今夜あなたとふたりきりの夜を過ごします」



リョウマは菫の目を見てピクっと眉を動かした。



「……双頭院に会ったら、お前はきっと手籠にされる。奴は甘い顔立ちの美しい女が好みだからな」



 菫はふと顔を上げてリョウマを見る。どういう感情を持っているのかわからなかった。



「心配して下さっているのですか?」



 意外だったので、菫は思わず目を大きく見開いてしまった。



「ふざけるな。俺が下女なんかを心配するか。己惚れも良いところだ」



「そうですよね……」



 ふとリョウマの対応を見てワタルを思い出し、クスッと笑ってしまった。なんとなく似ている感じがする。



 そして、リョウマから少し離れると懐に入れてあった財布を取り出し、牢の中で無気力に菫を見ている者たちにお辞儀をする。



「みなさん、今食べ物を買ってきますので、待っていてください」



 そう言って微笑むと、路上で物乞いをしている貧民街の魔人たちに、お金を配り始めた。



「何をしている!」



 リョウマが慌てて菫の元に走ってくると、菫は困惑したようにリョウマを見上げた。



「何って……お金を配っているのよ」



「だから何故そのような施しをしている? 無意味なことを」



「だって、お腹が空いたらつらいじゃない」



「バカなのか? 一過性の同情でこの瞬間は助かっても、助ける者がいなくなれば意味がなくなる。お前のやっていることは金の無駄だ」



 リョウマの静止を無視して、菫はお金を配り続けた。



「大体そんな大金、何故一介の女中が持っているのだ?」



 菫の後に着いてきながら、リョウマは腹の底から声を上げる。菫はお金よりも、上げた人数を数えて回っていた。ざっと見た限り東の富裕層が住む場所よりも人数が多そうだった。



「ふむ……これなら圧勝でしょうか」



「何がだ?」



「公職選挙法違反に抵触するかな……まあいいか」



 リョウマの声を無視しながら、菫はにこやかに現金を配っていく。



「お金だ……」


「私にも下さい! 小さい子がミルクを飲めないで困っているんです」


「俺にもくれ!」


「ああ……まるで女神様じゃ。女神様が降臨してきたようじゃ……」


「女神様、ありがとうございます!」


「女神様……こんなに沢山のお金をありがとう」



 貧民街はやがて歓声が上がり、菫に頭を下げてまるで偶像を崇拝するように菫を見ていた。



「女神様だって。困っちゃう」



 ふふ、と笑いながらリョウマを見て菫が肩を竦めて茶目っ気たっぷりに言う。リョウマは菫を見ながら何と言って良いか考えていた。



「……お前、何てことをしているんだ……」



 リョウマは深くため息をつく。菫はそんな様子のリョウマを見て、お金を差し出した。



「オークションにかけられる予定の、牢にいる方たちの食べ物を買ってきて下さいませんか? わたしはまだここの方たちにお金を配らないと……」



「……俺に命令するか。下女が……」



 しかしリョウマも気付いていた。こんなに大金を持っている菫が、只者ではないと。



「オークションに出される前に餓死したら困るでしょう? たっぷり栄養のあるものを大量に、お願いします」



 有無を言わさず微笑む菫が、何を考えているのかわからなかった。



 あとは、少し彼女に興味が湧いているのも事実だった。天界国の女中が、ここまで大立ち回りをして貧民街にいる全員に金を配る、果たして聖母か狂人か、どちらなのか。リョウマにとって菫はとても興味深かった。



 菫に言われるまま、パンを大量に買って来たリョウマは、菫と共に最下層の牢がある場所へと向かう。

 そこで牢にいる魔人たちにパンを配り始めた。



「おい、直接手を触るなよ。汚いぞ」



 リョウマが菫の肩を掴んで言ったが、菫は微笑んでわざとパンを渡した後に彼らを励ますかのように手を強く握った。



「皆さん、お腹いっぱい食べて下さいね」



「おい下女! その魔人に触るな!」



「何故ですか? 人々を助ける騎士様らしくない台詞ですね」



 困惑したように笑っているが、明らかに菫は怒っていた。リョウマにはそれが分かったので、彼女の独特な雰囲気に圧倒されて押し黙った。



「リョウマ様。わたしは今夜、オークションにかけられる品物全てを落札します」



「は? 全てを落とすだと? いくらになるかわかっているのか? そんな大金、どこから出てくるんだ」



 リョウマが驚いた声を出す。菫はそんなリョウマを見上げると、いつもの笑顔で応じた。



「ふふ、権力至上主義のあなたにはあとで教えて差し上げます。これだけ派手にやれば双頭院もわたしと会って下さるでしょう。その後は、忘れないで下さいね。わたしと一夜を共にすることを。約束ですよ」



 楽しそうに笑顔を見せる菫を、信じられないような目でリョウマが見つめた。


☆続く☆

 双頭院とリョウマの外見の好みのタイプは似ています。

ただ内面は、双頭院は従順で素直なタイプ、リョウマは生意気でも言い返してくるようなタイプが好みだそうです。


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