第4話☆貧民街と富裕街☆
天界国と倭国、そして今回行く邪神国は、三つ巴のように三角形に配置されていた国々だ。
倭国を攻め入るために同盟関係を結んだ天界国と邪神国だったが、元々この二国は領土問題で揉めている国々であり、むしろ戦争前は倭国と邪神国が自由貿易を行ったり、国交正常化していた。
今では邪神国と倭国は袂を分かつ仲だが、廃墟と化した倭国に少しずつ支援の動きが広がっている。
それも天界国の手前、大々的にはできず、個人的な支援となっているようだった。
「歩き旅だと邪神国に着くにはかなりかかる。日が落ちる頃、丁度カラムの町に辿り着く。今日はそこに泊まる」
腹の底から声を出すような、気持ちの良い地声を出すリョウマは、コウキに向かって言った。
「ああ、わかったよ」
「コウキの凱旋パーティー後にカラムの町に帰ったときは魔術飛行で行ったからすぐに着いたのに。徒歩だと1日かかるのね」
ルージュが頬を膨らませて言うと、リョウマは妹を一瞥した。
「仕方がないだろう。戦時中は同盟関係だったが、元々邪神国とは敵対関係にあったからな。天界国の者だとバレたら暴漢に遭うかもしれない」
「そうだよ、ルージュ。俺たちはともかく、ルージュみたいなお嬢様が襲われたら大変だぞ」
コウキが頷きながらルージュを見た。
「それに、君はアコヤさんと一緒に行くことを拒んだんだろ。なんでリョウマとアコヤさんを一緒に行動させてやらないんだよ」
ルージュはそれを聞くとコウキに向かって声を張り上げた。
「私はお兄様の妹なのよ。血の繋がってないあの女に、何で私が下手に出なければならないの? 大体あの女はお兄様の妻っていうだけで偉そうなのよ。一緒に歩くのもイヤだわ」
「そんなに怒るなよ。眉間に皺がついちゃうぞ」
「うるさいわよ、コウキ。それに私は実家に帰るだけ。お兄様についでに送ってもらうだけなの」
「はいはい、承知しておりますよ、ルージュお嬢様」
「バカにしてるの!?」
二人の会話を聞きながら、菫はコウキとルージュは相性が悪いのかな、いや良いのかな、と考えていた。
それに今出てきたアコヤという女性の名が、リョウマの妻だろうか。
もしリョウマの妻も邪神国王妃の誕生日パーティーに呼ばれているなら、なぜ一緒に行かないのだろうか。夫婦の形には色々あるな、と菫はひとりで納得したように頷いた。
「カラムの町は、俺たちの出身地なんだよ、菫。リョウマも俺も、実家があるんだ。ルージュはカラムの町まで送ることになるかな」
「そうでしたか」
「今日はそれぞれの実家に泊まることになりそうだね。俺の家はリョウマのところと違って、戦争で俺以外みんな死んだから、誰も住んでいないんだけど。まあ一応売らないで取ってあるから。もし菫がイヤじゃなければ、俺の家においで。寝食くらいは提供できるよ」
戦争で家族全員を失ったのか。
菫はふとコウキを見て同情をしてしまった。コウキは陰陽師長八雲の首を取った男だ。
けれど、戦争を仕掛けたのは政治に関わる大臣や天満納言で、騎士は言われた職務を全うしていただけなのだ。
コウキだって被害者だ。コウキは悪くない。
「まあ、ほとんど帰っていない家だから、かなり埃っぽいかもしれないけれどさ」
コウキの言葉に頷こうと思った菫だが、その横からルージュが口を挟んだ。
「そんなの、この下女に掃除させればいいじゃない。そのための奴隷でしょ」
奴隷、という言葉に、コウキはピクリと身体を動かした。
「俺、奴隷制度は反対してるの知ってるだろ。二度と奴隷なんて言葉使わないでくれ」
「コウキは優しすぎるのよ。この町には階級があって、身分があることをこの下女に教えてあげないと、調子に乗るわよ」
「……」
ルージュの言葉を無視すると、コウキは菫が持っていたリョウマと菫の荷物も全て奪い、ルージュに見せつけるようにして大股で歩き始めた。
何も手に持たなくなった菫は、コウキを追いかけて自分の荷物を掴む。
「コウキ様、1人で4人分の荷物は無茶です。わたしも持ちます」
「いい。俺、人を見下す奴って嫌いなんだ。気分、悪いよな。ごめんね、菫」
「……そんな、大丈夫ですよ」
菫が頷くと、コウキは菫を見下ろして「ルージュが、ごめんな」と呟いた。
敵国の騎士で、しかも腹心の敵とは言え、このような姿を見てしまうと、憎むべきは戦争という言葉が簡単に理解できてしまい、困惑した。
コウキは菫に対してひたすらに優しい。
ワタルとはまた違ったベクトルだが、とにかく涙が出そうなほど親切で優しかった。
変態とワタルに言われても、例え変態の要素があったとしても、きっとコウキの本質は嫌いになれないだろうな、という予感がしていた。
☆☆☆☆☆
歩いてカラムの町に到着した一行は、休憩するために食事処を探していた。
カラムの町は二分されていた。
東が富裕層、西が貧民街であるようだった。
そしてひと際目立つ大きな建物があり、天界国の国旗が立派にはためいていた。
「コウキ様、あの大きな建物は何ですか?」
菫が尋ねると、ルージュが横から声を上げた。
「そんなことも知らないの? カラムの町は天界国でも有数のビジネス街よ。お金持ちたちが集まって、オークションをするのよ、あの建物で」
聞いてないことも話してくれるので、ルージュは菫にとってなかなか面白い存在だった。
「オークションですか?」
「ええ。華やかな町でしょ?」
「はい、そうですね……」
菫は西にある貧民街を見ながら言った。
明らかに栄養の足りていない者たちが歩道に座り、観光に来た金持ちたちに施しを受けようと懇願していた。
「この町の為政者は誰でしょう」
思わず声を震わせながら菫が言うと、リョウマが睨み付けてきた。
「下女がそれを知って何かなるのか?」
「……いえ」
恐らく菫が非難の目でこの町を見ていることを悟ったのだろう。リョウマは警戒するように菫をにらみ続けていた。
コウキが背を屈ませ、小さな声で菫に教えてくれた。
「オークションには、たまに奴隷や臓器など売る奴が出てくる。それを許しているのが、この町の為政者、町長の双頭院だ。ギラギラした目つきのやな男だよ」
「双頭院……」
菫は呟いたが、聞いたことのない名前だった。
「前町長は穏やかで優しいおじいちゃんだったんだけど、天倭戦争の混乱に乗じて、信じていた部下に身に覚えのないクーデター起こされ、その煽りで亡くなった。その後がまに就いたのが今の双頭院。金持ちには支持されているけど、人望で支持されているわけではないことは確かだ」
「大方前町長のとき双頭院派と前町長派の裏取引きがあったのだろうな」
リョウマもこの話に入ってきた。
「……人身売買は魔界全土で禁止されているはずでは?」
「それが肝でね」
菫の言葉にコウキが応える。
「双頭院が町長になってから、このカラムの町全体を『魔界領域外』として、法案で強引に可決しちゃった。つまり、カラムの町は魔界じゃない、って強引に決めたんだ。ここカラムの町に魔界の法律は通用しない」
菫はカラムの町をザッと眺める。ウォーターフロントのような地形になっており、天界国城下町のベッドタウンとして名が通ってはいたが、ここは魔界ではない無法地帯なのか、と菫は考えた。
「無法地帯ということでしょうか? その結果がこの貧富の差の表れでしょうか」
菫が考え込むように言うと、コウキが頷いた。
「貧富の差は否定できないけれど、まあそれは昔からそうだったからな。オークションと海辺が売りの町だから、関わりある企業や家柄以外、つまり商売に失敗した者が自然と淘汰され西の貧民街に住むことを余儀なくされている。ただの無法地帯というわけではなく、現状双頭院派が議会を牛耳ってカラムの町独自の法律を作っているんだ」
「コウキの父上は貴族院で双頭院に目をつけられ、殺されたようなものだ」
リョウマが呟く。コウキはふと表情の読めない顔で頷いた。
「双頭院が貴族議員時代に魔界領域外法案が議題に出され、それ以来最後まで反対していたけど、俺の補佐として家族全員が緑騎士として倭国に赴くことになったから、父さんがいなくなってすぐに可決されたんだろ」
菫はそれを聞いて何か考え込む仕草をした。
「祖父はすでに引退した緑騎士団長だったけど、また呼び戻され、父は貿易会社しかやったことのない頭でっかちだったのに、急に戦争に行くよう通達がきたから、恐らく双頭院が一枚かんでうちを壊滅させようと目論んだんだろうな。うちの存在は目障りだったはずだから」
リョウマは複雑そうな表情で頷いた。
「逆に俺の両親は双頭院派で、魔界領域外法案には大賛成だったからな。コウキは前町長派だろう。だからうちの両親は人身売買、臓器売買をするだろうことは知っていたのだ」
リョウマは静かに呟く。
「可決後すぐに父が奴隷をオークションで落とした。奴らを数人、家で飼っている。もちろん、とことん搾取し終われば貧民街に放り出し、またオークションで新しい奴隷を買っているのだがな」
「ひどい……」
思わず呟いた言葉が、リョウマに聞こえていたのだろう。リョウマは菫の元に向かってきて、本日何度目かの平手打ちをした。
☆続く☆
リョウマの家にいるお手伝いさん(元・奴隷)は3人います。
全員が若い女性で、基本的にリョウマの父コテツの命で行動します。
彼女たちは家事を担当していますが、夜はコテツの夜伽も担当します。
リョウマは基本、カラムの町ではなく天界城にいるので彼女たちは抱きません。紫苑の塔、最上階の遊女を抱きます。




