第3話☆騎士きどり☆
リョウマの後ろを早歩きしてついて行き、再び聖騎士像の前に行くと、待ち合わせに来ていたコウキが菫に向かって心配そうに走って来た。
コウキの背は前を歩くリョウマよりも高かったが、体格はリョウマの方が逞しい分、ひょろりとした印象に思えた。
「菫、大丈夫?」
コウキはリョウマに構わず、一直線に菫に向かってきて背を屈め心配そうに菫を見た。
「コウキ様、大丈夫ですよ」
「……大丈夫じゃないじゃん。頬腫れてる。リョウマにやられたの?」
コウキが腫れた左頬を見て呟く。菫は笑顔を見せ首を振った。
「いえ、わたしがいけないの。大丈夫ですから、わたしのことは気にしないで下さい」
「……菫がいけないなんてことはないから、自分を卑下するのはやめなよ」
小さな声でポツリと言ったコウキは、菫の腫れた頬にそっと触れ、すぐに離した。
触れた指が少し震えていた。
「リョウマ! 菫にひどいことするなよ」
コウキはリョウマの元に行き、抗議をする。リョウマはコウキを見上げると、腕を組んだ。
「ひどいこと? ただの躾だ。男に話しかけられ、喜んでヘラヘラするような奴隷を躾けてなにが悪い?」
「菫は奴隷じゃない。この世に奴隷なんていちゃいけない。ルージュ、お前もなんで菫にリョウマの世話係なんてやらせるんだよ」
コウキがルージュに詰め寄る。ルージュは、腕を組んでフイとコウキから視線を反らした。
「相変わらず綺麗事を。偽善じみた言動はうさんくさく映るだけよ、コウキ」
コウキに向かってルージュは声を張り上げる。
「あの底辺下女、立場をわきまえてないからよ! だいたいコウキも悪いわ、あんな下女を凱旋パーティーのパートナーにするんだから!」
ルージュは怒りの剣幕で声が大きくなっていた。コウキはそんなルージュを見てガックリと肩を落とす。
「なんだよそれ……俺が菫をパートナーにしたからいけないの?」
「そうよ! コウキは仮にも下院貴族でしょう。貴族のあなたがこんな下女をパーティーに誘い、ドレスを着させるなんて、身分違いにもほどがあるわよ!」
「身分違いは重々承知してるよ。でも俺は菫をパートナーにしたかったんだ。凱旋パーティーなんて、騎士団主催で王族不参加だし、誰をパートナーにしてもいいだろ」
「だからって、こんな下女をわざわざパートナーにすることないでしょ!」
「……なあリョウマ、お前の妹なんでこんな機嫌が悪いんだよ」
「フン、コウキとそこの下女のせいだろう」
コウキとルージュが口論をしている間、菫は静かに2人のやりとりを聞いていたが、どうやらコウキとルージュの考えにはかなり隔たりがあるようだった。
どちらかといえば、貴族であるコウキが使用人の菫にも分け隔てなく接していることの方が世間的に驚かれそうだ。
ただ、身分の差を気にしない人柄のコウキに、菫は好感を持った。
埒が明かないと感じたのか、コウキは1度ため息をつくと、仕切り直すように菫に笑顔を見せた。
「菫、一応俺からリョウマを紹介するよ」
コウキの爽やかな笑顔に、菫も釣られて微笑む。
「リョウマは先の天倭戦争で倭国国王の首を取った功労者なんだ。つまり、戦争を勝利に導いた英雄なんだよ。吸血王を倒してくれたから、天界国有利に戦争が進んだ。最高だろ?」
自慢げにウインクをしながらリョウマの紹介をするコウキに、菫は笑顔を見せた。
菫にとって笑顔は一番感情を隠せる仮面で、最高の武器だった。
「吸血王を殺した英雄にお会いできたのは光栄です。殺して下さってありがとうございます」
父の敵とでも寝られる、と太一に言い放ったときのことを思い出し、菫はリョウマを見上げて微笑んだ。
「ふん、下女に褒められてもなんの価値もない。何度も言わせるな、お前を帯同させたのは我々の身の回りの世話及び荷物持ち、それから俺とコウキの夜の相手だ。長旅になるからな」
ルージュはこちらを見て勝ち誇ったように笑っている。
もう普通の感覚を思い出せない菫は、リョウマの言葉を聞いて喜んでしまっていた。もしかしたら一気に2人、青薔薇の刻印がないか確かめられるかもしれない。
しかし、すかさずコウキが止めに入った。
「リョウマ……そういうことなら俺は菫を連れていかないよ。夜の相手なんかさせるわけないだろ」
「ふん、騎士きどりか」
「いやいや、騎士なんだけど」
「少し前にこの女を専属女中にさせると言っていたな」
「そうだけど……菫がイヤなら無理にはしないよ。菫が嫌がることはしたくない」
「フン、ならば今夜は俺がこいつを使う。こんな貧乏人、貴族様の相手を出来るだけありがたいと思え」
「リョウマ……どれだけ自分本意なんだよ」
呆れた声を出したコウキにかぶせるように、ルージュが気だるげな声を出した。
「ねえ、いつまでやってらっしゃるの? もう行きましょうよ、お兄様」
「ああ、そうだなルージュ」
リョウマはそう言うと、先陣を切るように歩き始めた。その後ろをルージュが追い、彼女とリョウマの荷物を全て持たされた菫は、気合いを入れて荷物を持ち上げると歩き始めた。
それを見て横でため息をついたコウキは、菫の手から半分以上の荷物を奪う。
「コウキ様、わたしは大丈夫ですよ」
「いや、ルージュの荷物、すごい多いし。俺もいいトレーニングになるからさ」
爽やかに笑ったコウキの笑顔を見つめ、菫は「ありがとうございます」と呟き、ふとため息をこぼした。コウキの優しさが今はつらい。
リョウマのようにきつく接してくれたら、菫も容赦なく青薔薇の刻印の有無を確かめられるのに、とコウキの背中を見て目を細めた。
☆続く☆
コウキとルージュは、小さいとき将来結婚の約束を親同士が酒の場で冗談で交わしており、ルージュはしばらくそれを信じていました。
しかしコウキが色んな女の子に優しくするので、コウキに対して怒りっぽくなってしまいました。




