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双眸の涙  作者: リグニン
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第6話 リービスの牢獄

殺されたはずのファイマーが何事もなかった様に帰って来た!それもドラゴス教団のディングルディル聖堂侵入作戦についての情報を仕入れて来た!彼らの作戦を利用するには先回りしなければならない。しかしこのままファウダーンに向かえば彼らと鉢合わせになってしまう。そこで北西にズレたリービスに向かう事になる。しかし、とあるアクシデントからミヘラはかつて罪人が投げ込まれたと言う牢獄に転落してしまう…。


※最近見返しましたがディングルディル聖堂とディングルディル大聖堂の表記がごちゃごちゃになってしまっている様です。これからはディングルディル聖堂で統一します。

「遅いなぁ。どうしたんだろう、ファイマー」


ミヘラは帰らないファイマーを心配していた。ディギンスはスース―と寝息を立てて眠っている。何かあったのではないか。そわそわとしているとドアが開いた。目をやるとそこにはファイマーがいた。体が濡れている。


「ファイマー、どうしたの?全身濡れてるみたいだけど…」


「川に落ちてしまいましてね。着替えるのであちらを向いてていただけますか?」


「うん、分かった」


後ろでファイマーが着替えている頃にミヘラはくしゃみをした。気取られない様にしていたものの実はミヘラも風邪を引いていた。寒さには強かった彼女だったが寒暖差が体に響いてしまったのである。我慢していたが2回、3回と繰り返してくしゃみしてしまった。それでもミヘラは平生を装う。


寒さへの体勢ならエルフのファイマーでも堪えるだろうに、川に落ちて全身が濡れて良くくしゃみの1つも出さない物だとミヘラは感心する。


「それで、何か収穫はあった?」


「ええ、耳寄りの情報を仕入れましたよ。ディングルディル聖堂侵入作戦についてです。先回りすれば彼らの作戦を利用し先に女神像の元へ辿り着く事が可能でしょう。まずミシラにいるのは6枚羽と呼ばれる中でも高い地位を持ったドラゴス教団の中の4枚羽サアキと言う青年です。6、5、3枚羽が陽動にあたり4、2枚羽が石像の所へ向かうようです」


「一体どうやってそんなに詳しく調べたの?」


「隠密行動は得意なんです。ええ。そんな事より今日はもう寝ましょう。ミヘラも風邪を召しておられる様ですし」


「…そうね。そうしましょう」


ミヘラは身体をグッと伸ばし大きなあくびをすると自分用のベッドに寝転がった。今日のミヘラはディギンスとは一緒に寝ない。既にお互いに風邪を引いている身ではあるがもしディギンスが先に治ったのにミヘラのくしゃみで再感染する事だってあり得るかもしれないからだ。


その様子を見守った後にファイマーは本を開くとどの経路でリーロエルに行くべきか思案していた。


翌日になるとディギンスは誰よりも早く目が覚めた。むくりと起き上がり辺りを見渡す。何かいつもより肌寒いと思えば既にトロエマニに入ったの事と近くにミヘラがいない事を思い出した。熱っぽさは抜けているので風邪は治っている。様子だ。尿意を催しお手洗いに行こうと歩いているとふと小さな段差に躓いて転んでしまった。


何かを掴もうと手をわしわししているとファイマーの眠る布団を掴んで転んでしまった。床には顔をぶつけしがみつこうとした手は掛布団をずり降ろすだけで転倒を防ぐ事はできなかった。幸いにも鼻血は出ていない様だ。


「いてて…全く、何だこの段差は」


木の板が僅かに反り返っている。そこに引っかけたのだろう。ディギンスは大あくびして掛布団をファイマーの所にかけ直そうとする。ふと彼の首元に目が行った。いつもは意識していなかったが僅かに首に違和感がある。


首は喉より下あたりから一周、僅かにまるで虫刺されの様に膨らんでいる箇所があった。気にはなったがそこまで大きな関心は湧かなかったので掛布団をかけ直すとさっさとお手洗いに向かった。


用を済ませて自室に戻るとファイマーがまだ眠そうい目を閉じながらベッドに座り起きる心の準備をしていた。ミヘラは掛布団を抱きながらベッドの上をゴロゴロしている。


「うにゃっうにゃっ…」


日頃の凛々しい声から随分とギャップのある甘え声をだすミヘラ。手で掛布団をすりすりしているが爪は出ていない。口のあたりをもごもごしているが噛んだりしない。寝ていると言うのに自制心を保っている様だ。


ディギンスは椅子を持って来てそんなミヘラを眺めていたがついに彼女も起きて目が合った。


「おはよ」


「おはよ」


挨拶を済ませると朝食を取り、ドラゴス教団と鉢合わせにならない様に注意しながら町を出た。元々はこの後はファビスターによって滅ぼされたファウダーンを通る予定だったのだが、ファイマーが進む方向はどうもそちらからズレている。その事について疑問に思ったミヘラはファイマーに尋ねた。


「それで、ファウダーンを通るんだっけ」


ミヘラはファイマーに尋ねた。ファイマーは首を横に振る。


「元々はその予定でしたが、4枚羽サアキが率いるドラゴス教団がそちらを通る予定の様なので鉢合わせを避けるために迂回します」


「迂回って…でもドラゴス教団よりリーロエルにはドラゴス教団より先に着かなきゃいけないんだよね??アテがあるって事?」


「ええ。幸いにもお金はあるので」


彼は地図を取り出すとミヘラとディギンスに次に行く町についての説明をする。本来北に進んでファウダーンを通る予定だったのを予定変更して北西に進みリービスに進み、そこでサジャラという動物に乗ってリーロエルに向かうと言う算段らしい。それで間に合えばいいが今はファイマーを信じるしかなかった。


話を聞いていたディギンスは首を傾げる。


「しかし随分と詳しいんだね、ファイマーは。エルフの里の多くはヒュマニ大陸の中心部に偏ってるからそんなに北の国や町に詳しいなんて思わなかった」


「それは偏見ですよディギンス。エルフと言っても里から動かない者と外を出歩く者がいます。私はこの通り長生きして各地を転々としたのですよ。それはさておきもうお身体の方は大丈夫ですか?」


「うん。おかげでね」


「それは良かった」


そんな会話をしながらリービスを目指した。道中は天候悪化で思うように進めず洞穴でしばらく立ち往生したり、獰猛な魔物を見かけては様子を見てやり過ごしたりした。とは言え元々は亡んだ町を横断する予定だったため充分過ぎるほどの蓄えがあったので時間がかかった事以外はそう問題なく旅ができた。


ミヘラが地図を開いて確認するにリービスはもうすぐ近くの様だった。まだ町は見えないがすぐ近くには墓地がある。


「町から離れた墓地か…。町民はあまりここへは来ないのかな」


並べられている墓地を見ながらミヘラが呟いた。埋葬されているだけマシなのだが、誰もここまで弔いに来る人がいないと言うのは悲しい。彼女は代わりに祈りを捧げて行こうと墓地に立ち入る。するとどうした事かミヘラの足元は急に崩れた。それなりの深さだったがミヘラは無事に着地し怪我は無かった。


上からディギンスやファイマーが顔を覗かせている。ミヘラは手を振った。


「私は大丈夫!ちょっと待ってて!」


彼女は辺りを確認する。10m程度の高さから落ちた。近くに鉄製の梯子だったらしい物はあるが完全に腐り落ちてしまっておりとても使えそうにない。単純に登って行くには掴む場所がない。上から衣服を繋いだものをロープ代わりにして下ろしたとしても長さが足りない。付近には何やらどこかに通じる通路の様な物がある。この通路が外に通じていると言う確証はないが他に行き道はない。


覚悟を決めたミヘラはまずはこの通路を進む事にした。


「通路があるから先に行ってみる!すぐにそっちに向かうから待ってて!」


「ミヘラ、これを使ってください!」


ファイマーはそう言うと魔法で短い杖を作ってそれをミヘラの方に落とした。それはミヘラの前で止まる。彼女はそれを掴んでみると青い光を放って道を照らしてくれる。


「ありがとうー!」


魔法の杖を左手に、右手に剣を持って通路を進む。この辺りはただのお墓ではないのか。お墓でないとしたら一体何なのか。誰が何の目的で作ったのか。何も分からない。中はじめじめとしていて滑りやすい。簡単な魔法ならミヘラでも扱えるがしっかりした灯りがあるのは大変心強い。


しばらく歩いているとビチャ、ビチャビチャ…ジュルッと妙な水音が聞こえて来る。ミヘラは剣の柄を強く握り辺りを警戒する。


「おや…こんな所に人とは珍しい」


しわがれた声がして驚き光の杖を声のする方に向けた。するとそこは壁から大きな亀の首の様な魔物が飛び出ていて、その魔物の丸い口からは人間の上半身がだらんと飛び出していた。人間は体中に粘液を滴らせていて一切体毛がなく裸だった。どうやらミヘラに声をかけているのはその人間らしい。声や見た目からは性別の区別がつかなかった。


ミヘラは剣を構えて魔物を殺害しようとしたが人間は両手を前に突き出してその動きを制止する。


「いいんだ。私は好きでこうして食われているのだから助ける必要はない。それより君の話をしよう。君は一体どうしてここに?」


「私は墓地から落ちて来たの。どうにか出たいんだけど道が分からなくて」


「落ちて来た?墓地から?良く分からないが処刑された訳でもないのにこんな所に来てしまったとは可哀そうに」


「処刑???」


「ああ。ここは牢獄だよ。猜疑心旺盛なリービス国王アナテンタスが毎日毎日飽きもせずに罪人を作るもんだから処刑人の手が足りなくてね。それでこうして罪人を出口のない牢獄に投げ込んでるんだ。大体は穴から落ちた時に死ぬんだけどね。魔物は死に損なった罪人のためのサービスな訳だ」


「で…出口がない…?」


「そう気を落とす事はない。この牢獄を作った建設家はいるし時にこの牢獄から脱走してる囚人がいないかチェックに来る事があると聞いた事がある。ひょっとすると出口がどこかにあるかもしれない」


ミヘラは頭を抱えた。ひとまずはファイマー達に相談する事にする。


「わかった。ありがとう。…でも本当に助けなくていいの?」


「ああ。さっきも言ったけど好きで食われているんだ」


「でも死んじゃうよ?」


「本望だ。君もここから脱出する事を諦めたらこいつに食われてみるといい。すっごくいい気分になれるよ。この魔物に近付いたら口元を撫でてやるんだ。そしたら足を魔物に向けて寝転がる。そしたらぱっくんちょだ。間違っても頭から突っ込んじゃいけない、楽しみが不意になってしまう」


「あ、あはは…」


彼女は苦笑いすると来た道を戻りファイマー達に現状について説明する。ファイマーはその捕食されている人物の話についてどうも不思議に思っている様だ。


「おかしいですね。リービスが小さな国だったのはかれこれ80年以上も前の話ですし、国王アナテンタスは末裔ティスターヤの先代です。アナテンタスは謀反を起こされて失踪しています」


「えーっと…つまり…?」


「リービスは現在トロエマニの領地です。町長にかけあえば何とか助けてもらえるかもしれません。先にリービスに向かいできる事を探します。そちらも無理ない範囲で探索を行い、厳しければ安全な場所で待機しててください」


「分かった!」


『ミヘラ、僕の方からは繋がる範囲でテレパシーを行うよ。どこまでできるか分からないけど無理はしないでね』


『分かった、ありがとうディギンス』


森の中であまり遠くからのテレパシーができなかったほどだ。これだけ厚い土を隔ててのテレパシーはあまりあてにはできない。それでも地上との連絡手段が残っているは心強い。私は改めて洞窟の中を探索し始めた。


どこもかしこも似通って見える通路はまるで迷路だった。じめじめとして息苦しい空気。油断も隙も無い魔物。ミヘラはじわじわと精神をすり減らしていた。


「もう…何なのよここ…」


魔物はいつどこから襲って来るかも分からないが数はそれほど多くない様だ。長い時を経てここに処刑用として送られる罪人がいないめ食べる物がないのだろう。共食いをしている魔物もよく見かけた。飢えに苦しんでいる分だけ獰猛で気が立っている。先程の謎の人物を捕食していた壁から突き出ているタイプの魔物は積極的に通りかかったミヘラを襲う様子はなく飢え苦しんでいる様には見えなかった。服が口に触れて何度か食われかけたが動きはそれほど早くない様で何とか食われずに済んだ。


通路には転々と小さな石像が置いてあった。どういう法則で置いてあるのかは分からないが一体どんあ理由でこんな牢獄にこんな石像を置いているのかミヘラは気になった。石像は優しげな微笑みを浮かべている。


「ん?これって…」


ふと思いついた事を実行に移すミヘラ。彼女は石像が向いている方角に道なりに歩き、次の石像がある所まで一切曲がらず進み続ける。石像から石像へ、その先の石像から石像へ。やがて石像の向きを辿って行くと行き止まりに着いた。


一瞬は予想が外れたのかと思ったが、行き止まりの壁の近くまで来るとその考えは変わった。やはり想像通りだ。石像の向きに従って進めば良かったのだ。壁からは僅かに風が吹き込んでいる。辺りを調べるとその壁は引き戸になっており動かすとその向こう側に行けた。


『ミヘラ、そっちは大丈夫?』


『うん。何か良く分からないけど洞窟の中の石像の向きに向かって進んだら隠し扉があったんだ。その先には長い1本道がある。リービスの方角に繋がってるみたい。リービスの牢獄から繋がってるとしたら私が落ちて来た方角の方が出口っぽいんだけどこっちに進んでも出口なんてあるのかなぁ…』


『墓場側が出口?どうしてそう思ったの?』


『私が落ちた所から見えたんだけど梯子が見えたんだ。腐って折れれてとても使えそうになかったけど』


『仮に墓場側が出口だったとしてもミヘラを引き上げる方法がないからなぁ…。困ったね』


『何だかどうにも腑に落ちないなあ。墓場から牢獄に繋がる道は一体どうして作られたんだろう。リービスから遠く離れた墓場に出口がある事といい、石像の向きを辿ればリービスに繋がる一本道に繋がる事といい…』


本当に囚人が脱走できていないか確認するために作られた物なんだろうか?確かにチェックに入った人物が出られなくなって死ぬようでは本末転倒だがわざわざ微笑む石像などを配置するだろうか。まるで親しい誰かを招き入れるための様な…。ミヘラはそんな違和感を強く感じていた。


リービスに繋がる1本道には魔物がいなかった。しばらく道なりに歩いていると再び石の扉が現れた。中からは僅かに光が漏れている。彼女は石扉に耳を当て中の様子を伺うが物音はしない。


ゆっくりと慎重に石の扉を開くと…。


「これは…」


中には小綺麗な部屋があった。豪華絢爛とまでは言えないが美しい品々が並べられている。貴人が寝る様なベッドにはワイン色のローブを着た骸骨と素朴な白色のドレスを着た骸骨がお互いを抱き合うように重なっていた。


『リービスが小さな国だったのはかれこれ80年以上も前の話ですし、国王アナテンタスは末裔ティスターヤの先代です。アナテンタスは謀反を起こされて失踪しています』


ミヘラはファビスターの言っていた事を思い出した。そう言えばアナテンタスは謀反を起こされた後失踪していてその後の消息は分かっていない。牢獄の中にある高貴な人々の逢引の場…。おそらくこのうちのどちらかはアナテンタスなのだろう。墓場にあった梯子は想い人がここへ来るための入り口だった。アナテンタスはどうやってか牢獄を通じてここへ来る事ができた。そしてその逢引はしばしば行われた。そんな風に彼女は推測した。


先程の捕食されていた人物が言うには牢獄は落とされた時点で死に、死に損なえば魔物にトドメを刺されると言っていた。アナテンタスはここへ無事に辿りついている。何ら安全に行き来する道があるはずなのだ。まだ希望はある。彼女はここから生きて出る事への決意を新たにした。


何か役に立つものがあるかもしれない。ミヘラは念のために部屋と骸の所持物を確かめる。彼らは共通して不思議な物を持っている事に気が付いた。黄色に光るペンダントと紫色に光るペンダントだ。不思議な事に首からかけずに2人とも腕に巻き付けている。どうやらこの部屋が明るいのはこのペンダントのおかげらしい。


「綺麗…」


時間も忘れて見入ってしまう美しさだった。自身は卑しい盗人ではない。ファビスターを討つためであれば死体から金目の物を盗む事も覚悟ではあったが、一個人的な欲望に従って物を盗むなんて事はあってはならない。ミヘラは自身にそう言い聞かせる。今はお金に困っていないのだから金品を盗む必要などないはずだ。


「欲しい…」


生前は大切な物だったかもしれない。しかし彼らは死んでしまった。死者は生前の物を持って逝く事ができない。だから、死者の物は生者の物なのだ。もうこれは彼らには必要ない。自身が欲望に従う事は悪ではない。


それに、悪事に手を染める事に大義名分などあるだろうか。山賊が相手とは言え既にファイマーと一緒になって死体から金品をはぎ取った。その金で贅沢もした。今更何を躊躇うと言うのだろう。ミヘラは駄目だと訴える自身の良心の声と葛藤しながらもするするとその美しいペンダントを死体から取る。


そのペンダントを腕に巻いた。綺麗だ。ディギンスやファイマーも同じ事を言ってくれるだろうか。そんな風に思った。そして腕から外した。


ミヘラはディギンスとのテレパシーを試みる。しかし既に遠くにいるのか環境が悪いのか通じる事はなかった。飽くまで自身の判断に委ねられている。彼女はもう一度ペンダントを2つ見つめる。やはり美しい。


再び視線を重なり合った骸骨に移すミヘラ。


「…いつかは誰かが持ち去るよね。こんなに綺麗なんだもの。それに、彼らにとって本当に大切なものは既に傍にある…」


まるで自身に言い聞かせる様に呟いたミヘラは両手にそれを巻き付けて部屋を出た。リービス方面に向かって歩く。しばらく歩くと石の扉があった。近付くと紫色の光を放つペンダントが光り出して勝手に開いた。


「!」


どうやらただのペンダントではないらしい。ペンダントは魔法の杖同様に明かりになって辺りを照らしてくれる。それだけではない。紫色の光は壁や柱に何か案内の様な物を残している。ミヘラはそれを辿って道を歩く。道中、魔物と何度か出くわしたが彼らはミヘラから一定距離を置いて近付こうとしない。


「なるほど、逢引に使う便利な道具だった訳ね」


死体から盗んだ事には変わりないがそれ自体が大切な物などではなく飽くまで逢引のための手段だったに過ぎない事を理解して少し安心する。


やがて迷路を彷徨っていると行き止まりに辿り着いた。再び紫色に光るペンダントが一層輝きを増したと思うと行き止まりの壁が床に沈んでいく。


「魔が差さなければ本当にここを一生彷徨い続ける事になった可能性があった訳ね…。笑えないわ」


行き止まりの先には階段があった。そこを登って行くと塞がれた天井がある。紫色のペンダントを掲げると天井が開いた。ミヘラはそこから地上に脱出する。


「ミヘラーっ!!」


やっとの思いで日の光を浴びたかと思えばいきなり自身の名前を呼ぶ何者かがぶつかって来た。危うく体勢を崩す所だったのをなんとか堪える。ぶつかって来た何かは彼女に抱き着いている。よく見るとディギンスだった。


「良かった…。テレパシーは通じないしもう駄目かと思った」


「ははは…私も結構ヤバかった」


「ご無事で何よりですよ、ミヘラ」


ファイマーもこちらに歩み寄って来る。どうやら全員無事にリービスに辿り着けた様だ。ファイマー達も急いでミヘラ救出のためにあれこれしていたが、リービスはトロエマニの支配下になってからは元々宮殿があった場所は潰され公園になっている。牢獄へとつながる場所はちょうど宮殿の中にあったのだ。出口が潰されたとあっては大変だ。


ディギンス達は何とか元リービス国王のティスターヤに接触出来て話を聞き出し何とかこの場所に辿り着けたが、その牢獄の入り口とやらがどこにも見当たらず四苦八苦していたと言う所にミヘラが出て来たらしい。


ミヘラも話したい事が沢山あったが彼女の見て来た物はリービスにとって繊細な問題なので下手に口外すると危ない。ファイマーもディギンスもミヘラの身に着けていたペンダントが気になる様だったが彼女はすぐにそれをしまって先を急ごうと言った。


そうして彼らはサジャラ乗り場に向かい、リーロエルに向かうのだった。


指が痛い…

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