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双眸の涙  作者: リグニン
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第6話 4枚羽のサアキ

ファイマーが殺害された。その手並みは鮮やかで、恐らく長生きしただろうファイマーを殆ど抵抗もさせなかったほどだった。ディングルディル侵入作戦について知ってる者がいるのではないか。今は少しでも多くの情報が欲しい。ミヘラはドラゴス教団のいる建物に侵入し情報収集を試みる…。

辺りが暗くなり人通りが少なくなった頃。1人の獣人が土地勘のない町を探し回っていた。ミヘラだ。ファイマーが遅いので心配し、ミヘラはディギンスを残して町に出たのだ。そして彼女はそれを見つけた。


「ファイマー…?」


ミヘラは目を皿の様に開いて驚いた。建物から少し離れた場所にあるファイマーの衣服。鮮血。彼女は周りに充分に気を付けながらおそるおそると近づいた。震える手でそれに触れる。何があったのかは分からないが、首はなく体は灰になっていた。服を持ち上げた時のずっしりとした重さが確かにそこにファイマーがあった事を物語っている。持ち物は奪われていない。強盗ではない。では何故…。


近くの建物から讃美歌が聞こえて来た。ミヘラはその曲調も歌詞も聞いた事がない。耳を傾けているとそれがドラゴンを称え敬う内容である事が分かった。


「ドラゴス教団…」


ファイマーが言っていた野暮用が何なのか分かってしまった。彼は仲間に隠し事をして何かする時も、本当に些細な事でも野暮用と言ってはどこかへ行くのでそれを判別する事はできなかった。彼はディングルディル聖堂に入るための情報を仕入れるために調査にでかけていたのだ。危険を事も承知の上で。


仲間の仇がすぐ傍に居る事に今にも殴り込みに行ってしまいたい怒りが沸き上がったミヘラだったが、彼の持ち物だけ持ってすぐにその場を去った。永い時を生きて来たエルフだった。その彼が特に争った形跡もなく背後を取られ殺害されたのだ。それもとても体だけが灰になるような想像もできない死に方で。今は無理に近付くべきはない。そう判断した。


尾行されていないか細心の注意を払いながら宿に戻った。ディギンスはまだ眠っている。ミヘラは宿の壁にもたれながらどんな音も聞き逃さない様に気を張りながら座って休んでいた。


「…ファイマー……」


ミヘラは拳を握る。最近になってやっと心を許せる様になってきたばかりだった。以前の行いが行いだったため心から信用する事はできなかった。悪魔憑きでもなんでもなくて、エルフの森を燃やして回っていたのが本性だったなら…。そんな疑いが心から彼を許す事を拒んでいた。


彼の大仰な物言いには何の嘘偽りもなかった。なのにそんな彼を信じる事ができなかったばかりに本心からファイマーと打ち解ける事ができなかった。もっともっと早く気付けていればもっと心からお礼を言ったり仲良くできたかもしれない。仲間のために死ぬ事でしか彼の身の潔白を信じる事ができなかった。ミヘラは自身を狭量な獣人だと強く責めた。


「ファイマー……ごめん……」


ディギンスを起こさない様に声を殺して泣いた。


「ドラゴス教団…絶対に許さない。落涙を手にして、信仰対象であるファビスターを殺してやる。そして我が身の可愛さ、心の弱さから人々に仇を成して自分だけは助かろうなどと考える薄汚いドラゴス教団とその残党を殺してやる…!」


情けなどかけるべきじゃなかった。妖精を捕らえていたあのドラゴス教団の連中も全て。もう二度と過ちは犯さない。ミヘラは胸中で怒りの炎を燃やし続けた。


結局一睡もせずに敵襲を警戒していたミヘラだったが何事もなく朝を迎える事ができた。ファイマーがいない事に気が付いたディギンスにミヘラは前日の夜の出来事について話さなければならなかった。彼女は目撃した事をできるだけ正確に彼に伝えた。


ディギンスは眉間にしわを寄せて顎に手をやる。悲しんでいると言うよりは腑に落ちない事の不快さが大きい様だ。


「…ミヘラ、複数確認したい。服に着いた血痕の位置は腹だったよね?」


「う、うん…。首から上の血はあまり多くなかったけど、血の色からするにどちらの出血もそれほど時間差が開いている様には見えなかった」


「それで、ファイマーの服の向きはうつ伏せだった?仰向けだった?」


「何言ってんの、そりゃもちろんうつ伏せ…」


ミヘラはそこまで言いかけて言葉を止めた。ファイマーの死やその不可解な死亡状況に動揺していたが、彼女の記憶は鮮明に状況を覚えていた。


「いや…仰向け、だったわ」


争った形跡は殆どなかった。だから背後を取られて殺された。首はその後に切断された。ミヘラはそう考えていた。だからファイマーの服はうつ伏せだと思い込んでいた。しかし思い返せば確かに彼の服は仰向けだった。


「最初から首を斬ったのなら改めて腹部を傷つける理由がない。最初に不意を突いて背中側から腹部を刺突し、動きが鈍った所を追い詰められ正面から首を斬られたんだ。おそらくファイマーは敵を目撃している。反撃を試みる前に殺されたんだ。不意を突いたのにどうして初撃で首を斬らなかったのか良く分からないけど…」


「ファイマーより身長が低かったのかも。だから確実に狙える急所として腹部を選んだ。重傷を負って満足に体勢を整えられない所をトドメを刺した…とか?」


「はっきりとは分からないけど…。多分そんな所だと思う」


不意を突いたとは言え争った形跡すら殆ど残っていないあたり犯人はファイマーによる反撃を一切受けていない。かなり腕が立つ。ドラゴス教団は魔法が使える者やそれなりに腕に覚えるのある者はいたが殆どの場合は烏合の衆だった。そんな実力者が紛れている。


「…私達が森で会ったドラゴス教団達と合流してるのかな」


「知りたい情報はあるけど顔を知られているんじゃ調査も難しいね」


ミヘラはしばらく考えたが覚悟を決めた。


「ディギンス、体調の方はもう大丈夫?」


「ああ。まあこの…可愛い服のおかげで寒さも問題ないよ」


「オッケー。私、これからあいつらの拠点に忍び込んで探って来ようと思うの。協力して欲しい事があればテレパシーで伝える。いい?」


「忍び込むなら僕に任せて。隠密行動は得意だ」


「馬鹿言わないの。あんたはその隠密行動で捕まった事あるし、病み上がりでしょうが。何より…」


「旅の同行条件はミヘラの言う事をちゃんと聞く…でしょ?分かったよ」


「覚えててくれたんだ。ママインの里長に頭を下げなかった時から、もうとっくに忘れんだと思ってた」


「僕は自分が悪くないと思った事では頭を下げない主義なんだ。でも無理はしないでね」


「もちろん。それから、もし私が戻らない時は…」


「その時考えるよ。縁起でもない事を言わないで」


「分かった」





ミヘラは神経を尖らせて建物に接近する。あらゆる不意打ちを想定しながら進む。彼女よりは離れているがディギンスも建物の近くに来ている。協力を頼むかもしれない事と、妖精の森の一件であまり遠く離れているとテレパシーが通用しない可能性があるからだ。あの時は幼いミヘラがテレパシーをキャッチできなかったからである可能性もあるが…。


彼女は少しでも安全な場所に居て欲しい気持ちがあったが、あまり過保護に扱うと返ってどんな無茶をし出すか分からないのがディギンスだ。万が一の事がない様にとミヘラは肩に力が入った。


建物の周囲を確認し、慎重に慎重に調べる。2階の屋根裏に入れそうだ。他は窓から入れても近くに信者がいないとは限らない。


「何なのよもう…」


ミヘラは苛立っていた。彼女の予想に反して見張りは異様に少ない。まるで全てが罠であるかの様に見えてならない。彼女は深呼吸して自身をリラックスさせた。


「やるのよ私…。本当に油断してるだけかもしれないし…」


『ミヘラ、大丈夫?無理そうなら出直した方がいいんじゃ…』


「大丈夫よ。心配しないで」


そう言うと意を決して建物の塀を登り、塀の頂上から家に飛び移った。窓上の突起を這い上って屋根に着く。誰にも目撃されていない。ミヘラは屋根上の周囲を確認して中に入った。誰もいない。姿勢を低くして耳を澄ませ屋根裏で物音がしないか確認する。下の階からとりとめのない雑談が聞こえるばかりだ。


ゆっくりゆっくりと屋根裏の窓を調べる。鍵の様なものはかかっていない。しかし古くなってる様で開けようとすると音が目立つ。見張りが振り返れば見つかる。ディギンスに頼んで何か注意を引きつけようかと考えていると雨が降って来た。


「げっ、雨だよ。中に入る?」


「サアキ様には悪いけど正直やってらんねえよなぁ。どこを出歩いてもドラゴス教団を皆が恐れてる。見張りなんかしなくても襲撃なんて来やしねえって」


「馬鹿、滅多な事を言うもんじゃない!そりゃ確かにあのお方は俺達より後に入団したよ。でもそれで4枚羽に昇格してるんだぞ。実力は半端ねえよ。滅多な事を言うもんじゃない」


サアキ様…4枚羽…。


『ミヘラ、どうかした?』


『ドラゴス教団が何か言ってる。彼らは4枚羽のサアキと言う奴に従って見張りをしているみたい。割と最近入ったのに随分出世してるとか…』


『4枚羽のサアキ…。サアキの事は知らないけど、僕が捕まっていた頃に2枚羽とか、6枚羽とかそんな事を言っているのは聞いた事あるかも。あの時は何の事だか良く分からなかったけど、教団内での地位とか階位とかそんなものなのかも』


「酒でも飲みに行こうぜ。一杯ぐらいなら怒られねえよ」


「んだな」


2人の教団は建物の中に入って行った。随分とやる気がない。ファイマーを殺害したのは本当にこいつらなんだろうか。ミヘラは不思議に思った。雨音といい見張りがいなくなった事といい、ちょうど窓を開けるタイミングがやって来たのでそうしようとするといきなり家の中が騒がしくなった。


扉が乱暴に開くと先ほどの教団の2人が家の外に追い出された。


「交代の時間はまだ先のはずだが?」


透き通った青年の声が聞こえる。足音が教団2人に近付くと彼らは後ろに下がる。ミヘラはひとまず窓を開けるのを諦めて彼らに見つからない様に後ろに下がった。そして会話に耳を傾ける。


「すす、すみません、ちょっと水飲み休憩をしようと思って…」


「ほお。2人揃ってか」


「お、俺はトイレに行こうと思ったんですよ」


僅かに顔を出すと青年が見えた。両手両足だけ鎧を着込んでいる…のではなく、どうやら義手や義足の様だった。それもただの義手義足ではない。歩いても殆ど音は立たないし、フレームに施された意匠で魔法効果が付与されている。それだけではない。ミヘラの鼻にははっきりとやつの義手から発される血の匂いが感じられた。ファイマーを殺害したのは奴だ。ミヘラは確信した。


「用ならその辺で済ませろ。水なら雨粒でも飲め。次から適当な仕事をする度に手の指を一本ずつ、関節ごとに切断してやる。見張りは3時間追加だ」


「は、はいサアキ様…」


その言葉を聞いてミヘラはすぐにディギンスに四枚羽のサアキと言う人物を見つけた事、その容姿や特徴を報告した。


「あ、あのサアキ様。誰かに頼んで水を持って来てもらうってのは問題ないですかね?」


サアキは特に返事もせずに教徒の顔を眺めていた。


「雨水飲んで我慢します…」


そう言うとサアキは家の中に入って行った。雨は強くなるばかりだ。ミヘラは慎重に慎重に屋根裏の窓を開き中に入った。幸いにも雨音のおかげで気取られずに中に侵入する事が出来た。ミヘラは辺りを確認する。屋根裏は物置きになっている様だが、誰かが使っている痕跡が至る所にある。机にはろうそくがあり、近くには紙が置いてある。


内容を確認しようと近付くと下の階から足音が聞こえて来た。ミヘラは辺りを見回し隠れる事ができそうな場所を探す。窓付近にある荷物にかけてあるシートの中に隠れた。


『そっちの方はどう?』


『中に侵入できたよ。今は屋根裏部屋。誰かが来る』


『無事を祈ってるよ』


静かな足音が屋根裏部屋に到着する。紙をめくる音が僅かに聞こえる。


「くそ、どうにも調子が悪いな」


その声はつい先ほど聞いたサアキの声だった。ミヘラはより意識して息を殺し耳を澄ませる。足音はこちらに向かって歩いて来る。ミヘラの剣は狭所では扱えない。ミヘラは短刀を取り出して握りしめた。


しかし足音は離れた所で止まった。どこかに腰を下ろす音が聞こえる。キコ、キコ、ガチャガチャと音が聞こえる。どうやら義手義足のメンテナンスを行っているらしい。


「次の作戦に響いては事だ。今のうちに全部やっておくか」


そう言うとゴトリ、という音が聞こえた。重さからするにいずれかを外した様子だ。


「サアキ様~!こっち来て一杯やりましょうよ~」


「チッ、あの馬鹿共め…。事ある毎に酒だのギャンブルだの、全く…」


何やら部下の事で心労が絶えない様子だ。


『義手義足か…。どんな仕組みなのか気になる』


『今は万全には戦えない。襲えば何か聞き出せるかも…』


『早まっちゃ駄目だ。いないフリをして情報を聞き出すに留めよう。ファイマーの事で怒ってるのは分かるけど…』


「クソッ、こっちもだ。これだから森だの山だの行くのは嫌なんだ。あっ」


ベッドから何か落ちる音が聞こえた。サアキは苛立たしそうにしている。身を捩って何かしているのか布を擦る音が聞こえた。ミヘラは少しだけ状況を確認しようと僅かに顔を出した。しかし、動いた際にシートが動いて後ろの物が落ちてしまった。顔を出したミヘラとサアキの目が合った。


ミヘラは瞬時に素早く、なおかつ足音を立てずにサアキに近付いて短刀を取り出し、その喉元に刃を押しあてた。


「俺を殺すのか…?」


ミヘラは彼の状態を確認する。左腕がベッドに置かれ、右足がベッドの下に落ちている。私は左腕を蹴って遠くにやり、彼を突き飛ばして押し倒した。


「返答次第だ。抵抗はするなよ。私は君が何をするより早くその首にこの刃をねじ込む事ができる」


「分かった、分かった…。話を聞こう」


「サアキ様~?」


下の階から教徒の声が聞こえる。サアキは視線だけ階段の方に向けてミヘラの方に向き直った。


「部下にここへは来ない様に言え」


「分かった…。馬鹿騒ぎも大概にしろ!酒もギャンブルもうんざりだ!そのアホ面をしばらく見せるんじゃない!!」


「酷いよサアキ様~」


そう言って声の主は遠ざかって行った。ミヘラはホッと胸をなでおろした。ディギンスにはやむを得ない事情があってサアキと接触した事を手短に伝えた。ディギンスは心配したがとにかく問題ないと伝えた。今はサアキから情報を聞き出す事が先決だ。


「これからディングルディル聖堂に向かうんだってね。作戦の詳細を教えてもらおうか」


「どうしてそれを知っている…」


ミヘラは首元に押し付けるナイフを更に押し込んだ。サアキの首元から一筋の血が流れる。


「質問するのは私。答えるのはお前だ」


「分かった、答える、答える!」


「適当な事を言うなよ。嘘を言うと分かるからな」


サアキはきつく目を瞑ると作戦について話し出した。まずドラゴス教団には1~6枚羽までの幹部がいて彼らが教団を率いている。教団の教主は6枚羽のエヴリーと言うデミエルフらしい。彼らは私達と同じで女神像から涙を得る事が目的らしい。しかしどうやって涙を流させるつもりでいるのかはサアキも知らな様子だった。


女神像の涙から落涙を作る事ができるを知っている様子だったので何か手段があるのかもしれない。ミヘラは頭の中で情報を整理しながら彼の話を聞いていた。


「落涙はドラゴンを殺す武器だ。どうしてドラゴンを崇拝するドラゴス教団がそんなものを欲しがる」


「落涙はウルフェラ様を殺せる唯一の武器だ。そして女神像を壊せる武器でもある。落涙なんて武器が二度と作られない様に女神像を壊し、それを献上する事で忠誠を誓うんだ」


「ウルフェラ様…?ドラゴンの名前はファビスターだろ?」


「どうしてそれを…。そうかお前、ファイマーの仲間か…」


サアキの口からファイマーの名前が出るとは思わなかったミヘラは硬直した。しかしすぐに気を取り直す。


「ファイマーを知ってるのか?」


「知ってるも何も、ファイマーはドラゴス教団3枚羽だ。エヴリーは裏切り者として見かけ次第殺す様に指示していた」


それを聞いてミヘラは混乱した。頭の中でファイマーと言うエルフの人物像が揺れる。エルフの森を焼いて回っていたのは悪魔が憑いていたからで、憑いていた悪魔が払われたから改心したはずで、改心したファイマーは私達に協力してファビスターを殺すために一緒に旅をしていて…。自分達のためにドラゴス教団を探っていて志半ばで倒れる事になったはずのファイマーがドラゴス教団の幹部だった…???


余りのショックに眩暈がして思わずその場から後ろに2歩、3歩と下がってしまう。


「嘘だ…。そんな訳はずがない。だって、ファイマーは…ファイマーは…」


ドラゴン退治のために尽くしてくれたはず。私達と共に戦って来てくれたはず。そう言いかけて言葉が出て来なかった。自分達を利用するために行動を共にしていただけではないのか?ミヘラの内心でそんな疑問が浮かんだ。彼女は頭を両手で抱えて首を横に振る。何もかも分からなくなってしまった。


違う、違うはずだ。ファイマーは悪魔が憑いていたからドラゴス教団になんかなっていたんだ。悪魔を払ったからドラゴン退治に同行したんだ。だから裏切り者で…。でもいつ裏切り者になった??いつドラゴス教団のトップの耳に入った??分からない…分からない…。混乱するミヘラの頭にディギンスの叫び声が響く。


『ミヘラ、落ち着いて!しっかりするんだ!敵は目の前にいる、殺されるぞ!!』


『そんな事言われたって、だってファイマーが…そんなの…』


サアキは身を捩って義足を掴み、体勢を整えて装着した。それから先ほど遠くに蹴られた左腕を取って装着する。ミヘラはどうしていいか分からずただ頭を抱えていた。


「ファイマーの口車に乗せられて利用されたんだろう。可哀そうに。あいつは君が思ってる様なエルフじゃないよ。だがあいつが捨て駒にしなかったんだ。きっと君は有能なんだろう。君が良ければ一緒に来ないか?」


「一緒に…?」


「ファイマーに何を唆されたのか知らないが、きっと君はドラゴス教団を誤解している。俺の傍に居て欲しい。きっと考えも変わる」


頭の中が感情でぐちゃぐちゃになったミヘラはどう返事していいか分からなかった。ただ分かるのは、彼の誘いに上手く乗れば作戦を利用できるかもしれないって事だけだった。それが賢い選択かもわからないままミヘラはうなずいた。


その後は異母姉弟としてディギンスも紹介する事になった。ミヘラの判断ではなくディギンスの意見だった。ディギンスはショックを受けて立ち直れないミヘラの傍に居て少しでもサアキがおかしな行動を取れば彼女を連れて逃げるつもりだったが、サアキはどうやら本気で2人を仲間に引き入れるつもりの様だった。


自分がしっかりしなければと気を張っていたディギンスだったが、サアキの率いるドラゴス教団はあの奴隷商を行ったり各地で乱暴を行ったりする気の狂った集団とは思えないほどに親切で、フレンドリーで、朗らかで困惑した。


彼らは本気でドラゴンに憧れていたり、行く場所がなくなって仕方なくドラゴス教団に入信していたり、脅かされる日々に疲れて面白おかしい仲間を見つけて気を紛らわせていたり、時に自身の犯した悪行に自責の念に苦しんでいたり、ただ悪い奴と一括りにする事はできなかった。


おまえ(サイバーテロリスト) なんなんだよ!!

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