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#08. Reboot 脱出 [7]






 数日前、父がこの家を訪れた。

と言っても、10分もいなかっただろう。




 祖父の家を出る。

その為、遺品整理も終えて更地にする。

最後の確認をすべく、連絡を入れて来てもらった。




特別な会話は何もなかった。

息子がどこで何をするのか、そんな事はもう、父には一切興味が無かった。

ヘンリーも、言うつもりは毛頭無い。






 そしてその日以来、誰からの連絡も無ければ訪問も無い。

レイシャにも、とうとう会えなかった。










 今夜は、月も星も無い。

曇り空は、雨でも降らそうかと悩んでいるのか。

キッチンにだけ灯る電球色。

シンクの前の窓に、その空の如く暗い、光のない目を向け、彼女を待ち構えていた。






 静まり返る空間に、ノックが響く。

彼は、ジリジリとそこに横目を向けた。




シャルは、静かに姿を現す。

目が合う前に、彼は窓の方へ視線を戻す。

彼女が傍のテーブルまで近づく足音だけを、聞いていた。




「出るんですってね」




彼女にとって、そんな事は全く関係ないだろう。

なのに、ちゃんと知っている。

ベラベラ喋りやがってと、窓に向いたまま、目は黒く震えながら見開いていった。

ポケットの中の右手が、震え始める。

いつまでも背を向けていられないと、俯いた状態で静かに振り返った。




「それ…合ってるか…見て…」




テーブルに置いていたのは、適当に用意した研究組織の解散に関する書類だった。

彼女はそれらを少々手前に寄せ、着席する。

しばらくじっと、細かい字を読んでいた。

仕事の顔に切り替わるそれもまた、直ぐに消してやりたくなる。




「どうするの。これから」




答えるものか。




挿絵(By みてみん)




 ヘンリーは自分のコーヒーを左手に、右手で彼女の分を差し出す。

彼女は小さく礼を言うと、それをあっさり口にし、書類に目を通していく。

そう読み込むようなものではない。

なのにそうするのは、顔を合わせにくいからか。






 またシンクまで引き下がると、静かにカップを口にする。

どうしようが関係ない。

大体、顔を合わせたくないのはこちらの方だと、カップの縁から開いた瞳孔を向ける。

彼女は、いつまでも返事を寄越さない彼に聞き返す事もせず、コーヒーをまた飲む。




「……残念だわ」



(あ?)




震える瞼を閉じた。

さっさと、飲め。それ一択だ。




「もう、動くようになったの?手」



(……黙れ…)




飛んだ左腕は、今は義手の上から革グローブが嵌まっている。

それに彼女は視線を向けながら、書類をテーブルに置き、カップを口に運び続けた。




「………それ…」




質問に答えないまま、テーブルの端に積んでいた数冊の本を目だけで示す。

彼女はそれを見て、またヘンリーに向く。




「……返すようにって…………アルフが…」




彼女は僅かに目を見開いた。

祖父を名前で呼ぶなど珍しい。

そこに積まれていたのは、遺言書にあったシャルへの返却物。

彼女はそれを手に取ると、少し微笑んだ。




 ああ何が楽しい言ってみろと、目は即刻、鋭利になり、震える。










SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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