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#08. Reboot 脱出 [7]
やっと来たかった世界である。
既に実践をさせてもらえているレイシャは、着々とスキルを身につけていった。
まだ駆け出しのエンバーマーの為、端でモニターする事の方が多い。
しかし、呑み込みが早い彼女は早々に評価されていた。
既に複数の故人を学んできているが、一度、激しい損傷を負った人と対面した際は驚き、手が動かなくなった。
だが、その克服も早かった。
防腐処理後、綺麗に生前の状態に戻っていく故人の姿は、話しかけると目覚めそうに思えてならない。
だが、そういった気持ちを口に出す事をしなくなっていた。
必要最低限しか話さずにいる今、周囲からは物静かな性格と思われている。
居場所を失わない為に、考えや想像した事はレアールに打ち明けるようにしていた。
そしていつかは、ヘンリーにも
(…どこで…何してるの……)
話を聞いてもらいたかった。
それよりも、まずは彼の話を一早く聞きたかった。
あの時以来、ゆっくり話せていない。
ずっと会えていない今、仕事中でも心配になる事は多々あった。
特に、悲惨な怪我をしていると知り、余計に心が落ち着かない。
凄まじい集中力は連日続いた。
溢れ出る考えは、右手の動きを止める様子が一切無い。
ヘンリーは、誰もいなくなった研究所でマーカーを只管走らせ続けていた。
時間は分からない。
納得がいくところまで突き進むか、声を掛けられない限り止まる事はない。
この場の決定権は、今でも自分にある。
誰かに売るだの譲るだの、そんな予定はもう無い。
不完全な手つきで、気に入らない字体が膨大に並んでいく。
目の動きは早い。
風が冷たい季節でありながら、汗が酷く滲んでいる。
声こそ出さないが、これまでにないくらい興奮していた。
邪魔が消える。邪魔を消す。
そんな最高な事があるだろうか。
連なる計算式。
その横には、いつか父の職場に勤めている間に持ち出していた、作図用紙。
それには思いつく限りを埋め尽くした、ゼロを越える骨格を持つ、アンドロイドの設計図。
現状、資産の心配はない。
現時点での条件で、試せるだけの事をして殺る。
まるで永久的に動くと思わせる手つきは、何かが憑依しているようだ。
そこに浮かぶ目は瞼を失い、激しく左右する。
一時的に揃えた工具や機械器具。
持ち込めない物は、父の職場に忍び込んで機械を使う。
容易いものだった。
いつ、誰が、どのタイミングで使用するかは未だに記憶している。
息子故に鍵も持たされており、未だ所持したままだ。
父は、そんな事など抜け落ちているのだろう。
ただ、思い出されると厄介である為、合鍵は作っておいた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




