[1] 1270.
レイシャは、部屋で仕事の資料を放置したまま、呆然としていた。
やっと知れた名前、ヘンリー。
しかし、待ちわびていた彼とは随分違い、変わってしまっていた。
恐ろしくてならなかった。
怒鳴られ、掴みかかられた時は立ち尽くし、彼が立ち去っても暫く息が整うまでそこにいた。
過る、ノーラン・クラッセン。
父親であっても、信じ難い態度だった。
家族に対して思うところは、自分にもある。
上手くいかず口を利かない事など、日常茶飯事だ。
しかし、彼の息子への当たり方は、酷いものだった。
頭では今、その時の光景が何度も再生されている。
恐ろしい顔に、怒鳴り声。
押し潰されそうになるのを耐え、俯いていたヘンリー。
(……ずっと…ああだったの…?)
彼の事はまだまだ何も知らないが、もしも小さな頃から、見た光景のような中で生きていたとするならば。
そんな事を想像すると、彼女は目を尖らせ、つい両手が拳に変わり、震えた。
何とかしたい。
聞いた様子だと、失業したのか。
そうならば、自分の職場に紹介できるだろうか。
もしくは、あの技術を活かせる場所を幾つか探してみようか。
そんな思考が巡り始める。
突き返されたその晩、放っておけず再び彼の家を訪れていた。
2階を見ても真っ暗で、昼間のように玄関が開いている事もない。
数回名前を呼んでも、応答は無かった。
そもそも、人の気配すら感じなかった。
翌日も、そのまた翌日も、仕事を終えては訪れた。
その次の日には朝から訪れるも、いない。
彼は一体、ここ以外にどこで過ごしているのか。
不思議に思いながら、往復する日が続いた。
毎日ではなかったが、レアールと夜を過ごす日も相変わらずあった。
会う度に、彼に対する心配事を呟く。
その最中、固定のスケジュールが結局決まっていないレアール。
それもまた、レイシャにとっては辛かった。
「醜いものは…排除される…」
それは、もはや最悪な口癖だ。
「そんな事言わないで!」
そしてレイシャは怒鳴る。
楽しく話していても、途中からはそんな会話になる。
この繰り返しが嫌で、声を上げてしまう。
互いに最悪の心境だ。
それを分かっているから、また互いに抱き締め合って慰める。
不安定な精神状態にある中、それでもレアールはジムに通い、体作りに励んだ。
また、仕事が詰まっていてなかなかできなかった、リラックスして1日を過ごすという事も、取り入れるようにしている。
成果が出ているのか、1日中明るく過ごせた時があった。
しかし、その逆もまたあった。
流行の変化はファッションだけに限らない。
どういうモデルが注目されるのか、そこにも大きな変化は訪れる。
レイシャから、口酸っぱく言われたエゴサーチをするなという言葉。
どうしても、それをせずにはいられない気持ちに駆られてしまう。
(…遅れる……遅れるよ……)
ただでさえ新人に追い抜かれ、魅せる場を失っている。
雑誌の仕事も一時期受けたが、表紙を飾っていた時とは比較にならない。
使われる写真は少なく、掲載箇所も狭かった。
それに、胸が張り裂けそうになっている。
片や、転職して懸命に仕事をするレイシャが羨ましく、声を殺して泣いた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




