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 レイシャは、部屋で仕事の資料を放置したまま、呆然としていた。

やっと知れた名前、ヘンリー。

しかし、待ちわびていた彼とは随分違い、変わってしまっていた。




恐ろしくてならなかった。

怒鳴られ、掴みかかられた時は立ち尽くし、彼が立ち去っても暫く息が整うまでそこにいた。






 (よぎ)る、ノーラン・クラッセン。

父親であっても、信じ難い態度だった。

家族に対して思うところは、自分にもある。

上手くいかず口を利かない事など、日常茶飯事だ。

しかし、彼の息子への当たり方は、酷いものだった。






 頭では今、その時の光景が何度も再生されている。

恐ろしい顔に、怒鳴り声。

押し潰されそうになるのを耐え、俯いていたヘンリー。




(……ずっと…ああだったの…?)




彼の事はまだまだ何も知らないが、もしも小さな頃から、見た光景のような中で生きていたとするならば。

そんな事を想像すると、彼女は目を尖らせ、つい両手が拳に変わり、震えた。

何とかしたい。




 聞いた様子だと、失業したのか。

そうならば、自分の職場に紹介できるだろうか。

もしくは、あの技術を活かせる場所を幾つか探してみようか。

そんな思考が巡り始める。






 突き返されたその晩、放っておけず再び彼の家を訪れていた。

2階を見ても真っ暗で、昼間のように玄関が開いている事もない。

数回名前を呼んでも、応答は無かった。

そもそも、人の気配すら感じなかった。




 翌日も、そのまた翌日も、仕事を終えては訪れた。

その次の日には朝から訪れるも、いない。

彼は一体、ここ以外にどこで過ごしているのか。

不思議に思いながら、往復する日が続いた。






 毎日ではなかったが、レアールと夜を過ごす日も相変わらずあった。

会う度に、彼に対する心配事を呟く。

その最中、固定のスケジュールが結局決まっていないレアール。

それもまた、レイシャにとっては辛かった。




「醜いものは…排除される…」




それは、もはや最悪な口癖だ。




「そんな事言わないで!」




そしてレイシャは怒鳴る。






 楽しく話していても、途中からはそんな会話になる。

この繰り返しが嫌で、声を上げてしまう。

互いに最悪の心境だ。

それを分かっているから、また互いに抱き締め合って慰める。








 不安定な精神状態にある中、それでもレアールはジムに通い、体作りに励んだ。

また、仕事が詰まっていてなかなかできなかった、リラックスして1日を過ごすという事も、取り入れるようにしている。

成果が出ているのか、1日中明るく過ごせた時があった。

しかし、その逆もまたあった。




 流行の変化はファッションだけに限らない。

どういうモデルが注目されるのか、そこにも大きな変化は訪れる。

レイシャから、口酸っぱく言われたエゴサーチをするなという言葉。

どうしても、それをせずにはいられない気持ちに駆られてしまう。




(…遅れる……遅れるよ……)




ただでさえ新人に追い抜かれ、魅せる場を失っている。

雑誌の仕事も一時期受けたが、表紙を飾っていた時とは比較にならない。

使われる写真は少なく、掲載箇所も狭かった。

それに、胸が張り裂けそうになっている。

片や、転職して懸命に仕事をするレイシャが羨ましく、声を殺して泣いた。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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