[7] 650.
MECHANICAL CITY
#12. Complete 細胞の記憶 [10]
「最終判断には絶対従う事って、一体いつ、どんな判断?
普段の指示の事じゃないようだけど、誰も分からなくて。
でもドクターが言うから、忘れないようにしてる」
表情と態度を変えないまま、彼はしばらく黙り続ける。
それは全員に告げた指示であり、約束だ。
彼は踵を返し、船着場に向かって歩き始める。
「ドクター」
「覚えておけ………それでいい…」
彼女の呼ぶ声に僅かに被せながら言うと、暗がりにそっと立ち去った。
ゲートを開くと、木造の足場に音が小さく立つ。
幼少期からずっと、ここによく来ていた。
視界に何の障害物も入らない、最も世界に浸れる場所。
そして、一番有りの儘でいられる場所だった。
複数積まれた大きな木箱に腰掛ける。
広い面積を持つそこは、悠々と身を預けられた。
カクテルを一気飲みしたせいか、酔いの回りが早い。
そもそも酒が久し振りであり、疲労の蓄積も関係しているだろう。
漆黒の波の音は直に、眠気を齎す。
重くなる瞼は、徐々に下がっていく。
揺れる、黒い世界。
未開拓で、謎多きそこがずっと気になっている。
求めたくてならない。
そこが、好きで堪らない。
このまま、引き摺り込んではもらえないだろうか。
必ず願ってしまう事だった。
いつか、その時が来たら、実際に沈んでいきたいと。
そこの波が、そのまま誘ってくれるのならば、本当の意味で、安心できる気がしている。
光も無い。
誰の目にも触れることのない、そこで。
闇は次第に増していく。
波は、どこからともなく受ける僅かな光を、揺らし続けていた。
その光はぼやけ始めると、やがて、そっと閉ざされた。
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SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。