[17] 1150.
「もう明日発つの?」
「当たり前じゃん。研修抜けてきてんのに」
やっと集まりが解散し、ジェレクもホテルに戻ると話す声がした。
ヘンリーは突っ伏していた顔を上げる。
ぼんやりと灯るスタンドライトに、薄目を開く。
埃っぽい臭いが籠る部屋で、少しだけ咳を零した。
いつの間にか寝ていた。
然程、散らかってはいない。
1枚に詰め込まれた式の紙は、裏表共に黒い紙のようだった。
携帯電話を覗くと、夜の9時と表示されている。
いつから寝ていたのかは分からないが、下はここへ来た時よりも静かだ。
やっと終わった。
それに僅かに安堵しながら、そっとドアを開く。
真っ暗な廊下の下では、リビングの電球色が仄暗く灯っている。
「まぁ半年無いくらいかな」
「その後にこっちで?」
「何も決めてねぇよ」
それに父が呆れた笑いを小さく溢す。
どうやら3人だけになっていると知り、部屋を出るのをもう少し待った。
「面倒かけるなよ。俺もまだまだ忙しい。
構ってられないぞ」
「今更、知ってる。
俺は適当にやれっから、ご心配せずどーぞ、お気になさらず。
じゃ」
実にサッパリした別れである。
ドアの開閉音が消えても、直ぐには出なかった。
2人が揃っているならばと考えたが、止めた。
体が止めてくる。
ポケットに入れていた右手を抜くと、その反応は相変わらずだった。
小さく深呼吸をする。
出なくていい。
そう言い聞かせ、彼女が去るのを待った。
2人のやり取りする声は、まるで蛇か。
聞き耳を立てていたつもりはないが、どこかで求めていたのだろう。
それは、ドアの隙間から耳へスルスルと入り込み、聞こえてしまった。
「このまま…任せていても…?」
シャルが父のノーランに、不安気に尋ねる。
「何度も言ってる。
もう気にするな。片は付いてる。
大体うちの息子の事だ。
こちらが詫びる事なんだから。
それより、もう落ち着いたのか?」
どうやら彼女の体調を気にしているのか。
淡々としているようにも聞こえるが、それでもどこか当たりが違う。
まるで、知らぬ間にそういう関係にでもなったのか。
だとすれば
(…気色悪………)
ヘンリーの目は自然と鋭くなり、様子など見えやしない廊下の下に向く。
「ええまぁ……仕事はまだだけど…」
「伝手はある」
「……ありがたいけど、少し休もうと思って…」
これまでずっと根を詰めて働いてきた彼女。
事故に続く失業に、アルフの死が重なり、これまでにない程疲れていた。
纏まった休みを取って過ごす事も殆どなかった為、働く事を一時辞めると言う。
ノーランはそれを聞き、静かに頷いた。
彼女を失業させたと考える彼は、落ち着いた時には次の務め先を紹介させて欲しいと伝える。
しかし、現時点では予定が立っていない為、彼女は小さく礼を言うだけに留めた。
「そう言えば…少し前に電話があったのよ…」
言いながら彼女は、ヘンリーの部屋に視線を向けた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




