[16] 1120.
#05. Error 誤搬送 [4]
#08. Reboot 脱出 [7]
#12. Complete 細胞の記憶 [14]
葬儀の後も、集まりは長く続いた。
今、一族の1人として、久し振りに実家にいる。
ここの長男。
ただそれだけの理由で居合わせているが、いい加減人混みに耐えられなくなり、表情も保ち続けられない。
心底腹立たしい。
父も、彼女も、どういう訳か平気で他人と会話をし、笑っている。
今日の為だけに気色悪い左手をつけているが、さっさと外したくてならない。
我慢の限界がきたヘンリーは、静かに身を引いた。
2階に上がり、幼少期から大学時代まで過ごしてきた、殺風景な自分の部屋に入る。
ドアを閉めるなりそこに背を預け、顔を右手で覆った。
今、この瞬間も、何も変わっていない。
学校や、父の職場から戻ってきた時と、何も変わっていない。
この立ち方も、苦しみも痛みも、何もかもだ。
急に嵩張って聞こえてくる、多くの指摘や叱責する声。
(…黙れっ……)
1つ変化を上げるならば、激痛の倍増だ。
体内に犇めくそれは、特に左腕に集中する。
背を離すと、目の前に冷たく置かれたベッドに義手を力無く放り投げた。
こんなものが欲しいのではない。
事実を明確にすれば、楽になれるのだろうか。
しかしどうしたものか。
直接聞き込む方が早いにしても、今の自分は確実に感情的になる。
震える右手と眼振を感じながら、そんな事を思っていた。
気づけばベッドに腰掛け、前屈みになり髪を握っている。
今は、この集まりが終わるのを待つ事にした。
すっかり根付いた、流し目を向ける行為。
その目は冷え切ったデスクに向く。
よく噛りつき、知識を得る事に明け暮れていた。
そこには、紙とペン。
それらに咄嗟に飛び付く。
あまり沢山はない。
小さく、目一杯、裏表に敷き詰めるつもりで向き合った。
少し慣れたのか、マシな字になっている。
この世界は、海の次に好きになった。
等号で結ばれ、形状を変えていく式。
これらが、人に思えてならない。
(尖る……丸い……長い……短い……
壁を作る……チームを作る……繋ぐ……
線引きする……派閥が起きる……争う……
また引っ付く……)
細かくペン先を走らせながら、想像し続けた。
式によっては、こういう解という事にしよう。
代数的に解けない。解は無い。
そうして、都合よく表現されたりもするそれらの羅列は、まるで終わりが無い人間の思考に感じた。
式自体は必ず終点を迎えるにせよ、別の問題が次々にある。
どんなに証明を終え、Q.E.Dとしたとしても、新たに証明する必要がある事柄は出てくる。
(……覚えろ……覚えろ……)
手は、ずっと震えていた。
しかしそれは、怒りや焦燥によるものではない。
今は不安で、寂しくてならなかった。
彼の中で唯一意識し、焼きついた事。
人の勉強を、人がどういうものかを、学び続ける。
走るその手は、まだまだ止まる様子はなかった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




