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#07. Cracking 処分 [13]
祖父が亡くなったのはいつだったか。
随分と時が経っているが、その亡骸はとても美しく維持されていた事を思い出す。
それを機にまた、レイシャが過った。
エンバーマーになると言っていたが、叶ったのだろうか。
不思議と、そんな事は直ぐに思い出せる。
謎めいてならないこの現象は、何だ。
思い巡らせてみるが、一向に分からない。
彼女が考える保持方法は、もっと凄いのだろうか。
それこそどこの国と言っていたか、何十年もその姿を保ったまま、一般公開している遺体があると聞いた。
まるで芸術品を展示するようで、人々はそれを見に訪れるのだと。
だが、長きに渡って保たれているそれの殆どは、本人と呼ぶには掛け離れている程、パーツ交換が行われているらしい。
そこにはプラスチックが使用され、皮膚も取り換えられていると聞く。
炭化水素化合物の一種やアルコール成分。
保湿剤や色素、その他にも様々な化学薬品が使われているのだそう。
彼女はそういった交換をより削減し、本人と呼べる状態にしたいと言う。
祖父にはそこまでの処理は行われていないが、やはり長期維持となると腐敗を防ぐ必要はある。
血液は抜き取られ、臓器や血管に防腐処理薬品の注入がなされていた。
頬に膨らみをもたせる為に含み綿を施したり、瞼の接着や上下の歯茎を縫い合わせて口を閉じさせる事で、安らかな寝顔を整えていく。
これらの技術の効果で、病により痩せ細っていた彼は、まるで再生した姿になっていた。
血色が良く、実に健康で活発な姿。
研究職に漲る、あの有名なアルフレッド・クラッセンの帰還といったところか。
(………何だ……それ……)
人の扱い方も変わったものだ。
そんな話を思い出すと、祖父の遺体が浮かぶ。
(…生まれるのが…早かった……)
また言い出しそうな程、彼の姿は生々しかった。
部分的に散骨を終え、墓地に骨壺が納められていく。
人々はそれに、祈りを捧げる。
嘗てを振り返り、その人を想いながら。
そうしてまた、日々を引き続き生きる。
区切りをつけるというものか。
ヘンリーは、人よりも距離を取ったところでそんな事を考えながら、呆然と祖父の影をどこかしらに浮かべていた。
しかし、どこか置てきぼりにされている気もしていた。
これが区切りをつける行いとされるならば、自分はそれをなかなかできないでいる。
遺体に対する感じ方が変わってくる。
その延長に、機械を入れ込むとどうなるかという想像。
レイシャの口から零れたそれの第一印象は、突拍子もない事だった。
しかし、馬鹿にもできなかった。
考え事をし過ぎたところで、落ちていた視線を上げる。
今、身を置いているこの環境や、取り巻く人間に対し、すっかり心ここにあらずだ。
目に映り込む人間が、くだらない。
視線の先にはシャルもいる。
それを捉えるなり、ジワジワと目の色を変えた。
強い動悸と共に怒りの感情が込み上げ、顰め面のまま周囲から背く。
彼女や父も、弟も相変わらず、遠く離れたままだ。
まるで自分は、ここにいないのか。
ところでシャルロット・デイヴィス、何か言う事は無いのかと、今にも掴みかかりそうになっている。
(…なぁおい……貴様だろう……言えよ……
返せよ………)
体は、抑制に耐えながら震えていた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




