[14] 1190.
当時の出来事を事故ではなく、事件として捉えたヘンリー。
怒りと焦燥に疲労困憊し、精神不安定になる事も定着してしまった。
不可解な出来事をクリアにしたくても、気持ちと体が追いつかない時もあった。
動ける日はそれこそ、1日の大半を研究所で過ごし、帰宅も夜遅い時間が増える。
その後は死んだように眠り、ほぼ昼夜が逆転する生活ばかり送るようになった。
そんなある日、酷い吐き気に襲われ、ベッドに倒れ込んだ瞬間。
突然、レイシャの顔が浮かんだ。
継続的に沸き起こっていた怒りの感情が、不意に断たれる。
やっと、彼女の存在を思い出した。
変わらず来ているのだろうか。
安定しない生活が続いている為、接触できていないだけなのか。
それを考えた矢先、目を覆う。
彼女を怒鳴り、乱暴して突き放した。
もう、来る筈がないだろう。
結局は失ってしまう。
自分は、何も大事にできないのか。
数秒思い出した後、その記憶を掻っ切るように顔を窓に向ける。
それでも残ったのは、ゼロの存在。
(……そういやあいつ…)
どこかへ仕舞い込んだのだろうか。
それもまた、抜け落ちている。
色々な事に追われ、溜め息が漏れた。
そこへ、携帯電話が短く鳴る。
ジリジリと横目を向けると、テキストを受信したランプが点滅していた。
それが置かれているのは、未だに左側。
それにまた苛立ってしまう。
どうせ父から、葬儀の詳細が届いただけだろう。
舌打ちすると起き上がり、それを確認せず、正面のデスクに向かう。
何もかもが耳障りで、目障りだ。
苛立ちに震える右手を強引に動かし、転がっていたペンと、適当に散らばっていた紙を取る。
(…邪魔…するな………)
本来の持ち方では煩わしい。
ただ、握るだけだ。
腹立たしいがそれでも、今は浸りたかった。
カーテンが閉められた暗い空間で、ただ只管、膨大な量の方程式にのめり込んでいく。
時間を忘れ、何時間にも渡って書き続ける中、知らぬ間に眠りに落ちていた。
葬儀当日。
ジェレクは渡航先から一時帰国していた。
姿を見るのは、彼に暴力を振るった日以来だ。
トラブルの事も耳にしているようだが、互いに一言も交わさないどころか、顔も合わせない。
自由奔放にやっているといったところか。
髪色も赤に近い程明るく、着用はしていないがミラーレンズのサングラスが胸に掛かり、光っている。
見た目とは裏腹に学力がある彼は、どうやら父の職業やその知識を派生させ、自動車生産業に就こうとしているようだ。
どう生きるかは自由だが、我が子との向き合い方に悉く差をつける父に、鋭利な目が向くのもすっかり当たり前になっている。
寒空の下、墓地に暗く立つ幹に凭れ、離れた所から人の流れを呆然と眺めていた。
周囲の声も、何も聞こえない。
ただ、多くの関係者が葬儀に参列し、墓地を訪れ、立ち去る。
話しかけてくる人もいたが、何を返したのか覚えていない。
無意識に相槌を打ち、やり過ごしたのか。
不快に思われている様子はなかった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




