[13] 890.
僅かな記憶を頼りに、遡り続ける。
父が言う、彼女を脅して絞殺しかけたという事が、信じ難かった。
しかし、シャルや警備員の証言があるならば、間違いないのだろう。
そこからふと、ジェレクとの揉め事を思い出す。
体が反射的に動き、コントロールを奪われていた。
同じ事が、今度は彼女に対して起きたのか。
それも記憶を失う程に、豹変したというのか。
だが、仮にそうだとしても、腕を失う必要はあったのか。
焦燥で体が熱くなり、右拳をデスクに叩きつける。
眼振を引き起こし、開いた瞳孔は、腹立たしい彼女の行動と声、そして父の怒鳴り声に向く。
凶器を探そうと書斎から飛び出し、現場へ駆けた。
当時を思わせない、片付いたそこに激しく入室する。
記憶する場面から、光が見えた角度を思い出す。
あの時、ここのデータ整理をしようと、古いコンピューターが乗るデスクに着いていた。
ついそこに飛びつき、引き出しを開けるのだが
「何でだ!」
怒りが抑えきれない。
何もかもが無い。欲しいものが見つからない。
激しい鼓動に疲れ、汗まで滲み始める体を落ち着かせようと、その場にへたり込む。
全身を駆け巡る激痛に、しばらく息が上がる。
ここに、ある訳がない。
警察と話したと父は言っていた。
今頃そこにあるのだろうか。
震える手で髪を握る。
そしてまた、新たに思い出した。
酷く体を引っ張られ、叩きつけられた。
誰かに強く抑えられた。
(………ビル…?)
父が言う、駆けつけた警備員とは彼か。
シャル以外に、彼が必死で呼んでいたような記憶も蘇る。
彼なら、事の顛末を知っているだろうか。
立ち上がると、血眼になりながら警備員に関するデータを探る。
しかし、他の職員や被験者のものはあっても、彼等は外部からの派遣である為、詳細がここにある筈がなかった。
何もかも手が届かず、静止する。
その背後を、黒い何かが覆い始めた。
怒りと共にそれは、激しい鼓動に揺れる。
表情は、更なる変化を見せた。
浮かぶ数々の怒りの対象。
それらから放たれた言葉。
正直に受け入れ、努力してきた自分。
見ていて反吐が出る。
目は尖り、憎しみに歯が鳴る。
悲鳴を上げる体。
解消されない闇は増幅し、いつかの穏やかさは消え失せた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




