[11] 750.
祖父の遺体はエンバーミングが施され、約2週間安置された。
有名人である彼を多くの関係者が訪れ、弔いの言葉が父に送られる日々が続いた。
一方ヘンリーは、あの時以来一滴も涙を流していない。
祖父の死を横に、研究所の片付けをする事と、事故の事ばかりが気になっていた。
祖父とは亡くなった当日に対面し、そこからは誰とも顔を合わさずにいる。
体の痛みや、手の違和感に吐き気が続く日々を乗り越え、懸命に事故当時を思い出そうとしていた。
父は病院で話したと言うが、改めて聞く気になれなかった。
腕がどうして失われたのか。
全身に残る痛みはどこからのものか。
明確なのは断片的な記憶。
真っ白な光の奥に浮かぶ、シャルの姿。
次に、あの時の父の発言。
“泣いて俺に謝ってきた…怪我を負わせたと……”
彼女も酷い精神状態に陥り、仕事を休んでいた。
接触が無いのは、恐らく父の指示だろう。
少し考えるだけで、気持ちよりも先に体が反応する。
手の震えから、動悸を呼び起こす流れに変わる。
それは圧倒的に、これまでにない程の強い怒りと焦燥によるものだった。
この場は、とうとう自分独りだけになっている。
従業員の荷物も、住居も空だ。
治験モニター中だった被験者達の契約終了サインも、全て集められていた。
誰もいない。
その空間を直接肌で感じた瞬間、走馬灯の如くこれまでの出来事が流れていった。
(……皆…消した……俺が…)
恐ろしく静かな研究所に、背中から一気に肌が粟立つ。
これから、ここを手放す。
ヘンリーは、鋭く空間を睨め上げた。
そこへ
(……熱…?)
意識はふと、ある記憶に移り始める。
瞬間的だったが、切断部分がかなり熱されたような感覚を思い出した。
それは一体、何によるものなのか。
どこにでもある光から連想する事が難しく、ひとまず、シャルと祖父の書斎を調べる事にした。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




