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#08. Reboot 脱出 [7]
「残念だったが……無事でよかった……
お前も…彼女も……」
(……もう……喋るなよ……)
右手は、空のナップザックを掴んだ。
余所見をしていた祖父は、窶れた顔を再び向ける。
「歩幅を合わせるのは…悪い事じゃない……
沢山…接点を持てば……
その人がどういう者か…分かる……
上手く…折り合いをつけられる…関係が…
生まれる……
時間をかけてだ……」
急に、辺りが祖父の声以外に何も聞こえなくなった。
動悸すら消え、ヘンリーはまた、固まってしまう。
疼く全身の痛み。
それは、目だけを震わせていた。
「生きてりゃ…色々ある……
その度…振り返るんだ……
そうすればきっと…同じような事も…無くなる……」
「………そう……かな…」
(そうかよ…じいちゃん……そうなのか……)
そっと、冷たい何かが左頬を伝った。
何かと小さく身が痙攣し、下を向くと、それはジャケットに染みて消える。
咄嗟に顔に触れた左手は上手く動かず、当然感覚が無い。
違和感しかなく、慌てて右手に切り替え、それを拭った。
これまで散々な事続きだった。
とは言え、涙こそ流した事はない。
今この時点で初めて、一滴が左目から零れ落ちた。
その顔を見せまいと、言葉を探る。
「あ…りがとう……そうするよ…!」
祖父は、大層柔らかい笑顔を浮かべ、細くなった手を差し伸べた。
ヘンリーは強くそれを握り、笑ってやる。
祖父はそれが嬉しそうで、安堵しているようだった。
(……これで…いいか…)
いいのだろう。
そういう事に、しておく。
その数日後、祖父は亡くなった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




