[6] 1000.
MECHANICAL CITY
#10. Tracking 再回収 [13]
#12. Complete 細胞の記憶 [22]
奥の方で、ドアの開閉音がする。
独り待ちぼうけする中、気づいた。
香りが立ち込めるのだが、随分と強い。
混ざり合うというより、1つが主張しているように感じた。
彼女は、それに気づく事ができない。
先程の彼等も同様だ。
それも抜け落ちていたと知った途端、彼の目は見開かれていった。
1分程経ち、裏から彼女が現れる。
手にしていたのは、水が注がれたグラスに揺れる、1輪の花。
「白にした。
黒い格好が多いし、暗い所によくいる。
白は、明るくしてくれる。あげる」
彼はそっと首を傾げ、受け取った。
街灯と部屋からの僅かな電球色を受けた、グラスと水。
緩やかな光が揺れるそこを、じっと眺めた。
「…………何だ…」
「ジニア。長く咲くの。半年くらい。
そこから言葉の意味がきてる。
時が経つ毎に、会えない人への想いが強くなる。
長い時間が経つ事で、注意が薄れてしまう事が出てくる。
だから、それを呼びかけるような意味がある。
不在の友を思う、貴方の不在を悲しむ、って意味もある。
私、友達から遠ざかってしまった。
彼女もまた、私から遠ざかってしまった。
ここにも、誰かから遠ざかって悲しむ人がいると思う。
時々見かける顔から、そう思う。
注意を怠らないでって意味は、まるでドクターでしょ?」
闇に揺れる白い花。
幾重にも重なる細い花弁。
茎も太く、確かに丈夫なように見える。
グラスの角度を変えながら、彼はじっと眺めていた。
「いつも何かを考えてる。ずっと遠くを見ながら。
そこを見て話したり、決断をする。
たまには、今にゆっくり浸ってもいいものよ。
毎日、緊張して注意をしているから。
甘える事は、悪い事じゃない。
ここでだけは、許される。
皆に、そんな事をドクターは言っていた時がある。
ドクターだって、同じであっていい。
皆、そう願ってるみたいよ」
彼は、ただ静かに目を落とすだけだった。
手の振動で揺れる水と花に、一点集中している。
そこでふと巡り始めたのは、補佐2人や部下達との出会い当初。
どれも笑えない。
自分も含めて皆、向こうの世界に対し、理解を求める事はないだろう。
しかしもう少しだけ、限られたここで生きていて良しとされるならば
「……………笑…え……俺が……許す……から…」
そんな事をたった1度、出会った時に言った。
「そう言えばドクター、皆が分からない事があるのよ。
分からないながらも、覚えておくようにしてる事」
彼は緊張の目を浮かべ、身構えるように彼女を振り返る。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。