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#08. Reboot 脱出 [7]
祖父の病院は近い。
ヘンリーは中に入るとナップザックを開き、見るに堪えない大嫌いなそれを適当に填める。
目にするだけで吐き気がするのを我慢しながら、病室へ向かった。
静かにドアを開けると祖父は起きており、こちらをゆっくり振り向く。
痩せ細り、別人のようになった姿を見て、ヘンリーの怒りは一気に静まっていった。
祖父は、手だけで傍の椅子を差す。
「見ろよ…このザマだ…笑えるだろう……」
しばらく棒立ちのまま祖父を眺め、空になった鞄を床に下ろし、腰掛けた。
「お前…また痩せたか…
俺と同じじゃ…いかんぞ……若いのに…」
こういう時に見せるべき顔が、分からない。
それに少々苛つきながら、しかし表には出さないよう、目を少し伏せ、無理矢理口元だけで笑う。
「別に。元気だよ」
「………聞いてるぞ…」
その発言に、何とか作った顔が一気に崩れる。
何を聞いていると言うのか。
恐怖が増し、鼓動が体中に響く。
「……厳し…かったか…?」
(……止めろ…)
今は耐えろ。
大腿の上で、右手は拳に変わる。
だが、震わせやしない。
「いや?
何だよ!何とかするさ!何とかできるよ!
トップはそういうものだろう?ははっ!」
仮に研究所を閉鎖する事を知っているならば、何とか立ち上げ直してみせると安心させたかった。
手が無い事を知るならば、どうって事ないと見せてやろうと思った。
だが
「お前は昔から…よく考える…
誰よりも先に得て…越える……」
どこか遠くを見ながら話す祖父が、怖くなってきた。
「良いさ…良いんだがな……
連れてってやれ…皆も……」
そんな事、本にも書いていて知っている。
散々、知っているのだ。
「いつだったか…お前の発想を聞いて…思った……
お前は…
生まれるのが…早過ぎたのかもしれんな……と…」
隠していた震えは抑えきれず、背後にそっと手を回す。
目はまた、左右し始める。
今の精神状態で、聞きたくなかった。
もっと未来で生まれていたらと自分で思う事があっても、わざわざ肉声で聞きたくはなかった。
それも
(………じいちゃん…何で…?)
祖父はただ、孫を見て未来的に思えた。
新しい技術を取り入れながら、新しい事へ向かっていこうとする。
独特な考えを生み、時に一方的に意見する面があった幼少期。
それは大人を驚かせるものがあり、少々困る部分でもあった。
成長するにつれ、それは変わると思っていた。
「怪我は…どうなんだ…?」
闘病中の彼に、一体どこまで話しているというのだ。
ヘンリーは呆れ、つい、乾いた笑みが零れる。
何故、こう何もかも筒抜けになってしまうのだ。
父しかいない。
自分の息子が、自分の父の跡継ぎに失敗し、更には警察沙汰になった。
処理をするのに、話さない訳にはいかなかったという事か。
「もう…何ともない…」
(…帰って…いいか……帰る…帰るよ…)
勝手に椅子が後方に引かれる。
足は、今にも立ち上がろうと動き出していた。
まるで、祖父から逃げようと必死になっている。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




