[4] 1320.
#05. Error 誤搬送 [4]
#13. Data processing [5]
秋風がレースカーテンを靡かせた。
そこは、酷い光景である。
床に散らばる紙屑の量に、レイシャは眉を顰めた。
1つ手に取り、広げてみる。
(……凄い字…方程式?……何でこんなに…)
まるで幼児が書いたようだ。
字が一切安定しない式が、数枚に渡って細かく書き詰められていた。
散らかった床に、更に目を這わせていく。
棚にも床にも、本が沢山あった。
船舶や海洋生物にまつわるもの。
医療薬品や、人体、人の心理に関係するもの。
かと思えば、工業技術という文字も飛び込む。
人に関するものは、比較的新しいようだ。
どれもしっかりと触れているのが分かる。
中には色褪せ、朽ちた箇所がかなり目立っていた。
再び彼に視線を向ける。
ふと、右手付近に目がいくと、本が伏せてあった。
落ちたのだろうか。
拾い上げ、折れ曲がったページを戻し、閉じようとする手前
(……リーダー…シップ…?)
表紙から目次にざっと目を通す。
それは、チームや多くの集団を率いる立場に就く者に向けて、必要な知識やアドバイスが大量に纏まっているものだと直ぐに分かった。
職業が何かを聞いた事はないが、見るからにまだ若い。
自分よりも少々上か、同じくらいにも見える彼。
なのに、既に何処かでトップを務めているのか。
じっとその寝顔を見ながら想像する。
嘸かし気持ちよさそうに眠る彼に、自然と近づいていく。
心地よさそうな寝顔なのだが、恐怖も感じた。
まるで、どこか遺体を思わせる表情をしている。
夢の中が安らぐのだろうか。
どこか幼さも含む、柔らかな顔だった。
そのまま、奇妙な様子を捉える。
左袖から手が出ていない。
右だけ通して、左だけ通していないのか。
実に不思議な着用の仕方である。
左袖は膨らみを持たず、だらけた黒のシャツジャケット。
彼女はそっと、内側を覗こうとシャツの前の端を摘んだ。
だが、彼が動いた事で咄嗟にその手が引っ込む。
彼は若干表情を歪めると、また元の寝顔に戻った。
つい、左に傾いたその顔にそっと手を伸ばす。
「………?」
頬に指先が触れたかどうかのところで、彼は微かに痙攣し、薄目を開いた。
ぼやけた視界の中、徐々に視線を泳がせ、レイシャを捉える。
信じられない光景に、ジワジワと目を見開いていった。
レイシャは彼の瞳に食いついている。
その目は、レースカーテンから差し込む陽光を受け、ブルーブラックを見せていた。
彼は動揺していた。
何故ここに彼女がいるのかと、大きなグレーの目を凝視する。
色々とあり過ぎて、彼女の事がすっかり抜け落ちていた。
驚きのあまり、背をフットボードから離して顔を近づける。
他の誰でもない、自分を殆ど知らない他人である彼女が、来てくれたというのか。
「………何…でだ…?」
来て、くれたのか。
利き手は自然と彼女に触れようとするが
「!?」
身は瞬時に凍てつき、青褪める。
こんな自然な動作をする事も、できないと言うのか。
何もかもを、これまで通りに触れられない。
雪崩の如く表情を一変させ、眼振を見せ始める彼に、レイシャは動揺する。
「ねぇ…」
急に息を立て、怯え始める彼からは、徐々に怒りのようなものも感じた。
訳を知りたく、両手を頬に伸ばして顔を上げさせようとした時
「ヘンリー」
「「!?」」
下から声がした。
彼はそれにゾッとし、激しくドアを向く。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




