[1] 1370.
#08. Reboot 脱出 [7]
#11. Almost done 実行 [12]
医師の話も、父の話も、一切入ってこない。
自分の身に起きた事が殆ど記憶に無く、ただただ現状に対する多くの疑問が、脳内で錯乱していた。
丸2日寝込み、やっと気がついたキッカケが、全身の激痛。
痛みばかりが続く夢に魘され、目が覚めた。
上体を起こしていても疼き、体内から全身に渡って響く。
右手には、ガラス片による軽症が僅かに点在していた。
特に上半身が痛く、動悸も止まらない。
そして、吐き気は真っ直ぐ胃から喉を突き上げ、堪えきれずもどした。
左腕が無い事に、混乱が治まらない。
悪天候により搬送が遅れ、その分手術も遅れた。
切断口の都合から、再建手術が叶わなくなった。
脇のテーブルには、生々しい左腕が寝そべる。
見た目に違和感があるそれは、人工のもの。
意味不明な機械と配線が、装着口と思われる部分から伸びている。
院内の作業療法士と理学療法士が、サンプルとして準備した義手。
その画が余計に胃を刺激した。
声が出ない。
周囲は何かを言っているのだが、動悸が体内に響き渡り、聞こえない。
聞く気にもなれない。
顔も上げられず、俯いたまま窓の外に鋭い目を向ける。
レースカーテンがかかるそこからは、要らぬ陽光が差し込んでいた。
眩しくて、そっと目を閉じる。
瞼の裏で、断片的に記憶が浮かび上がる。
白い光。
一瞬にして、消灯したままだった暗い部屋が、白く塗り替えられた。
火傷するような熱さを、利き手にだけ感じた。
「ヘンリー」
髪の下で、虚ろな目が開く。
病院の臭い、患者服、包帯の手。
それらが、グラグラと眩暈を引き起こす。
それに被さるように、父が右肩を掴んで揺らした。
「っ!」
痛い。
咄嗟に大きく振り払い、息が漏れた。
妙な汗が滲み、見られたくなく、可能な限り右に体を捻り、そこにいる人間を視界から消した。
「………落ち着いたら、リハビリの話を聞け。
後、お前の持ち場だが、クローズしてある。
関係各所への通達はシャルと俺がしてる。
お前は、自分を整える事に集中しろ」
彼はそう言って、医師と部屋を出た。
看護師が何かを言ったようだが、それも聞こえなかった。
やっと、その場が静かになる。
全身が震え始めた。
誰もいなくなった事で、やっと自分でいられると体が安心しているのか。
怯えを訴える右手は、悶える心臓を掴むように、勝手に胸に伸びる。
眼振が酷く、反射的に左腕が動き、その目を覆おうとした。
「っ!」
利き手が無い。
自然と動いた事による痛みよりも、その現実が痛く、声が零れた。
「………えっ……せっ……」
真っ白な光が見えた先に、僅かだが、確かに窺えたシャルの顔。
思い出すだけでまた、全身が疼く。
熱が、左肩から肘下の切断部分に流れるように刺激する。
触れたくもない。
しかし、右手はそこの痛みを抑えようと自然に患部を掴む。
その内、薬指と小指が空気を握った。
「!?」
恐ろしくてならなかった。
その2本指の動きが、手が無い事を強調する。
「……かえ……せ……」
喉が痛い。
その原因もまた、分からなかった。
体中を巡る痛みが和らぐ事はなく、発熱し、病院生活はそこから2週間続く。
その間に1度、父が顔を見せたが、その日も何も言葉を交わさなかった。
目すら合わせず、耳だけを仕方なく貸すと、退院の日が知らされる。
石のように動かない息子を見ても、別の言葉をかける様子はない。
間を置けば、義手の作製に向けての話をしに、作業療法士を訪れるように言うだけだった。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




