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#08. Reboot 脱出 [7]

#11. Almost done 実行 [12]






 医師の話も、父の話も、一切入ってこない。

自分の身に起きた事が殆ど記憶に無く、ただただ現状に対する多くの疑問が、脳内で錯乱していた。




 丸2日寝込み、やっと気がついたキッカケが、全身の激痛。

痛みばかりが続く夢に(うな)され、目が覚めた。

上体を起こしていても疼き、体内から全身に渡って響く。

右手には、ガラス片による軽症が僅かに点在していた。

特に上半身が痛く、動悸も止まらない。




 そして、吐き気は真っ直ぐ胃から喉を突き上げ、堪えきれずもどした。

左腕が無い事に、混乱が治まらない。






 悪天候により搬送が遅れ、その分手術も遅れた。

切断口の都合から、再建手術が叶わなくなった。




 脇のテーブルには、生々しい左腕が寝そべる。

見た目に違和感があるそれは、人工のもの。

意味不明な機械と配線が、装着口と思われる部分から伸びている。

院内の作業療法士と理学療法士が、サンプルとして準備した義手。

その()が余計に胃を刺激した。




 声が出ない。

周囲は何かを言っているのだが、動悸が体内に響き渡り、聞こえない。

聞く気にもなれない。

顔も上げられず、俯いたまま窓の外に鋭い目を向ける。




 レースカーテンがかかるそこからは、要らぬ陽光が差し込んでいた。

眩しくて、そっと目を閉じる。

瞼の裏で、断片的に記憶が浮かび上がる。






 白い光。

一瞬にして、消灯したままだった暗い部屋が、白く塗り替えられた。

火傷するような熱さを、利き手にだけ感じた。






「ヘンリー」




髪の下で、虚ろな目が開く。

病院の臭い、患者服、包帯の手。

それらが、グラグラと眩暈を引き起こす。

それに被さるように、父が右肩を掴んで揺らした。




「っ!」




痛い。

咄嗟に大きく振り払い、息が漏れた。

妙な汗が滲み、見られたくなく、可能な限り右に体を捻り、そこにいる人間を視界から消した。




「………落ち着いたら、リハビリの話を聞け。

後、お前の持ち場だが、クローズしてある。

関係各所への通達はシャルと俺がしてる。

お前は、自分を整える事に集中しろ」




彼はそう言って、医師と部屋を出た。

看護師が何かを言ったようだが、それも聞こえなかった。






 やっと、その場が静かになる。

全身が震え始めた。

誰もいなくなった事で、やっと自分でいられると体が安心しているのか。

怯えを訴える右手は、悶える心臓を掴むように、勝手に胸に伸びる。

眼振が酷く、反射的に左腕が動き、その目を覆おうとした。




「っ!」




利き手が無い。

自然と動いた事による痛みよりも、その現実が痛く、声が零れた。




「………えっ……せっ……」




真っ白な光が見えた先に、僅かだが、確かに窺えたシャルの顔。

思い出すだけでまた、全身が疼く。

熱が、左肩から肘下の切断部分に流れるように刺激する。

触れたくもない。

しかし、右手はそこの痛みを抑えようと自然に患部を掴む。

その内、薬指と小指が空気を握った。




「!?」




恐ろしくてならなかった。

その2本指の動きが、手が無い事を強調する。




「……かえ……せ……」




喉が痛い。

その原因もまた、分からなかった。






 体中を巡る痛みが和らぐ事はなく、発熱し、病院生活はそこから2週間続く。

その間に1度、父が顔を見せたが、その日も何も言葉を交わさなかった。

目すら合わせず、耳だけを仕方なく貸すと、退院の日が知らされる。

石のように動かない息子を見ても、別の言葉をかける様子はない。

間を置けば、義手の作製に向けての話をしに、作業療法士を訪れるように言うだけだった。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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