[3] 1220.
思い出すだけでも腹立たしい。
ベッドに突っ伏していたところ、怒りと悔いに立ち上がり、窓辺に移る。
激しくガラスを叩きつける雨。
外との温度差で、内側は僅かに曇り始めていた。
レイシャは窓を激しく叩くと、濡らし続ける光景に目を向ける。
時に雷が彼女を白く照らすが、微動だにしない。
心は未だ、あの瞬間にいる。
怒りが滾り、空間を破ろうとする稲妻など目につかない。
レアールは、転倒による外傷はなかった。
しかし、ショーそのものと精神への影響は大きかった。
流れが一時止まり、ステージに僅かだが乱れが生じた。
だが彼女は早々に立ち上がり、最後まで凛とした姿を維持したまま、颯爽と捌けた。
その後、持ち堪えられず袖で泣き崩れてしまう。
慰める手が伸びる一方、白い目も鋭く浴びせられた。
振り向かずとも感じる。
次に聞こえるのはどうせ、嫌な声だろう。
乱暴に髪を下ろし、大きく首を振っては顔を覆うと、耳を塞ぐ。
(嫌嫌嫌っ!)
分かっている。できなかった。
だから何も言わないで。
暗い袖で身震いしながら、彼女は切に願った。
大仕事が終わり、心配でならないレイシャは、関係者が使用する通路へ駆け寄る。
誰でも良かった。
彼女の容態を、すぐに確認したかった。
しかし話しかけた誰もが、彼女に直接的な関わりを持たない来場者。
マネージャーでも誰でもいい、誰かいないのかと焦った。
携帯に出る訳がないと知りながらも、着信とテキストだけは残す。
次々と客は出て行くが、何か言われるまで残り続けた。
袖と、会場の端に集まるスタッフに耳を攲てる。
知らない名前ばかりが微かに聞こえてくる。
間では日程や場所の話。
カメラという単語や、新人と言っているのも聞き取れた。
何か知らないだろうか。
レイシャは自然と、そこへ近づいていく。
「あの、レアール・キャンベルは大丈夫ですか?
友達なんですが…」
「………一般の方?
なら、もう出てもらわないと」
「転倒したから気になって。
何か知りませんか?心配で…」
「直ぐ移動だから、その段取りで今は忙しくしてるでしょうね。
残念だけど、対面はできないの」
レイシャは落ち着かないまま、会場を後にした。
帰る気になどなれず、裏口はないかと探し回る。
すると、数台のワゴン車が目に留まった。
彼女は察し、そこに近づく。
しばらく待つと、モデルと思われる背の高い人達が、次々と私服姿で現れた。
ネームタグを下げるスーツの者は、マネージャーだろうか。
ワゴンの入り口に立ち、何かを言いながら彼等を誘導している。
そこへ小耳に挟んでしまった。
「病み上がりだからよ。
歩き方最悪だったじゃない、ねぇ?」
「激痩せし過ぎじゃない?
ああもメンタル弱いなら、もう潮時ね」
「ちょっと!」
「「!?」」
突如現れたレイシャに、彼等は少々引いて焦っている。
心臓は今にも張り裂けそうになっていた。
体は熱く、手と顔が痙攣している。
気づけば、彼等に接近していた。
レアールが不調になって以降、彼女を取り巻くここの人間や環境を良く思う事は、すっかりなくなっていた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




