[1] 1660.
#06. Please wait 決定 [14]
豪雨の晩。
真っ暗闇の冷え切った部屋には、窓を叩きつける雨音だけが響く。
レイシャは、出先からそのままの格好で、ベッドに突っ伏していた。
ロボットを動かす彼の姿を見ない日々が続く中、レアールがランウェイに立つ仕事が決まり、2人で喜びに溢れていた。
お陰で少し、彼を見なくなった寂しさは拭われていた。
この日中は穏やかな天気で、2人にとって、気合を入れるには十分な日だった。
久し振りに、格好いい友人の姿が見られる。
レイシャは録画を頼まれており、ビデオカメラを握って席に着いていた。
ステージ脇には、多くのカメラマンとファッション業界のスタッフ達。
デザイナーや編集者、演出家も多く揃っている。
お陰で複数列に並び、友人であるレイシャはずっと離れているが、それでもまだ、近くで見届けられる位置である。
ステージ上手側、先端までしっかり捉えられる。
ウォーキングからポージング全てを収められるので、十分な位置だ。
開始と同時に、その場は瞬時、ダークチェンジする。
徐々に浮き上がる白い路。
それはまるで、夜に浮かぶ光の橋を思わせる。
ステップを合わせやすい音楽が、重低音と共に鳴り始めた。
レイシャはカメラを肘で固定し、肉眼で、瞬きなしにそこを凝視する。
3人、4人と、流れるように似た体系をした女性、男性が交互に颯爽と現れた。
彼等が着用しているのは、既に春物。
中にはカジュアルドレスも混ざる。
秋に入ったところだというのに、この世界に流れる時間は実に忙しない。
当然なのだろうが、レイシャはしみじみ感じてしまう。
服の宣伝もだが、生地の質やデザインを見せる為、それなりの演技力が重要になる。
久し振りにこの仕事が決まって以来、やる気に満ち、熱くなっていたレアール。
体作りを怠らず、体調も念入りに整え、前向きに過ごしていた。
レイシャは目の前の独特な世界を見ながら、ふとした会話を思い出す。
………
……
…
…
……
………
「エゴサーチなんてしないでよ。
変なものが目につく」
「死んでいなくなれば精々するってやつ?」
レアールは悪戯に笑って言うのだが、レイシャは表情を一変して怒鳴る。
「ちょっと!思い出させないでよ!」
以前にブログ上で見つけた書き込みを、今やレアールは笑っている。
沢山の妬みを買いやすいのもまた、この世界で働く上での特徴だった。
とは言え、先程の言葉を目にした当時、レイシャは激怒した。
本人を上回る勢いで泣きながら、事務所に電話をさせろと言ったところ、レアールに宥められた。
「トレンドの変化は目まぐるしい……
醜いものは勿論、ユニークでないものも次々排除されるのよ……」
「あんたはそんなんじゃないでしょうがっ…
皆…急に掌返しすぎなのよっ!」
「そういう世界よ……
だから、言ったでしょう…新しい事を考えつく貴方が、羨ましいって。
だって、新たな思考を引っ提げて挑まない限り、生き残れやしないんだから……
掛けられる篩に残れるように、頑張る……
貴方が、頑張るみたいにね…」
静かに語りながらも、彼女は間を空けてからウィンクした。
この日はストレス発散に通う、キックボクシングを通じたエクササイズ。
一汗かいた後の彼女のボディには、体作りの効果が出ていた。
思い出したくない事を口にしながらも、強い意思がそこにはあった。
「まぁでも。私だって腹が立つわよ。
奴等が攻撃するならば、私だってやり返してやりたいところねぇ」
首にかけていたタオルを、乱暴に音を立てながら取る。
「この間、色々忘れたくてアクション映画を観たの。
彼等はいいわねぇ。
私も、あんな風に戦って、嫌な奴をとことんブチのめしてやりたいところだわ……
そう…とことんね……」
珍しい様子を見せる彼女を、ただ黙って眺めていた。
僅かだが、苛立ちが鋭い目に滲んでいるのが分かる。
恨めしい。そうだろう。
そして、彼女は相変わらず言う。
「でも…でも私は弱い……
ねぇレイシャ…貴方はいつか……
私を綺麗に…強くしてくれるかしらねぇ……
心も……体も……」
「だからっ!何なのよそれっ!」
「…………あはははっ!」
悪戯な表情で、彼女は明るく笑った。
………
……
…
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




