表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/145

[5]          1840.



#08. Reboot 脱出 [7]






 ヘンリーにみるみる怒りが滾り、背後の拘束を激しく解こうとする。

瞼を失い、瞳孔が開いた目は血走っていた。

ただただ放せと怒り狂う。

異常な力は上体から大きく起き上がり始め、背後から掴みかかる誰かを押しやろうと必死だ。

そんな中、目だけがシャルに向けられている。




「ヘンリー止まれ!落ち着け!戻ってこい!」




誰かの声は、聞こえない。

ヘンリーは彼女に接近しようと、足を前進させる。

しかし、背後の者が透かさず片足を掛け、動きを固定した。

駆けつけている警備員すら抑制に苦労している状況に、シャルは震えて咄嗟に端のコンピューターデスクまで走る。






 そこへ、別の研究室にいた部下2人が現れた。




「来るな!危険だ!応援呼んでくれ!」




警備員に彼等は頷き、立ち去る。






 危険だ。

そのワードは、ヘンリーを更に逆上させる。

揺れる視界はスローモーションを思わせた。

シャルに焦点を当てたまま、息だけがみるみる上がる。

音は、今にも胸を突き破る程の激しい鼓動のみ。

そして全身を急速に流れる、激痛。




「…殺っ…すっ…」



「ヘンリー落ち着け!馬鹿な事するな!」



“この馬鹿が!何してる!?”




父の怒鳴り声が瞬時に過る。

弟に掴みかかったあの夜に言われた、馬鹿というワード。






 何かが頭で切れた。

凄まじい怒りと憎しみの力により、背後で掴まれた腕は遂に解放される。

ヘンリーの常軌を逸した行動に、放たれた警備員は圧倒されるが、その先の光景を見て目を剥き、慌てて怒鳴った。




「止せシャル!下げろ!」



「貴様死ねよ!なあああ!」




彼女に飛びかかろうとする豹変したヘンリーは、咄嗟に右腕を掴まれ、前進を阻止される。

それが更なる焦燥を呼び、足に散らばる破片の山を、シャルに向けて蹴り飛ばした。




 悲鳴が上がるそこには、飛び散った破片の光に混ざって浮かぶ、銃口。

ヘンリーは今にも彼女を殺そうと、その顔にフォーカスしている。

部屋には脅迫する声が雨の如く降り注いだ。






 シャルは、異常になるヘンリーから殺意を感じてならなかった。

警備員にまで抗って暴れる彼に恐怖し、防衛反応が働いてしまう。




 特殊な銃口を持つ黒いピストルを、震えながら彼に向けている。

ヘンリーは警備員の腕を振り解こうと、尋常でない力を振り絞りながらシャルに接近していく。

左腕で宙を引っ掻き、襲い掛かろうとする彼から逃げるべく、彼女は壁に背がつくまで引き下がる。




「お…大人しくっ…しなさいっ…ヘンリっ!

そ…そんな事っ…したってっ…何の



「黙れええええ!」




未だ零れ出る声がうざったく、掻き消すように再び怒鳴り散らす。

彼女も被さるように悲鳴を上げ、震えが増した。






 ヘンリーは警備員に更に右腕を引っ張られ、そこから激痛が走る。

しかしその痛みを他所に、彼女に掴みかかろうと左手を伸ばし続けた。




届いてしまう。

そうなれば、確実に殺してしまうだろう。




警備員は2人を接触させまいと、ヘンリーの襟首を掴み、手前に大きく引いた。

前傾になっていた彼は背後に引かれ、解放されていた左腕はバランスを取ろうと真横に伸びる。

それに合わさるように、部屋が瞬時、真っ白な光に覆われた。




挿絵(By みてみん)




やっと駆けつけた救援と部下は、あまりの眩しさに目を伏せ、よろける。








 光の間が生まれたのは寸秒だった。

その僅かな間にヘンリーは、継続的に受けていた全身の激痛の他、熱を感じた。




 全員が立ち眩み、警備員と共に彼は倒れる。

しかし、何か妙な感覚だった。

立ち眩みによる転倒だけなのか。

急に、左半身が軽く感じ、右側に大きくバランスを崩した気がした。






 事態が治まり、その場に昼白色の照明が灯る。

ヘンリーは、急に飛び込んだ眩しい光に目を瞬時に閉じた。

何が起きていたのか分からない。

未だ酷く揺れる視界に吐きそうになるのを抑え、意識的に首を少し持ち上げた。




「おい!しっかりしろ!ヘンリー!」



「はっ…」




シャルの声が途切れる。

部下達は救護隊を呼べと騒ぎ立てる。






 定まらない視界に見える、自分の足先。

その向こうに、誰かの手が見える。

目だけでその周辺を探っても、誰の手かは分からない。

誰かが倒れているのではないのか。




「しっかりしろ!すぐ病院へ連れてく!」



(………ビル…?)




今日は彼が勤務していたのかと、上体を起こすため、更に首を持ち上げ、床に手をつこうとする。

そこで、左半身に違和感がある事に気づき、目を向けた。




「…………?」




目は徐々に見開き、激しい眼振が起こる。

捉えた光景に、首をジワジワと傾げた。






 左腕が、無い。






 飛び込むのは夥しい出血量。

顔は一気に青褪め、声を失い、震える唇は酸素を求める。

ヘンリーはそのまま、気を失った。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ