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 そこへ、かなり大きなノックが鳴り響く。

肩を跳ね上げ振り向くと、シャルが焦燥交じりに呆れた顔をして立っていた。

まるで何度も叩いていると言いたげに、ドアにはまだ拳がつけられている。




「今度は何なの?

こここそ、急がなくていいわよ。

アルフがいなくなってから、倉庫のような状態だけど」




まだ、ヘンリーは何も言っていない。

なのに彼女は、鋭い目を向けていた。

どうして嗅ぎつけられたのか。

彼女もまた、同じように何かを解消したくて来たのだろうか。

理由はどうあれ、兎に角その態度が受け入れ難い。

彼の目つきもまた、変わっていく。




「本当は仕切りたかったんじゃないのか。

何でじいちゃんにそう言わなかったんだよ」




「別に彼の選択にとやかく言わないわ。

だけど、彼と共に守ってきたものを崩されたくないだけ。

私だって、長でないにしてもここを貴方と共に任せると、貴方を頼むと、言われた身なの。

何だかんだまだ、世話がかかるものね」




彼女はそっと部屋に入ってくると、1段分が空になったステンレス棚から、中央のデスクに積まれたファイルに目をやる。

これまで開発してきた薬品の資料と、治験モニターを終えた後のデータだった。




「俺がまだ…餓鬼に見えるのか…あんたは………

笑わせんなっ…

シッターの役目はとっくに終わってるぞっ……」




気づけばヘンリーは席を立ち、声と手を震わせていた。

落ち着け、ただの啀み合いだと、みるみる引き起こる動悸を抑えていく。




「そういうところよ。放っておけないのは。

勘違いして突っ走るわよね?



 ところでお悩みを聞いてもらえないかしら?

社長さん。



 今日また一人、辞めたいって相談されたのよ。

私の次にアルフが評価していたやり手の人。

これは痛手でならないわ。

彼は優しいから、世代交代だって貴方を応援するような事を並べ立てていたけど、違う。

聞いた話の中に混ざるのは、新しい事が難しく、上手く馴染めなくて以前程自信を持てない、と。



 ねぇ?

貴方はチームをどこへやろうとしてるのかしら?

まさか元のチームを一掃して、例のロボットだらけにしようとかそういう事なの?

それが果たして、利益を生む事に繋がるのかしら?」




(違う……)




彼女は呆れ顔で鼻で笑うと、何も言わない彼を横に一冊手に取り、棚に戻した。




「彼等は順応できると貴方は言ったけど、その彼等がお手上げだと言ってる。

いい加減、部下の声を聞いたらどうなのかしら?」




徐々に強まる、腹を立てている口調。






 彼の視界は突如、揺れ始めた。

次第にそこは、砂嵐のような細かい点滅を見せ始める。

目前の彼女の画が、赤だの黒だのと妙な色で歪んでいく。




(…喋…るな……)




「誰もついてこない。

これ、まるで変わってないじゃない。昔から」




足が勝手に、少しずつ彼女に前進していく。

彼女はそれを、ただ彼が近づいて話しをしようとしていると捉えているのか。

呆れる眼差しを浮かべる顔は、心でヘンリーを見下している様子も窺わせる。




(知った…口……叩くなよ……)




「だから言ってきたのよ。

人と接する事をしなさいって」




彼女は、彼の学校生活の中身を碌に知らない。

彼もまた、話す事をしなかったのだが、聞いてくれる事もなかった。

誰もだ。




(もう…いい……もう…黙れ……)




「アルフやノーランがする仕事の世界に、足を踏み入れるのならば、尚の事、とね」




腹立たしい事に、今でも根付いている。

考えなかった事など、一度も無い。

誰かの事を、人そのものの事を、彼女に言われて嫌々決心して意識し、ここまできている。

それを、分かっていない。

彼の手は、そっとそこの一冊に伸びて、掴んだ。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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